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ハリーside

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「シャーロット嬢、この度は婚約を受け入れてくれてありがとう。」

 婚約後の顔合わせ当日。あれから、どうにか俺とシャーロットの婚約を了承してもらい、ようやくシャーロットに会うことができた。久しぶりに会うシャーロットは、一層美しくなっていた。俺が渡したスズランの花束を抱き締め微笑む姿は、可憐で目が離せなかった。


 シャーロットに目を奪われてばかりだったが、公爵家の庭を案内されている時、シャーロットの口から驚かされる言葉が飛び出てきた。

「私の父が、何かハリー様やラッセル伯爵へ無茶な条件を言ったのではないでしょうか。ハリー様へ何かご迷惑をお掛けしているのではないでしょうか。」

「な・・・」

「ハリー様、正直に仰ってください。父が無理難題言っているのであれば、私が解決します。何でも致します。ですので、どうか教えてください。」


 思わず、動揺してしまったのは、俺の失態だった。だが、公爵が俺にを言ったのは事実だったのだ。

◇◇◇

「婚約は了承しよう。今、シャーロットを守れる者で、ハリー殿以上の適任はいない、とは思う。」

 あの日、公爵は苦々しい顔をしながら、そう言った。

「ありがとうございます。必ず幸せに致します。」

「だが、条件がある。」

「は・・・はい。」

 公爵の恐ろしい顔を見て、いったいどんな過酷な条件なのかと震え上がった。

「まず、ハリー殿が昔からシャーロットを思っていたことは俺からは伝えない。自分でシャーロットを口説き落とすように。口説けずに、シャーロットが君との婚約を嫌がるようならすぐにでもこの話は無しだ。」

「はい。」

「次に、婚約期間中、スキンシップは無し!エスコート以外触るな!適度に距離を保て!」

「・・・え。」

 急に乱心した公爵に戸惑いを隠せなかった。一つ目は理解できた。自分から思いを伝えたいと思っていたし、シャーロットの思いを優先したいとも思っていた。だが、二つ目は。

「え~今時婚前交渉も普通でしょ?ハワードは固いなぁ。」

「こっ婚前交渉だと・・・!駄目だ!絶対許さない!」

「婚前交渉は言いすぎたけどさ~ハワードはさ、口説けとか言ってる癖に、スキンシップ無しは厳しすぎない?ハワードは、夫人と結婚する前は多少スキンシップもしていたでしょ?手を繋いだり、抱き締めたり?」

「いや、俺は一切スキンシップはしなかった。婚約期間は、言葉だけで口説いた。」

「えぇ~堅物だなぁ。俺はがっつり婚前交渉までしてたけどなぁ。」

「お前・・・。」

 親世代の閨事情は精神的なダメージがあったが、とにかく俺は公爵と二つの条件の元、婚約を了承してもらった。


◇◇◇


「何でも・・・いや、シャーロット嬢、君のお父上は何も条件など言っていないよ。安心してほしい。」

「ですが、ハリー様・・・。」

 俺は、こんな言葉で誤魔化せたと思い込んでいた。やっとの思いでシャーロットに会えたことに舞い上がっていて、シャーロットの不安を上手く聞き出すことも、心の憂いを晴らすことも出来なかった。ここで、すぐ昔から愛していた、と伝えられていたら。公爵がシャーロットを大事に思う余りに、スキンシップしないよう厳しく言われている、と伝えていたら。あんなに拗れることはなかったのだろう。
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