51 / 53
夢の中?
しおりを挟む
どうして、こうなったんだろう。
キンバリーの収容されている留置室の中で、フィオラは困惑していた。
目の前には、ぐすぐすと泣いているキンバリー。
先程からの今。わすが数十分後のことである。
魔女フィオラになってから人知れず留置室に忍び込み、キンバリーを叩き起こした後、寝ぼけ眼で驚くキンバリーに「公爵とは結婚しない」宣言を一方的にしたまでは、まあ、良かった。
一方的に言われたキンバリーに取っては、正に寝耳に水だったことだろうが。
それと、キンバリーの「ぅわっ!魔女?!っが、何でここにっ?!ぅわっ、ぅわーっ!!」と、羨望の混じる驚愕の表情を見られたのも、胸がすく思いがしたので、まあ、良しとする。
問題は、この後すぐに起きた。
「夢か……夢っすね……」
「夢じゃないってば」
キンバリーはこの有り得ない状況に、これを夢の中だと決め付けた。そして、魔女フィオラの顔をじっと見つめる。
「夢なら……夢の中でくらい……」
「だから、夢じゃないってば」
羨望の眼差しだったその表情は、何故か徐々に曇り歪んでいった。
やはり、この男は話が通じるような人間ではなかったらしい。フィオラの言葉は完全に無視している。
え、まさか……襲われる?!
そら見たことか。と、言わんばかりのレイの表情が癪に障るが、取り敢えずの要件は済んだ。
「じゃ、まあ、そういうことで。私を探しても無駄だし、あんたはここで大人しく閉じ込められてな」
そう捨て置いて、慌てて部屋まで転移しようとしたフィオラの腕をキンバリーがむんずと掴んだ。
「ちょっ、あぶねっ!」
転移は下手をすると生死に関わる危険な魔法だ。他人を巻き込めば、更にその危険は高まる。既のところでフィオラは発動を踏み留まった。
そして、キンバリーを睨み上げた。
キンバリーごとき、襲われたとて返り討ちにしてやる自信はある。
振り返ったフィオラは「ふんっ」と、思い切りキンバリーの手を振り払った。振り払われたキンバリーが、ころんと床に転がる。
「あんたねぇ、ふざけんなよ!死にてぇのか……って……は?」
床に転がったキンバリーを睨んだフィオラは、しかしその顔を見て思わず間抜けな顔になった。
「ぅっ、ふぅぐ……ぐすん」
フィオラに手を振り払われて尚、縋るようにフィオラに手を伸ばすキンバリーは鼻水を垂らして泣いていたのである。
そして、いまここ。
「……え、えーと?」
部屋に戻る事も忘れてフィオラはぽかんとする。
確かに床に転がされたら嫌だろうが、泣くほどのことだろうか。
フィオラについて来たレイも状況が飲み込めないのは同じ。目をぱちぱちと瞬かせていた。
「俺、頑張ってるっす、なのに、何で……」
「……団長は、ずるいっす……」
キンバリーがぶつぶつ言いながらフィオラに躙り寄る。
鼻水を垂らしながら躙り寄る姿は些か怖い。フィオラは思わず後退った。
「な、何?寝ぼけてんの?」
「夢の中で寝ぼけないっす、あんたも……ずるいっす!」
「ぅわっ!きったね!」
とうとうキンバリーがフィオラの両腕を掴むようにして飛び付いた。何の汁か分からない液体が飛ぶ。 フィオラは咄嗟にキンバリーを突き飛ばしていた。
「ぅう……」
再びフィオラに転がされたキンバリーは、恨めしそうにフィオラを睨み上げる。
フィオラでも魔女フィオラでもこの男は睨んでくるらしい。
睨まれたくらいではどうともしないが、いったい何がずるいのか。 こんな目を向けられると、何もしていないのに自分が悪い事をした気分にさせられる。
「はぁ……もう、いいから話せよ。何がずるいんだ?言っとくけど、私を襲おうなんて考えんなよ?そんな事したら倍返しだかんな」
フィオラは諦めたように息を吐くとキンバリーに釘を差して、部屋に置いてあった椅子に腰を掛けた。キンバリーがその様子をじっと窺っている。
『え、話を聞くんですか?』
「ん……聞くだけね」
キンバリーを無視して帰ると思っていたのか、レイは隠すことなく「面倒臭い」オーラを放っていた。
フィオラとて面倒臭い事は極力したくない。しかも他人の事。
そう、他人事なのだ。
だがしかし。無視してやってもいいが、今後またキンバリーが何か騒動を起こすかもしれない。この男が今、何を考えているのかは知っておきたいと思ったのだ。
部屋に戻りたければ戻ればいい。フィオラは目で、レイにそう合図を送った。 それが上手く伝わらなかったのか何なのか、レイもまた一つ息を吐くと、じっとりとした視線をキンバリーに送った。
『……フィオラも、面倒事に首を突っ込みますねぇ』
どうやらレイも話を聞いてあげる気らしい。
いつの間にやら留置室は、キンバリーの悩み相談室へと化していた。
キンバリーの収容されている留置室の中で、フィオラは困惑していた。
目の前には、ぐすぐすと泣いているキンバリー。
先程からの今。わすが数十分後のことである。
魔女フィオラになってから人知れず留置室に忍び込み、キンバリーを叩き起こした後、寝ぼけ眼で驚くキンバリーに「公爵とは結婚しない」宣言を一方的にしたまでは、まあ、良かった。
一方的に言われたキンバリーに取っては、正に寝耳に水だったことだろうが。
それと、キンバリーの「ぅわっ!魔女?!っが、何でここにっ?!ぅわっ、ぅわーっ!!」と、羨望の混じる驚愕の表情を見られたのも、胸がすく思いがしたので、まあ、良しとする。
問題は、この後すぐに起きた。
「夢か……夢っすね……」
「夢じゃないってば」
キンバリーはこの有り得ない状況に、これを夢の中だと決め付けた。そして、魔女フィオラの顔をじっと見つめる。
「夢なら……夢の中でくらい……」
「だから、夢じゃないってば」
羨望の眼差しだったその表情は、何故か徐々に曇り歪んでいった。
やはり、この男は話が通じるような人間ではなかったらしい。フィオラの言葉は完全に無視している。
え、まさか……襲われる?!
そら見たことか。と、言わんばかりのレイの表情が癪に障るが、取り敢えずの要件は済んだ。
「じゃ、まあ、そういうことで。私を探しても無駄だし、あんたはここで大人しく閉じ込められてな」
そう捨て置いて、慌てて部屋まで転移しようとしたフィオラの腕をキンバリーがむんずと掴んだ。
「ちょっ、あぶねっ!」
転移は下手をすると生死に関わる危険な魔法だ。他人を巻き込めば、更にその危険は高まる。既のところでフィオラは発動を踏み留まった。
そして、キンバリーを睨み上げた。
キンバリーごとき、襲われたとて返り討ちにしてやる自信はある。
振り返ったフィオラは「ふんっ」と、思い切りキンバリーの手を振り払った。振り払われたキンバリーが、ころんと床に転がる。
「あんたねぇ、ふざけんなよ!死にてぇのか……って……は?」
床に転がったキンバリーを睨んだフィオラは、しかしその顔を見て思わず間抜けな顔になった。
「ぅっ、ふぅぐ……ぐすん」
フィオラに手を振り払われて尚、縋るようにフィオラに手を伸ばすキンバリーは鼻水を垂らして泣いていたのである。
そして、いまここ。
「……え、えーと?」
部屋に戻る事も忘れてフィオラはぽかんとする。
確かに床に転がされたら嫌だろうが、泣くほどのことだろうか。
フィオラについて来たレイも状況が飲み込めないのは同じ。目をぱちぱちと瞬かせていた。
「俺、頑張ってるっす、なのに、何で……」
「……団長は、ずるいっす……」
キンバリーがぶつぶつ言いながらフィオラに躙り寄る。
鼻水を垂らしながら躙り寄る姿は些か怖い。フィオラは思わず後退った。
「な、何?寝ぼけてんの?」
「夢の中で寝ぼけないっす、あんたも……ずるいっす!」
「ぅわっ!きったね!」
とうとうキンバリーがフィオラの両腕を掴むようにして飛び付いた。何の汁か分からない液体が飛ぶ。 フィオラは咄嗟にキンバリーを突き飛ばしていた。
「ぅう……」
再びフィオラに転がされたキンバリーは、恨めしそうにフィオラを睨み上げる。
フィオラでも魔女フィオラでもこの男は睨んでくるらしい。
睨まれたくらいではどうともしないが、いったい何がずるいのか。 こんな目を向けられると、何もしていないのに自分が悪い事をした気分にさせられる。
「はぁ……もう、いいから話せよ。何がずるいんだ?言っとくけど、私を襲おうなんて考えんなよ?そんな事したら倍返しだかんな」
フィオラは諦めたように息を吐くとキンバリーに釘を差して、部屋に置いてあった椅子に腰を掛けた。キンバリーがその様子をじっと窺っている。
『え、話を聞くんですか?』
「ん……聞くだけね」
キンバリーを無視して帰ると思っていたのか、レイは隠すことなく「面倒臭い」オーラを放っていた。
フィオラとて面倒臭い事は極力したくない。しかも他人の事。
そう、他人事なのだ。
だがしかし。無視してやってもいいが、今後またキンバリーが何か騒動を起こすかもしれない。この男が今、何を考えているのかは知っておきたいと思ったのだ。
部屋に戻りたければ戻ればいい。フィオラは目で、レイにそう合図を送った。 それが上手く伝わらなかったのか何なのか、レイもまた一つ息を吐くと、じっとりとした視線をキンバリーに送った。
『……フィオラも、面倒事に首を突っ込みますねぇ』
どうやらレイも話を聞いてあげる気らしい。
いつの間にやら留置室は、キンバリーの悩み相談室へと化していた。
10
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
SSS級宮廷錬金術師のダンジョン配信スローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国領の田舎に住む辺境伯令嬢アザレア・グラジオラスは、父親の紹介で知らない田舎貴族と婚約させられそうになった。けれど、アザレアは宮廷錬金術師に憧れていた。
こっそりと家出をしたアザレアは、右も左も分からないままポインセチア帝国を目指す。
SSS級宮廷錬金術師になるべく、他の錬金術師とは違う独自のポーションを開発していく。
やがて帝国から目をつけられたアザレアは、念願が叶う!?
人生逆転して、のんびりスローライフ!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる