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夢の中?

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 どうして、こうなったんだろう。 


 キンバリーの収容されている留置室の中で、フィオラは困惑していた。 
 目の前には、ぐすぐすと泣いているキンバリー。 

 先程からの今。わすが数十分後のことである。 

 魔女フィオラになってから人知れず留置室に忍び込み、キンバリーを叩き起こした後、寝ぼけ眼で驚くキンバリーに「公爵とは結婚しない」宣言を一方的にしたまでは、まあ、良かった。
 一方的に言われたキンバリーに取っては、正に寝耳に水だったことだろうが。 
 それと、キンバリーの「ぅわっ!魔女?!っが、何でここにっ?!ぅわっ、ぅわーっ!!」と、羨望の混じる驚愕の表情を見られたのも、胸がすく思いがしたので、まあ、良しとする。 

 問題は、この後すぐに起きた。 

「夢か……夢っすね……」 

「夢じゃないってば」 

 キンバリーはこの有り得ない状況に、これを夢の中だと決め付けた。そして、魔女フィオラの顔をじっと見つめる。 

「夢なら……夢の中でくらい……」 

「だから、夢じゃないってば」 

 羨望の眼差しだったその表情は、何故か徐々に曇り歪んでいった。 
 やはり、この男は話が通じるような人間ではなかったらしい。フィオラの言葉は完全に無視している。 

 え、まさか……襲われる?! 

 そら見たことか。と、言わんばかりのレイの表情が癪に障るが、取り敢えずの要件は済んだ。 

「じゃ、まあ、そういうことで。私を探しても無駄だし、あんたはここで大人しく閉じ込められてな」 

 そう捨て置いて、慌てて部屋まで転移しようとしたフィオラの腕をキンバリーがむんずと掴んだ。 

「ちょっ、あぶねっ!」 

 転移は下手をすると生死に関わる危険な魔法だ。他人を巻き込めば、更にその危険は高まる。既のところでフィオラは発動を踏み留まった。 
 そして、キンバリーを睨み上げた。 
 キンバリーごとき、襲われたとて返り討ちにしてやる自信はある。 
 振り返ったフィオラは「ふんっ」と、思い切りキンバリーの手を振り払った。振り払われたキンバリーが、ころんと床に転がる。 

「あんたねぇ、ふざけんなよ!死にてぇのか……って……は?」 

 床に転がったキンバリーを睨んだフィオラは、しかしその顔を見て思わず間抜けな顔になった。 

「ぅっ、ふぅぐ……ぐすん」 

 フィオラに手を振り払われて尚、縋るようにフィオラに手を伸ばすキンバリーは鼻水を垂らして泣いていたのである。 


 そして、いまここ。 


「……え、えーと?」 

 部屋に戻る事も忘れてフィオラはぽかんとする。 
 確かに床に転がされたら嫌だろうが、泣くほどのことだろうか。 
 フィオラについて来たレイも状況が飲み込めないのは同じ。目をぱちぱちと瞬かせていた。 

「俺、頑張ってるっす、なのに、何で……」 

「……団長は、ずるいっす……」 

 キンバリーがぶつぶつ言いながらフィオラに躙り寄る。 
 鼻水を垂らしながら躙り寄る姿は些か怖い。フィオラは思わず後退った。 

「な、何?寝ぼけてんの?」 

「夢の中で寝ぼけないっす、あんたも……ずるいっす!」 

「ぅわっ!きったね!」 

 とうとうキンバリーがフィオラの両腕を掴むようにして飛び付いた。何の汁か分からない液体が飛ぶ。 フィオラは咄嗟にキンバリーを突き飛ばしていた。 

「ぅう……」 

 再びフィオラに転がされたキンバリーは、恨めしそうにフィオラを睨み上げる。 
 フィオラでも魔女フィオラでもこの男は睨んでくるらしい。
 睨まれたくらいではどうともしないが、いったい何がずるいのか。 こんな目を向けられると、何もしていないのに自分が悪い事をした気分にさせられる。 

「はぁ……もう、いいから話せよ。何がずるいんだ?言っとくけど、私を襲おうなんて考えんなよ?そんな事したら倍返しだかんな」

 フィオラは諦めたように息を吐くとキンバリーに釘を差して、部屋に置いてあった椅子に腰を掛けた。キンバリーがその様子をじっと窺っている。 

『え、話を聞くんですか?』 

「ん……聞くだけね」 

 キンバリーを無視して帰ると思っていたのか、レイは隠すことなく「面倒臭い」オーラを放っていた。 
 フィオラとて面倒臭い事は極力したくない。しかも他人の事。 
 そう、他人事なのだ。 
 だがしかし。無視してやってもいいが、今後またキンバリーが何か騒動を起こすかもしれない。この男が今、何を考えているのかは知っておきたいと思ったのだ。 
 部屋に戻りたければ戻ればいい。フィオラは目で、レイにそう合図を送った。 それが上手く伝わらなかったのか何なのか、レイもまた一つ息を吐くと、じっとりとした視線をキンバリーに送った。 

『……フィオラも、面倒事に首を突っ込みますねぇ』 

 どうやらレイも話を聞いてあげる気らしい。 
 いつの間にやら留置室は、キンバリーの悩み相談室へと化していた。











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