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青崎真司郎と白松の人生

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「が………あああ!!!」

尋常じゃない痛みに青崎はただただ悶え、膝から崩れ落ちた。鉄を伝う自身の血が地面を赤く染める。

「とっさに反応して急所は避けたか。」

先ほどまで地面に伏せていたはずの白松が、今は膝立ちの青崎を見下している。文字通り、一瞬で形勢が逆転したのだ。

「ちくしょうが……今までの全部この一撃のための布石ってか?  意外と知略家だな。」

「極力使うつもりはなかったんだがな……ッ!? がはっ!!」

白松が突如吐血をする。

「なるほど。こんだけ多くの鉄を扱うのにはおまえにもリスクがあるってわけか。」

「そうだ。俺の能力はいろいろな欠点がある、不完全な能力だ。だからこうして頭を使いながら扱わねばならない。」

白松は口元の血を拭い、言葉を続ける。

「本来、俺の能力適正値はE。能力は10g以下の鉄の操作。そんなしょぼい力じゃ俺は何も得ることが出来なかった。名誉も地位も権力も金も。
世界が、この街が俺を弱者として扱った! 俺は強くなりたかった!」

青崎は白松の話を聞きながら思った。この街には白松のような奴がたくさんいるのだろう。

この街はあまりにもあからさまに人に順をつけている。どんなに温厚な人であろうと、争いが嫌いな人であろうと、弱者と決めつけられることにいい気分ではいられないだろう。

「だから俺は努力した。能力を磨き上げて、何度も限界を越えて! 強者になるために!」

多くのものが間違える。強さだけが全てであると。正しさであると、そう勘違いする。

「そしたら今はどうだ? 能力はどんどん強くなっていった。
自分を鉄化できるようになり、大量の鉄を操れるようになった。 
俺は龍王天理界なんていうデケエ組織で副隊長になるくらいまでに上り詰めたんだ!!」

「ーーー哀れだな。」

青崎はばっさりと白松の言葉を一刀する。

「なんだと?」

「力なんざに縛られる生きづらそうなおまえを哀れだと言ったんだ。」

「ーーーおまえにわかんのかよ!! 落ちこぼれた俺のような奴らの気持ちが!!  青崎、おまえがなんの能力者かはわからない。加速かテレポートか、スピードに関わる能力だろう。能力適正値はCかBってとこか? 
あそこの氷使いの女なんかは能力適正値Aだろう。

俺はそういう強い力を持った奴らに出会うたびに倒してきた。
また1人越えたと思えるのが俺の何よりもの喜びなんだ!!!」

白松は指を構えて、笑う。

「青崎ぃ!! 今日はおまえだ! 俺はまた1人、越えた!!」

白松が放ったのは5発の鉄塊。銃弾にも似たスピードで飛ぶそれらを、重傷を負った男が至近距離でかわすのは常識的に考えて不可能。

「何故、何故当たらない!! 青崎ぃ!」

「おまえの敗因は1つだ白松。おまえが1番おまえを信じてやれていない。……本当に哀れな奴だ。」

鉄塊は青崎の体を捉えることが出来ず、青崎の放った拳が戦いの終わりを告げた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「おっ。やっと起きたか。」

戦い終結から1時間後、俺たちは病室にいた。気絶した白松のために救急車を呼んだのだ。

「何故、とどめを刺さなかった?」

「はあ? なんで俺が人殺しになんなきゃいけないんだよ。 それにおまえだって俺を殺す気はなかっただろうが。」

俺は包帯でぐるぐる巻きにされた右肩を指さして言う。

「それはおまえが避けたからじゃ……」

「俺は全く反応出来なかったよ。おまえが急所から外してくれたんだ。」

「そんな、バカな。」

白松は心底驚いたように自身の目を見つめる。

「つっても星宮がすぐに氷で止血っていう無茶苦茶な応急処置してくれてなかったら危なかったかもな。あっははは。」

「いやそこ笑うとこじゃないから。」

星宮がきっちりとツッコミを入れたところで俺は表情と話題を変える。

「おまえの能力、自身の鉄化が可能。手に触れている鉄の形状をノーリスクで変形可能。30分間手に触れた鉄を操作、変形可能ただしリスクあり。 
これでやっと正解か?」

「現時点では、な。」

「あっははは。」

強調するように言う白松に俺は笑う。

「ったく何が弱者だ。十分チート能力じゃねえか。でもまあそれがおまえの今までの人生の成果ってなるとあまりにもちっぽけだよな。」

「……全くその通りだ。俺はまだまだ弱い。」

白松は窓の外、恐らく街に高くそびえ立つシステムと呼ばれる塔を見ながら言った。

「そういう意味じゃねえよ。俺から言わせればこの街の住人はみんな被害者だ。」

「どういう意味だ?」

「この街の住人は戦うことを強要されている。力を持つことを強要されている。本来の街のあり方として、この街は間違っている。」

俺もまた、システムを見ながら言葉を紡ぐ。

「俺は外から来たんだ。つっても記憶喪失だけどな。でも多分この街で唯一この街に染まっていなくて、違和感を抱けている。
みんなおかしくなっちまってるだけなんだよ。冷静に考えてみろ白松。

おまえが人生をかけて強くなって、他人をたくさん傷つけて、その後おまえに残るのは罪悪感だけだ。」

「それはおまえが強者だから吐ける偽善なセリフでしかない。」

「バカか。俺は能力適正値Gだ。」

そう言った瞬間、白松はこちらを見て目が点の状態で固まった。

「……は? おまえが、適正値G?」

「言ったろ。鼻が人一倍効くって。俺の能力は嗅覚が敏感であることだ。 
だからおまえの気持ちも分からなくはない。俺だってこの1ヶ月くらいでいろんな能力を目にして羨ましいと思った。

強くなりたいとも思うし、こんな形じゃなければおまえとの勝負も楽しめていた。 けどな、力を求めることと得た力で他人を傷つけるのとは全く違う話だ。」

それに、と俺は言葉を続ける。

「今だっておまえは十分強いじゃねえか。せっかくつけたその力の使い方を誤るんじゃねえよ。」

「……おまえは、能力適正値Gの落ちこぼれのくせに、なんでそんなに強い?」

「さあな。言ったろ俺は記憶喪失なんだ。俺の力のことを全然分からねえ。 けどまあ、俺は結構自分の力を信じてるからな。」

「ーーーハハハハハッ!」

俺が星宮に合図して病室を出てドアを閉めようとすると、白松が笑い声をあげた。

「おまえには敵わねえみたいだな、今は。けどいつかおまえを越えてみせるぜ青崎。」

「その前におまえ入院1ヶ月だとさ。まあ俺も通院しなきゃいけないし、また見舞いにでも来てやるよ。」

俺の口元は自然と笑みを浮かべていた。
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