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お願いだからどっか行ってください(sideディアナ/※※※)

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「シャルル殿下…!」
意外過ぎて息が止まりそうだ。三日月をバックに、腕を組んで立っている様子は、彼の金髪もあって美しい月の王子様のようだ。いや、実際王子様なんだけど。

「どうして、こんなとこにいるのかな?」と見たことがないくらい、よどんだ目をした殿下がこっちこそ聞きたい疑問を彼が口にする。何この人エスパーなの、なんで子猫の逃亡知っているのよ!?

何かヤバい。ケイトはこういう本能的にヤバさを感じた時は、自分の勘を信じて問答無用で逃げるべきだと言っていた。だが一応婚約者でこの国のトップに近いお方にそれは無理がある。
というかなんでピンポイントで出会うの?今、夜中近くでここは国境近くの辺境の街だよ?運悪すぎない?
とにかくリボンの件はバレたらマズい。あるかわかんないけど、不敬罪にあたるのでは……。

「僕に言えない理由なのかい?」とすっとこちらに近寄ってくる殿下。ヤバいバレッタが壊れてるのがバレちゃう。

私は後ずさりながら、後ろ手でカインにリボンをわたす。あ、受け取ってくれた。私とカインの長い付き合いだから、きっと意図はわかるはず。

コツコツと歩いて私に近寄り、そっと私の頬に触れる殿下。アイスブルーの瞳に射抜かれてしまいそう。くすぐったいしゾワッとする。何かこの人怒ってない?そりゃまあ外聞は良くないけど、どうせ婚約破棄するからどうでも良い気もするけど。

「あ、あの猫を追いかけてました……今日侯爵家で保護した子なのですが、誤って荷馬車か何かに乗ってしまったようで……。」と正直に説明しながら、殿下の顔の前に抱っこしていた白猫をさしだす。たらーんと縦に伸びた猫が、タイミングよく「にゃー」と鳴いた。

「猫……?」途端に毒気が抜けたようになる彼。

「こんな夜遅くに出歩くのは、殿下の婚約者として良くないのはわかっていたのですが、護衛もいるから大丈夫かと思いまして。それに猫とはいえ一度は引き取った命ですので……。」申し訳ないという姿勢を見せる。

「……いや、そういう小さきものを大切にするディアナも素敵だよ。ただ、やっぱりこんな遅くに護衛一人で出かけるのは危ない。今度からは気を付けてくれると、うれしいな。」とふわっと笑いながら殿下。あ、なんかわかんないけど機嫌が直ったみたい。いつもの(私は胡散臭いと思っている)王子フェイスに戻った。

「ええ、以後気を付けますわ。そういえば、殿下なぜ、こちらに?」と私は一番聞きたかったことを口にした。

「あぁ、僕は……いや他国への急な視察が入ってね。この先に旅団を待たせてあるんだが、君の姿が見えて気になってね。」

「それは旅程もあるでしょうに、申し訳ありません。……もしや、リリネシアへおいでになるので?」と昼の話からピーンときた私が聞くと、気まずげに殿下が肯定した。リリネシアとは ベルナールエロガキから聞いた王女様がいるという南の国の名前だ。

はっはーん、さてはあいびきか。今からなら飛ばせば、明日の朝にはリリネシアの首都に着くはず。可愛い可愛い南の国のお姫様に会いに行く途中なんですね。「急に顔を見たくなって、来てしまった。」なんて言いつつ、頬を染める美しい褐色のぼいーんな姫君に愛を囁くんですね青春だなうらやましいぜドチクショウ。

唐突に「あ、流れ星!」と私が南の方向を指す。そんなものはないけど。殿下とその後ろに控えている顔のよく見えない人が、指した方に振り向いたすきに、すかさず背後から忍び寄ったカインが、急ごしらえでくっつけなおしたバレッタを私の髪につける。おろしていた髪をハーフアップにし、編み込みまでして。さすが、私の従者。

「きっと流れ星は南の国への道行が明るいという吉兆ですわ。私も影ながら、応援しております。それでは馬車を待たせておりますので、失礼いたします。」とカーテシーしながら言う。私はお2人の恋路を邪魔する悪役令嬢ではないので、心から恋人との楽しい時間が過ごせることを祈っている。
何だか殿下はもの言いたげだったが、そんなに気にする必要ないのに。踵を返し、しずしずと私はカインを従えてその場を離れた。ポロっとリボンが取れちゃったら困るしね。





「やあこんばんは、ディアナ。今日は月がとてもキレイだ。絶好の逃亡日和だね。」

開口一番がこれだ。一言で言えば、あちゃーと思った。素直に「行かないで」って言えばいいものを。好きになった女の子の前でかっこつけたいお年頃なのはわかるんすけど、さっきまでの必死さはどこいったんすか。

どーもまたまた※※※です。え?三度目の正直で名前教えろって?まあそれはまた今度ね。

さっきまで王宮にいたのに、今は国境付近にいる。何を言っているのかわからないと思うが俺だってわからない。とりあえず端的に説明すると、シャルル殿下が王室献上馬のスレイプニルを厩舎から無断で持ち出して、2人乗りでここまで来た。護衛くんは念のため、殿下の部屋で殿下のふりをしている。

もうここまでくる間に、2,3回は”影”をクビになることをやっているが、ここで殿下に何かあったら、そもそも物理的に首が飛んじゃうよね。

あ、殿下がディアナ様に触れているのを見たイケメン従者くんが「たぶんその顔を王家に向けるだけで不敬で処罰ものだよ!」というものすごい形相をしている。彼が手を出したら、俺が守んなきゃいけないんだけど、勝てる気がしない。やめて本当、これ以上のトラブルは勘弁。

ふっと彼と目が合ったので、俺は踵は地面につけたまま、つま先側だけでトントンとリズムをきざむ。これ実は”影”内での暗号で、「とんっ」と短く叩くのと、「とーん」と長く叩くのとの組み合わせで、言葉を伝えられるんだ。ん?聞いたことがあるって?まあ他国でも似たようなものはあるしね。

「(何でお前らがここにいるんだよ?どうやって嗅ぎつけた?)」と不機嫌そうに足を叩く従者くん。
「(殿下がプレゼントによくわからないけど、居場所がわかる魔法を仕込んだらしい。)」
「(はあーっ!?何だよそれ、手切れ金じゃねえのかよ?どうせいずれは婚約破棄する癖に意味わかんねえ。)」
「(婚約破棄!?いや殿下そんな気ないよ。『ディアナがいなくなってしまう』って言って国宝級の妖精馬持ち出して、ここまで追いかけてきたんだよ!?)」
「(貴族性悪どもの間では噂になってんぞ。南の国のお姫様と再婚約するって。やっべお嬢の居場所監視してたのか、ムカつく殺そう今すぐ殺そう。)」
「(それは本当にやめてよ、お願い。っていうかその話は、殿下がディアナ様じゃないと誰とも結婚しないって言い張って、立ち消えになったんだよ。)」
「(ったく、貴族共の中でそんな噂流れてるってことは、王妃サマはまだあきらめてねえってことだぞ。)」

確かにそうだ。既成事実として作ってしまうために、彼女が意図的に噂を流しているとみていいだろう。となると…考えこむ俺の耳に

「もしや、リリネシアへおいでになるので?」と鈴を転がすようなディアナ様の声が聞こえた。君、勘違いしているから聞いてるんだね!?でも落ち込んでないところ見るとやっぱり殿下と結婚する気ないよねえ!?殿下うなずいちゃだめです、今からでも遅くないから愛の言葉を!あ………行き違いが加速していく。


「(ねえディアナ様の誤解を解いてよー。殿下が可哀そうだよ……。)」
「(残念、俺にとっては好都合な誤解だからそれはできない相談だな。そもそもそんな勘違い無くても、お嬢はオウジサマと結婚する気はないぜ?)」とニヤニヤしながら従者くん。

ソンナキハシテマシター。

優雅に去っていく彼らを見送った後、俺は殿下にこの話をするか迷ったんだけど……ディアナ様が殿下との結婚を望んでないんだし、リリネシアの王女様と結婚したほうが国は潤うわけだから、ま、このままでいいかなあって。

裏に王妃様がいるんなら、俺は逆らいません。公務員なんで。
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