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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに
168. もうひとつ神秘、修理中②
しおりを挟む「リア……?」
「ベイル様にはとても感謝しています。でも、もういいです。もう十分です。ずいぶんと調子もよくなりましたし、これ以上、ご迷惑はおかけできません」
ベイル様は驚いたようだった。呆然と私を見返す。
「何を言っている。私は迷惑だなどとは」
「もう、やめたいんです」
はっきりと告げれば、今度こそベイル様の表情が沈んだものになる。
「本気、か? ――何故」
本人に向かって、ベイル様のためだから、なんて言えないけれど。
ずっと思っていた。ベイル様は何故、この村に来たのだろうと。
もしかすると、あの裁判に対して思うところがあったのかもしれないと思った。けれどそれが理由で、私に対しての贖罪のつもりで来たというなら、もう必要ない。むしろ、祖国で活躍してくれるほうがよほど嬉しいのだ。
「どうすればいい?」
私は首を振った。
どうするも何もない。ベイル様がいるべき場所はここではないということを思い出してほしかった。
「私がここに来るのは迷惑か?」
迷惑なわけがない。けれど。
「正直に言わせてもらうと、そうです」
ベイル様が目を見開いた。私はできるだけベイル様を見ないようにして続ける。
「私には私の仕事があります。それに……若い男性がこの家に出入りしていると、あまり知られたくないんです」
「それは――」
「時々、隣町まで買い物に行っているのは知っているでしょ?」
時々と言えるほど実際には行っていないけれど。けれど思わせぶりに言えば、敏いベイル様は必ず察して――勘違いする。
隣町に、恋人がいるかもしれない、と。
「そう、か……」
ベイル様は見るからに気落ちした様子を見せた。胸がズキリと痛む。
ベイル様は本気で私を助けようとしてくれていたのだろう。こんな私の命までもをベイル様は惜しんでくれる。本当に優しい人だ。
「気にしないでください。もとより孤児だった私が長生きなんて、できるはずなかったんですから」
「そういう問題ではない! ――が、リアの言い分はわかった」
悲しげに顔を伏せるベイル様。沈黙が落ちた。
「すまなかった。今日のところは帰――」
立ち上がったベイル様の言葉が不意に途切れる。見れば、何やら驚いた顔をしている。
「ベイル様?」
ベイル様の視線は入り口付近で止まっていた。
けれどそこには、水瓶に農具、木箱――といつの間にかその上に出しっぱなしになってしまった小物類くらいしか置かれていない。
「……リア。どうしても、私を帰らせたい、か?」
「それは――はい」
「わかった。一度、リングドルに戻ろう」
驚いた。急な変貌だった。
きっかけはわからないけれど、ベイル様が決断してくれたなら、それに越したことはない。
「だが、戻るのは一週間後だ。それまでは治療を続けさせてもらう。それが嫌だというなら――……帰らない」
「……ベイル様?」
「この村でずっと暮らすことにしよう。……どうする?」
言っていることがハチャメチャだ。私が治療を拒んだらずっとここにいるって……私に対する嫌がらせ以外の何にもならないというのに。ベイル様のメリットなど一つもないというのに。
けれど、どうやらベイル様は大真面目に言っているらしい。まっすぐな眼差しを向け、私の答えを待っていた。
「わ…わかり、ました……」
そう答えるほかなかった。
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