高慢ちきなアリス

sakaki

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彼氏がいないんじゃなくて、妥協してないだけだもん

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彼氏がいないんじゃなくて妥協してないだけだもん~高慢ちきなアリス3~


僕の名前は有栖川瑠衣(ありすがわ るい)。帝城高校商業科2年、ちなみに帰宅部。あ、でもファンクラブがあるから私設部かも。
そうなの。僕はとってもとっても可愛いからファンがたっくさんいる、みんなのアイドル的存在なわけ。
ちょっと重そうな荷物を持とうとしたら誰かが手伝いに来てくれるし、お弁当なんて持ってこなくても差し入れが貰えてよりどりみどりだし、ラブレターなんて日常茶飯事だから靴箱や机の引き出しはいつもパンパン。もうモテモテ過ぎて困っちゃう。
だから、特定の恋人なんて作らない。・・・恋人がいないんじゃなくて、作ってないってだけなの。クリスマスイブに何も予定が無いのも、誰か一人と過ごしたりしたらファンの子達が落ち込んじゃうからで、別にイブを過ごす相手がいない訳じゃない。
冬休みに入ってからはひっきりなしにお誘いメール・電話・LINEが来ちゃってスマホは鳴りっぱなし。気分が乗れば一緒に出かけてあげたりもして、映画見たりショッピングしたり初詣に行ったりテーマパークにも行ったし(勿論全部ファンのおごりで)、ちやほやされまくりの充実しまくりの冬休みだった。

な、の、に!! 

「よぉ、ぼっちイブを過ごしたアリスちゃんじゃねぇか」
御剣(みつるぎ)先生が保健室に来るなりそんな超~~~~失礼な事を言うから、僕はコーヒーを吹き出しそうになった。
「開口一番なんなの!? っていうかぼっちじゃないもん! 人聞きの悪い言い方しないでよね!!」
御剣先生の胸をポカポカと殴る。この人ホントに嫌い! 大大大大大っ嫌い!!
「おー、おー、今年も熱量高いなー。あけおめことよろ」
全力で殴ってるのにかよわい僕の力じゃ全然堪えないみたいで、御剣先生は笑いながら僕の頭をぽんぽんと叩く。それにちょっとキュンとしちゃったのが僕的に超不覚・・・。だって御剣先生、ルックスだけならかなり好みなんだもん。余計ムカつく!
「御剣先生の軽口なんてイチイチ相手にしなくていいんですよ。有栖川くんがモテモテなのは周知の事実ですもんね」
憤慨している僕の頭を優しく撫でてくれるのは綾華(あやか)先生。「保健室の天使」なんて言われてるだけあって、超癒し系の笑顔だ。学生時代は僕と同じミスコン(ミスター女装コンテスト)でグランプリだったんだって。確かになかなかの美人さんだと思う。まぁ、僕ほどじゃないけどね。
「ま~た随分冷たい言い草だなぁ、おい」
御剣先生がわざとらしく大げさな溜息をついて綾華先生の肩を抱く。綾華先生にすぐさま払いのけられてるけどめげずにチョッカイをかけてる。
二人が付き合ってるって事は何となく知ってるけどさ、仮にも生徒の前なんだから堂々とイチャ付かないでほしいんですけど・・・。
「こんにちは」
保健室のドアが開き、今度は陣野弘大(じんの こうだい)君が入って来た。科は違うけど、弘大君が部長をやってる演劇部で僕も時々ゲストヒロインとして出してもらうことがあるから顔見知りだ。
「弘大君あけましておめでと~♪ 今年もよろしくね」
御剣先生を押しのけて弘大君に手を振る。普通なら僕のこんな可愛い笑顔を見たら皆メロメロになっちゃうんだけど、弘大君はいつもクールで無反応。この僕の魅力に興味なさそうなんて超不思議。だけど、御剣先生と違っていい人だよ。だって、
「あけましておめでとう、アリスちゃん。今年もその可愛らしさで演劇部に力を貸してね」
こんな風に僕の可愛さは認めてくれてるからね。
「陣野くん、なんだか顔色が悪いですね。寝不足ですか?」
「ホントだ。目の下クマ出来てんぜ? 始業式から景気悪ぃな」
綾華先生、御剣先生が弘大君の顔を見て心配そうに尋ねる。
「・・・はい。ちょっと次の劇の台本手直ししてたら寝るの遅くなっちゃって」
弘大君は苦笑しながら寝不足の理由を答えた。
「劇、今度は何やるの? どんなヒロイン~?」
お姫様が目立つ話なら僕がヒロインやってあげても良いけどって思いながら聞いてみる。だけど、
「人魚姫だよ」
弘大君の答えを聞いて僕はがっかりした。
あのお話嫌いなんだもん。だってなんか暗いし、王子様にちっともキュンとしないし。
「陣野くんが書くなら結末はハッピーエンドになるんでしょう?」
既に興味を失いつつあった僕とは違い、期待を込めて尋ねたのは綾華先生だ。御剣先生は国語の先生のクセに「人魚姫ってどんな話だっけ?」なんて言って首を捻ってる。
「実はそこに悩んじゃって・・・ディズニーのリトルマーメイドもハッピーエンドだけど、あの展開だと俺としてはなんかしっくり来ないっていうか・・・」
だから煮詰まっているのだと、弘大君が溜息をついた。
「顔が似てるってだけで人違いしたまま結婚するようなアホ王子なんて、いっそのこと刺し殺してしまえばいいと思うんですよね・・・」
ハッピーエンドにしたくない理由を苦々しい顔で語る。
そうだよね! そうなの、それなの! 僕もすっごっく同意するよ!
「じゃあ王子刺しちまえばいいじゃねーか、。人魚姫は王子のことは無かったことにしてこれからも人魚として平和に暮らす、と。昔の男に対する切り替え早いのは女の特権だろ」
御剣先生が思い切った助言をした。「新説・人魚姫だ」なんて笑ってるけど、
「へぇ~、流石御剣先生は女性の心にお詳しいんですね」
綾華先生が凍り付いたような笑顔でそんなことを言うと、途端にさっと血の気が引いたような顔になった。
「い、いやいやいや、別にそんなこと言ってねぇだろ。俺はただ、ほら、アレだ、あくまで、一般論としてだな・・」
途端に焦って言い訳してるし。
「王子様に見切りをつけて帰ってきた人魚姫を迎えてくれる、幼なじみの超格好いい人魚の男の子とか出せばいいじゃん」
御剣先生と綾華先生の痴話喧嘩はほっといて、僕は弘大君にそんな提案をしてみた。
「王子様とくっつくだけがハッピーエンドじゃないんだし、理想の王子様なんて追いかけるよりも、ずっと自分を思い続けてくれた身近な存在に気付ける・・・なんて、すっごくステキでしょ?」
思いつきで言ってみた割には超ナイスじゃない? 流石僕♪なんて思って反応を期待してたら、御剣先生がすごーく怪訝な顔して僕を見てた。
「お前がそれ言うか・・・?」
「確かに・・・有栖川くんは理想の王子様を見つけるんだっていつも言ってますもんね」
綾華先生まで意外そうな顔をしてる。
「ちょい前は宇佐美先生を追い回してたしな。ありゃなかなか見物だったぜ」
うぅ・・・御剣先生が僕の古傷をえぐってくる。
だって仕方ないじゃん。宇佐美先生ってば、この僕があんなに一生懸命頑張ってたのに全くなびかないし。何だかよく分かんないけっど、子供の頃からずっと好きだった~なんて相手もいるし・・・。
あぁもう! 生まれて初めての失恋のことなんて思い出したくないのに、御剣先生のバカ!!
「そう言えば、とっても素敵な王子様を見つけたって言ってませんでした? ほら、金髪の」
僕がムッとしてることに気付いたのか、綾華先生がやんわりと話題転換を図る。
・・・けど、実はそっちの話題もビミョーなんだよね。
「それもやめたの。進学科の子だったんだけど、なんかプロのモデルなんだってさ」
あ~ぁ・・・って深い溜息ついてみる。ここには僕の可愛さアピールする意味のない三人しかいないから、もう素でいいやって思えてきた。普段は絶対しない、思いっきりぶすったれた顔に変えた。
「プロのモデルだと何か駄目なんですか?」
綾華先生が首を傾げる。あぁもう、分かってないなぁ!
「モデルなんて隣にいたら僕が目立たないでしょー! 常に何処にいようとも僕が一番目立って注目されてないと嫌なんだもんっ!」
鼻息荒く主張する。
「なるほど、有栖川くんらしいですね」
「いっそ清々しいほどにね」
綾華先生は苦笑し、弘大君は遠慮することなく呆れた顔をした。そして御剣先生は、
「自己チューの極みだな。そりゃ彼氏も出来ねぇわ・・ととっ、危ね」
そんな悪態をつくから、肘うちを食らわせようとしたらあっさり避けられた。
「んで? お前もその新説・人魚姫みたいに、理想の王子様ってヤツを探すのは止めにして、ず~っと見守ってくれてるっつー手近な相手にしとくのか?」
御剣先生が悪戯めかした笑みで言う。
あぁもう! ホンットつくづくムカつくなぁ!!
「お話はお話、僕は僕。僕は超超超超完っ璧な理想の王子様を探すに決まってるでしょ!」
思い切りふんぞり返って「そんなわけないじゃん!」って言ってやる。
まったく、僕を誰だと思ってるの!?
「それでこそアリスちゃん」
「今年も絶好調ですね」
弘大君と綾華先生が拍手する。
ふふん、当然! 今年こそ、理想の王子様に出会っちゃうんだから!!
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