上 下
166 / 188
Ⅹ 集まる想い

156. 裁判初日の夜 殿下の居室にて

しおりを挟む
 

「ベイル、クリフォード。説明を。お前たち、知っていたな?」

 裁判初日の夜。
 クリフォードはベイルと共に呼び出され、厳しい表情のセーファス殿下の前に立っていた。

「ドビオン伯爵家に不審な動きがあったとわかったため、ベルネーゼ侯爵家に協力いただきました。結果、裁判を開くに至ったかと」

 答えたのはベイルだ。もう少し言いようがあるだろうと不満がくすぶる。
 案の定、セーファス殿下は眉を寄せた。

「王太子である私が間違っていたと?」
「ええ」「いえ」

 ベイルとクリフォードの真逆の答えが重なる。
 クリフォードは驚いてベイルを見た。ベイルは平然とセーファス殿下を見据えていた。

「あの子は悪霊ではありませんでした。巻き込まれた被害者でした。話も聞かずに刑を下した殿下は、間違いだったと言えるでしょう」
「ベイル!」

 慌てて止めた。本来、こういったことは濁して伝えるものだ。はっきりと言ってしまっては不敬罪になってしまう。

「いい、クリフォード。構わないよ。それで? その例の子はもう死んでしまったのだろう? 何を求める?」
「え……?」

 セーファス殿下の言葉に思わず戸惑いの声をあげた。けれどそれはクリフォードだけらしく、ベイルは構わず話を続ける。

「なぜ黙っていた、とは聞かないのですね」
「それこそ愚問だろう」

 一拍遅れて思い出した。この件は、陛下がすべてを握り、殿下に情報を渡さないようにしていたのだということを。
 だから今、この場で少女が生きていることを知っているのは、クリフォードだけだった。

「あの、セーファ――」
「では。あの子の名誉の回復を。それから本来、罪を負うべきであった人間に適切な処罰を」
「なるほど。そのために口を出すなというのだね」
「ええ。このようなことで償いになるとは思っていませんが。それに殿下に謝罪を求める訳にもまいりません。ならば、せめて誠意をと」

 とても口を挟めない張りつめた空気が続いていた。けれど次の瞬間、それはふっと緩む。

「――そうか。わかった、誠意を見せよう。それから、土に還った彼女にも、心の中で謝罪を」
「是非に」

 焦るクリフォードを後目に、二人の間できれいに話がまとまる。

 このまま気づかなかったことにしてしまいたかった。黙っていてもいずれ誰かが明かすだろう。けれど、そのときクリフォードが知っていたと知られるのだけは、遠慮願いたい。セーファス殿下は、嘘と同じくらい秘匿も嫌うのだ。その怒りに触れたくはなかった。

「あの、セーファス殿下、ベイル。その、少々よろしいでしょうか」
「どうした?」
「ええと、その……彼女ですが、生きておられます」
「なに?」
「彼女、ベルネーゼ侯爵令嬢の中に入っていた少女はまだ、生きております」
「なんだと……!?」

 クリフォードは、滅魂の刑が失敗に終わったあとのことを話す。
 セーファス殿下は滅魂の代わりに死刑をと指示したけれど、それが陛下によって取り消されたこと。それから、今は他国で無事に暮らしていることを告げた。

「生きて、いるのか……」

 ベイルの呆然とした顔が目に焼きついて離れなかった。

 
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。 その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。 だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった── 公爵令嬢のエリーシャは、 この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。 エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。 ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。 (やっと、この日が……!) 待ちに待った発表の時! あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。 憎まれ嫌われてしまったけれど、 これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。 …………そう思っていたのに。 とある“冤罪”を着せられたせいで、 ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...