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朝食の味
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「昨夜の、あの態度は何だったんだろう?」
フィオラは目の前に置かれた花瓶を、じろじろと観察して唸る。
ヒューゴのお陰様で昨夜もよく眠れたが、今朝は寝坊せずに起きることが出来た。 そして例の花瓶はというと、フィオラが起きた頃には既に花を生けた状態でフィオラの部屋に置かれていた。
結果だけ言うと、花瓶は何の変哲もないただの花瓶だった。少なくとも、フィオラにはそう思えた。
……ライは何に動揺してたんだろう。
『まあ、そんなこと、気にせずとも良いのではないですか。綺麗な花が愛でられるのですから』
「まあ、何でもいいんだけどね……」
知らず考え込んでいたようだ。レイに言われ、フィオラは顔を上げた。
別に怒られたわけでもない。フィオラは深く考えない事にした。
そこへ、ミーシャが顔を出す。
「お嬢様、朝食の準備が出来ました」
「やっほーい!待ってました!」
『そんな燥いで……みっともないですよ?』
ばんざーい。と、フィオラは両手を挙げて歓喜した。 昨日ひたすらに歩かされて、体はがたぴしと痛む。だが、食事となれば、不思議と体は動くもの。
うん!生きてる証拠だね!
レイに何と言われようと、食事が出来る事は喜ばしいことだ。喜びを表現して何が悪い。 それに、食欲がある。と、いうことは、フィオラの体が当たり前に生きようとしている証拠である。
ミーシャに呼ばれてフィオラはうきうきと食堂に向かった。
こんなにタダ飯を頂いていいものか。と、最初こそ頭の片隅で思ったが、慣れとは恐ろしいもので、昨日の今日なクセに今では全く罪悪感の欠片もなくテーブルに着席する。
「あ、公爵。おはよう」
「……おはよう」
遅れて来たニコライに挨拶する。
昨夜に引き続き、ニコライは今朝もフィオラを見て表情を固くした。
何なんだよ、その顔は……あっ?!
やべー、もしかして私のこと、タダ飯食らいの穀潰しだとか思ってんのか?
フィオラをちらちらと窺い、視線を泳がせているニコライは何か言いたそうだ。 今のところのフィオラは、穀潰しの自覚もある。
ニコライを慮ったフィオラは胸を張って口を開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても、ちゃんと働くから!」
「……え?あ、うん?……すまん、何の話だ?」
泳いでいたニコライの視線が、フィオラをしっかりと捉えた。ニコライの頭の上に疑問符が浮かんでいるように見えるのは気の所為か。
「私がタダ飯食らいの穀潰しだって言いたかったんじゃないのか?」
「……すまん。どういう流れで、そう思ったのか教えてくれ」
「違うのか。じゃあ、何でじろじろ私を見るんだよ?」
「じろじろ見ていたつもりはなかったが……では聞くが、フィオラ、俺に何か言う事はないか?」
ニコライが睨むわけでもなく、じっとフィオラを見つめる。その真剣な表情にフィオラはたじろいだ。
何かって、何だ??
もしかして、魔女が私だって勘づいて……?
……いや、そんな事はないはず。
「……だから、ちゃんと魔女は探すってば」
思いの外、声が上擦ったのをフィオラは咳払いをして誤魔化した。
ニコライの表情が曇る。
「そういうことが聞きたいのではなく……」
声のトーンが低くなり、ニコライは明らかに不機嫌になっていた。
じゃあ、何が聞きたいんだ。と、フィオラも口を尖らせる。
具体的に言ってもらわなければ分からない。
「……では、質問を変えよう。どうやって赤の魔女を探すつもりなのだ?」
冷ややかな目でニコライが問う。
なんか……怒ってる??
元はと言えば、ニコライを安心させる為に言ったひと言だったのが、何故かニコライを怒らせている。
フィオラには、どの辺にニコライを怒らせる要素があったのか理解出来なかった。
「え、と……魔女は、よく魔物討伐をしてるから……森に行って……」
「ほう?魔力のないあなたが?一人で?」
「ぅぐっ……」
そうだった。
フィオラは自分の設定を忘れていた。
魔力がない上に、剣術、体術があるわけでもない。
そんな無い無い尽くしのフィオラが、仮にも魔物の棲む森に入るなど自殺行為もいいとこだ。
これ以上ニコライを怒らせないようにと無難そうな事を言ったつもりが、更に怒らせてしまったようだ。
「そもそも、運良く赤の魔女に会えたとして、彼女があなたの言う事を聞いてくれるとは思えない」
「ぅぐ……」
ニコライがため息まじりに正論すぎる事を言う。
それでもフィオラは、何か言い返してやれる事はないか考えた。
が、元々が無計画のフィオラのこと。何も思い浮かばない。 仏頂面でだんまりを決め込んだフィオラに、ニコライは何か言いかけて口を噤んだ。
「もういい……あなたは、ここで好きなように生活してくれればいいですよ」
「……礼儀作法とかも、やらなくていいのか?」
「だから……好きにしてくれればいい」
ヒューゴを見れば明らかに不満そうな顔をしていたが、ニコライはそれだけ言うと、黙々と食事を続けた。
フィオラも食べ始めたが、あんなに楽しみにしていた食事が何故か美味しく感じない。
もういい―――
ニコライの突き放したような物言いにフィオラの胸は、ちくっと痛んでいた。
フィオラは目の前に置かれた花瓶を、じろじろと観察して唸る。
ヒューゴのお陰様で昨夜もよく眠れたが、今朝は寝坊せずに起きることが出来た。 そして例の花瓶はというと、フィオラが起きた頃には既に花を生けた状態でフィオラの部屋に置かれていた。
結果だけ言うと、花瓶は何の変哲もないただの花瓶だった。少なくとも、フィオラにはそう思えた。
……ライは何に動揺してたんだろう。
『まあ、そんなこと、気にせずとも良いのではないですか。綺麗な花が愛でられるのですから』
「まあ、何でもいいんだけどね……」
知らず考え込んでいたようだ。レイに言われ、フィオラは顔を上げた。
別に怒られたわけでもない。フィオラは深く考えない事にした。
そこへ、ミーシャが顔を出す。
「お嬢様、朝食の準備が出来ました」
「やっほーい!待ってました!」
『そんな燥いで……みっともないですよ?』
ばんざーい。と、フィオラは両手を挙げて歓喜した。 昨日ひたすらに歩かされて、体はがたぴしと痛む。だが、食事となれば、不思議と体は動くもの。
うん!生きてる証拠だね!
レイに何と言われようと、食事が出来る事は喜ばしいことだ。喜びを表現して何が悪い。 それに、食欲がある。と、いうことは、フィオラの体が当たり前に生きようとしている証拠である。
ミーシャに呼ばれてフィオラはうきうきと食堂に向かった。
こんなにタダ飯を頂いていいものか。と、最初こそ頭の片隅で思ったが、慣れとは恐ろしいもので、昨日の今日なクセに今では全く罪悪感の欠片もなくテーブルに着席する。
「あ、公爵。おはよう」
「……おはよう」
遅れて来たニコライに挨拶する。
昨夜に引き続き、ニコライは今朝もフィオラを見て表情を固くした。
何なんだよ、その顔は……あっ?!
やべー、もしかして私のこと、タダ飯食らいの穀潰しだとか思ってんのか?
フィオラをちらちらと窺い、視線を泳がせているニコライは何か言いたそうだ。 今のところのフィオラは、穀潰しの自覚もある。
ニコライを慮ったフィオラは胸を張って口を開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても、ちゃんと働くから!」
「……え?あ、うん?……すまん、何の話だ?」
泳いでいたニコライの視線が、フィオラをしっかりと捉えた。ニコライの頭の上に疑問符が浮かんでいるように見えるのは気の所為か。
「私がタダ飯食らいの穀潰しだって言いたかったんじゃないのか?」
「……すまん。どういう流れで、そう思ったのか教えてくれ」
「違うのか。じゃあ、何でじろじろ私を見るんだよ?」
「じろじろ見ていたつもりはなかったが……では聞くが、フィオラ、俺に何か言う事はないか?」
ニコライが睨むわけでもなく、じっとフィオラを見つめる。その真剣な表情にフィオラはたじろいだ。
何かって、何だ??
もしかして、魔女が私だって勘づいて……?
……いや、そんな事はないはず。
「……だから、ちゃんと魔女は探すってば」
思いの外、声が上擦ったのをフィオラは咳払いをして誤魔化した。
ニコライの表情が曇る。
「そういうことが聞きたいのではなく……」
声のトーンが低くなり、ニコライは明らかに不機嫌になっていた。
じゃあ、何が聞きたいんだ。と、フィオラも口を尖らせる。
具体的に言ってもらわなければ分からない。
「……では、質問を変えよう。どうやって赤の魔女を探すつもりなのだ?」
冷ややかな目でニコライが問う。
なんか……怒ってる??
元はと言えば、ニコライを安心させる為に言ったひと言だったのが、何故かニコライを怒らせている。
フィオラには、どの辺にニコライを怒らせる要素があったのか理解出来なかった。
「え、と……魔女は、よく魔物討伐をしてるから……森に行って……」
「ほう?魔力のないあなたが?一人で?」
「ぅぐっ……」
そうだった。
フィオラは自分の設定を忘れていた。
魔力がない上に、剣術、体術があるわけでもない。
そんな無い無い尽くしのフィオラが、仮にも魔物の棲む森に入るなど自殺行為もいいとこだ。
これ以上ニコライを怒らせないようにと無難そうな事を言ったつもりが、更に怒らせてしまったようだ。
「そもそも、運良く赤の魔女に会えたとして、彼女があなたの言う事を聞いてくれるとは思えない」
「ぅぐ……」
ニコライがため息まじりに正論すぎる事を言う。
それでもフィオラは、何か言い返してやれる事はないか考えた。
が、元々が無計画のフィオラのこと。何も思い浮かばない。 仏頂面でだんまりを決め込んだフィオラに、ニコライは何か言いかけて口を噤んだ。
「もういい……あなたは、ここで好きなように生活してくれればいいですよ」
「……礼儀作法とかも、やらなくていいのか?」
「だから……好きにしてくれればいい」
ヒューゴを見れば明らかに不満そうな顔をしていたが、ニコライはそれだけ言うと、黙々と食事を続けた。
フィオラも食べ始めたが、あんなに楽しみにしていた食事が何故か美味しく感じない。
もういい―――
ニコライの突き放したような物言いにフィオラの胸は、ちくっと痛んでいた。
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