上 下
42 / 188
Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね

41. 手は差し伸べられて

しおりを挟む
 

「ミュリエル、大丈夫か」
「事前課題を知らされていなかったって、一体どうしてそんなことに」

 生徒たちが散らばると同時にセーファス様とベイル様が来てくれた。

 事前課題がいつ伝えられたかはわからないが、おそらくそのとき教室に、私もレイラ様もいなかったのだろう。
 クラスメイトたちはわざわざ親しくもない私に教える義理はないと思ったのだろうし、レイラ様にならと思っていても、私に伝わることを嫌った人たちは、レイラ様にも内緒にしてしまえと思ったに違いない。
 さっきのレイラ様の発言からもわかるように、レイラ様は事前課題など必要ないくらい優秀な生徒だから、提出していなくても問題ないと判断したのだろう。

「意図的だったにしろ、そうでなかったにしろ、ひど過ぎるだろう。ここは学び舎だというのに」
「ご心配おかけします、セーファス様、ベイル様。でも、大丈夫です。レイラ様のおかげでなんとか授業受けられるみたいですし――」
「ミュリエル様! 必ずや、私たちに課題を伝えなかった人たち見返しましょう! 私、本気でやりますから、しばらく話しかけないでくださいましね!」

 会話の途中、レイラ様がものすごい剣幕でそう宣言し、そのまま機敏な動きで材料を取りに行ってしまう。

「え、あ、レ、レイラ様!?」

 置いてきぼりをくらって動揺する。レイラ様に簡単な音の構成を教えてもらおうと思っていたのに。
 うー、だからといってセーファス様たちに聞くのはちょっと……ね。

 すでに普段の授業の様子を見ているレイラ様ならともかく、攻略対象である二人には余計な疑念を抱かせたくなかった。家族たちの反応をみるに、ミュリエルは神秘の構成はしっかりと覚えていたようだし、学問全般優秀だったようなのだ。ここで私のダメダメさ加減を二人に知られるのはちょっとまずい気がしていた。


「あ、あの!」

 男子生徒の声がして振り向く。すると、大机一つ分くらい離れた場所に五、六人の男子生徒が緊張した面持ちで立っていた。

「ベ、ベベベベルネーゼ侯爵令嬢! わ、わわ私たちは、あなたのみ、味方、です、から!!!」
「わ、私も!」
「私もだ! 困ったら何でも言ってくれ――あ、く、ください」

 そろいもそろって顔を真っ赤にしていて、驚きも束の間、なんだか私まで照れてしまう。
 きっと同情なのだろうけれど、それでも味方だと言ってもらえたことが嬉しかった。教師やクラスメイトたちのちょっとした嫌がらせくらい耐えて見せようとそう思える。

「ええと、その、ありがとうございます」
「「「はい!」」」
「頑張ってください」
「応援しています」

 そして、脱兎のごとく離れていく。その様子から、よほど勇気を振り絞って声をかけてくれたのだろうとわかる。同時に、どうしてそうまでして私に声をかけてくれたのか、少し不思議だった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。 その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。 だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった── 公爵令嬢のエリーシャは、 この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。 エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。 ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。 (やっと、この日が……!) 待ちに待った発表の時! あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。 憎まれ嫌われてしまったけれど、 これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。 …………そう思っていたのに。 とある“冤罪”を着せられたせいで、 ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...