上 下
37 / 188
Ⅲ ヒロインの宿命?

36. 私はあなたたちの娯楽じゃありません

しおりを挟む
 

「うわっ」

 後ろからドンと強い衝撃を受けた。それによって、出ようとしていた教室のドアに体をぶつける。
 ドゴッ、となかなかの音がした。……そんなに痛くはなかったけど。

「あら、ミュリエル様、いらっしゃいましたの? 気づきませんでしたわ」
「そちらは出入り口ですわよ。そんなところに立ち止まらないでくださる?」
「違うわ、きっと、ミュリエル様はドアの開け方も忘れてしまわれたのよ。アビー、教えて差し上げた方がよろしいのではなくて?」
「まあ! そうね。そうかもしれないわ、ベラ」
「「「うふふふふ」」」

 そう言ってくすくすと笑うご令嬢たち。私はまたか、とうんざりしながら周囲を見回した。
 ぶつかってきたのは伯爵家の仲良し三人組。彼女たちのように、あからさまな態度を見せる人は少ないけど、他の令嬢たちもさりげなく私を避けたり、こういった嫌がらせ見て見ぬふりをしたりしている。
 このクラスだけでいうなら、ほとんどのご令嬢より身分は上だから、上っ面くらい取り繕ってもいいんじゃないかと私なんかは思うんだけど、そういったことはないようだ。

 あれから一週間。教師たちの態度はクラスメイトへも大きな影響を与え、ごらんのように私は孤立していた。最初の数日は一緒に行動していたメリッサさんでさえ、気づけば違うご令嬢と仲良くしているというありさまだ。
 唯一の例外がレイラ様だけど、レイラ様はレイラ様で多忙なので、常に一緒にいられるわけではなかった。


 正直なところ、ちょっと嫌がらせをされたり、陰口を叩かれたりといったことに関しては、イライラとはするけれど、我慢できないわけではない。
 それよりも、特に話しかけて来るでもなく、ただ憐れみの目を向けてくる人たちのほうが辛かった。彼女たちに見られていると思うと、恥ずかしいやら情けないやらで居たたまれなくなる。私の無能さを見せつけられているような気さえした。

「先日の夜会で婚約発表されなかったからどうしたのかしらと思ったけれど……ドアの開け方がわからないほどでしたのね」
「えぇ。これでは、恥ずかしくて婚約者になんてできませんわ」
「セーファス様もお可哀想に」
「留学に行かれたのも、頭が悪――っと、頭があまりよろしくないことを隠すためだったのではないかしら」
「でも……それで、他国に恥を晒されては――リングドルが笑われてしまうわ」
「まったくだわ。けれど、それ以前に、本当に留学に行かれてたのかしらね?」

 途端に二人が動きを止め、その視線を渡しへと向ける。

「「まああ! そういうことでしたのね!?」」

 そういうこと、じゃないっての!

 私は反論したいのを我慢して、きゃっきゃと楽しそうに騒ぐ三人組を後目に教室を出る。
 向かうのはいつも通り図書館だった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。 その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。 だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった── 公爵令嬢のエリーシャは、 この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。 エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。 ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。 (やっと、この日が……!) 待ちに待った発表の時! あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。 憎まれ嫌われてしまったけれど、 これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。 …………そう思っていたのに。 とある“冤罪”を着せられたせいで、 ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

処理中です...