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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?

13. 窮鼠は猫を噛んだ?

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前の話に修正が入っています。
繋がりの関係上、1話前から読んでいただいた方がいいかもしれません。
よろしくお願いします(2019/07/13)

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「ミュリエル。私たちでは力になれないかい?」
「……殿下のおっしゃる通りだ。私も、力になりたいと思っている」

 心からとわかる優しい言葉。自然と気持ちは浮上し――。

「いままでよりもっと、たくさん話をしようか。もしかしたら記憶も戻るかもしれないよ」

 私は目を瞬かせた。
 おかしい。何だか胸がもやもやとする。

「では、私とは外出をしよう。よく行っていた場所に行けば――」

 それも、記憶を戻すため?
 思わず渋面になった。だって。

「ベイル。それはちょっとずるくないかい? 私は自由に出歩けないというのに」
「おや。殿下はミュリエルよりも自分の欲望のほうが大事だと? そのような方にミュリエルはふさわしくないかと存じますが」
「くっ、言うね。ミュリエルが絡むとこうも変わるのか」
「いえ。私はこれが普通です」

 だって、私はそんなことをしてほしいんじゃないんだから。
 そんなに記憶が大事? 私はここにいるのに――。


 思い浮かんだ内容に愕然とした。
 こんなにも気遣ってくれている二人を前に、なんて失礼なことを考えているのだろう。

 けれど。本音かもしれない。
 私は記憶を取り戻すことよりも、どうしてこの世界に転生してしまったのか。これからどうすればいいのか。どうすれば乙女ゲームのことを隠し通せるのか、ということのほうが重要だった。

 そんなこと二人には言えないけれど。だから、気づいてもらえなくても仕方ないことだけど。だけど――。

「ミュリエル? どうした」
「疲れてしまったのかな? いいよ。いつもみたいに甘えてごらん」

 セーファス様が向かいの席から隣りへと移動してくる。手慣れた様子で私の肩に腕を回し、引き寄せる。

 ――え? この体勢は、一体……。

「まったく。一人で抱え込むなんて、ミュリエルらしくないよ」

 その言葉で羞恥が一瞬にして消え去った。

 ミュリエルらしくない? いつもみたいに甘えて?
 それを記憶がない私に言うの?

 気づいたときには、セーファス様を突き飛ばしていた。といっても非力な女性の腕。ちょっと距離を取らせる程度にしかならなかったけれど。

「あ……も、申し――」

 ああ、そうか。
 記憶にこだわられていることが問題なんじゃない。以前のミュリエル通りの振る舞いを求められることに引っかかっていたのでもない。

 ただ私が――自分で考えていた以上に、マリとミュリエルが別人だと感じてしまっているのがいけなかったのだ。いうならば私はプレイヤー気分で、ミュリエルになりきれていなかったのだ。きっとそれが、もやもやの原因だ。

「申しわけありません、殿下。でも、私、淑女ですのよ? 肩を抱くなんてマナー違反ではございません? かしら?」

 ここはゲームの世界だけれど、きっと現実でもあって。現実でもあるけれど、ゲームの世界でもあるから、私は役者にならなくてはならないのだ。
 でないと、バッドエンドになってしまう。

 きっとセーファス様たちも同じだ。ミュリエルに好意を抱くのは、一緒に危機を乗り越える必要があるから。
 これは今だけの幻の恋。ゲームの期間が過ぎれば、きっと醒めてしまう淡い恋なのだ。

「ふふっ。ふふふ……」

 私は馬鹿だ。最初から、ゲームじゃないって自分に言い聞かせていたのに、セーファス様の甘い言葉に簡単にひっかかってしまった。二人の熱い眼差しに翻弄されてしまった。
 本気にしたってしようがないのに。

「ミュリエル?」
「申しわけありません。大丈夫ですわ。殿下があまりにも心配するから、おかしくなってしまって」
「そ、そうか」
「安心してください。これからたくさん甘えさせてもらいますわ」

 セーファス様は少し驚き、それから破顔した。

「嬉しいよ。私もたくさん甘やかそう」
「ミュリエル、私は?」
「もちろん、頼らせてもらいますわ」

 明らかにほっとした表情を見せるセーファス様とベイル様。
 少しざわつく胸を押さえながら、私は笑みを浮かべた。

 
 
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