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Ⅶ 待ち受けていたのは
90. 偽物さんの正体は
しおりを挟む「本当に文句を言わなくて言いのかい?」
「裁判が行われるのでしょう? でしたら、わたくしが今この場で彼女に何か言うわけにはまいりませんわ。私刑と受け取られるような行いはできませんもの」
完全に二人きりの世界に行ってしまったかと思われていたミュリエル様とセーファス様だったが、二人は何気に話を続けていた。
「だが、ここなら私たち以外の目はないんだ。大抵のことには目をつむれる。文句でなくてもいい。叩きたければ叩けばいいんだ」
「いいの、セーファス様。わたくしは――その子が正しく裁判にかけられ、刑罰を受けることだけを望みますわ。それは叶えてくださるでしょう?」
「……まったく、ミュリエルには敵わないな。わかった、必ず叶えよう。お姫様のお望みどおりに」
「ふふ。セーファス様、大好き!」
「っ」
途端にセーファス様のお顔が真っ赤に染まった。こんなセーファス様、私は見たことがない。
「よかったですね、ミュリエルお嬢様。――ですが」
微笑ましげに見ていたボルトの表情が途端に険しくなる。その視線が向けられた先はもちろん私。
「大切なお嬢様の体、返していただかなくてはいけませんね」
私は再びビクリと肩を揺らす。
「それはどういう……」
「わかっているでしょう!? そのままの意味ですよ!」
「落ち着け、ボルト。そこもきちんと考えてある」
「……さようにございますか?」
「ああ」
遅れて私も気づく。そう、先ほどセーファス様は「見た目だけならミュリエル」と言っていた。さらに光の女神も「本物の顔と体を使っても」と。
私はてっきり人違いが起こっただけだと思い込んでいたが、実際は、私がミュリエル様の体を乗っ取っているという問題があったようだ。
――でも。
私が気づいたときには、私はこの体を使っていた。返そうにも一体どのようにすれば返せるのかわからない。
本当にそんな方法があるのかも。
「どうやって……」
「それをお前が言うのか? 方法を知っていたから奪えたんだろう?」
哀しいかな、彼らの中では私がミュリエルの体を奪ったことは確定事項になっているようだ。その時の記憶がない以上完全に否定はできないが、私が奪ったわけではない可能性も忘れてほしくなかった。
「ああ、そうか。その確認は必要ですね。――ってことで、あんた、どうやって知った? 神秘を使えば可能と言われてはいるが、その構成の開発は禁じられているし、当然使用も禁止だ。いざという時のために唯一、神殿の大神官だけが手法を継承しているが……何故、それを知ってる?」
ここまでずっと黙っていたクリフォード様がおもむろに指摘した。
でも、そう聞かれたところで、それは私にだってわからない。答えられずに黙っていると、セーファス様がさらに続けた。
「ああ、まさかと思うが――お前、悪霊なのか?」
「悪霊!?」
「過去の史書を繙けば、悪霊が人の体を奪ったという記述もなくはない。それであれば答えられないのも納得いくが……すると、急がねばならないな。怪しげな術でこの国を乗っ取られるわけにはいかない」
私は唖然とした。悪霊だなどと、真面目に言っているのだろうか。現代日本人としては信じがたい話だが――いや、やはり彼らは本気のようだ。
「さて、吐いてもらおうか。君は何者だい? 悪霊か?」
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