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【第二章】ユウカ・バーレン

【第七話】任務⑧

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「あのね……今日のことなんだけど……ゴメンね。恭司に迷惑かけちゃった」


ユウカは存外素直に謝ってきた。

ユウカはプライドは高いしお調子者な一面もあるが、根は真面目な正直者だ。

元来、こっちの方が素なのだろう。

普段はどうしても、ユウカにとって敵が多すぎるのだ。


「気にしなくていい。結局は事なきを得たんだ。俺もフォローが遅れちまったな。悪かった」

「ううん。それこそ気にすることじゃないよ。私がつい……カッとなっちゃったから……」


ユウカはそう言って俯く。

本当に落ち込んでいたのだろう。

あざとさは感じられないし、これも素で行っているのだ。

恭司はついつい微笑んで、ユウカの肩を掴んで引き寄せてしまった。

ユウカは「ふぇっ!?」と素っ頓狂な声を上げ、恭司の服の袖を手でこじんまり掴む。

上目遣いで恭司を見つめ返してくるユウカを見て、この子はクレイアの件さえなければ本当にモテモテだったかもしれないと、恭司は心の中でこっそり考えていた。


「ど、どどどどうしたの、いきなり?び、びっくりするじゃない」


冷静ぶろうとしているが全然上手くいってなかった。

恭司は顔を真っ赤にしているユウカの頭を抱えるように撫で付ける。

ユウカは事態の理解が追いついていないのか、ただただされるがままだった。


「心配するな。短気なお前の失敗なんていくらでもフォローしてやる。俺は、ずっとお前の味方だよ」


恭司は耳まで真っ赤にしたユウカの頭を撫でながら、なるべく優しい声音で、安心させるように囁いた。

ユウカは何も言わず、ただ恥ずかしそうに恭司の胸に顔を埋める。

肩を抱き寄せているお陰で、ユウカが少し震えているのが分かった。

ユウカは怖かったのだ。

今日の一件で、恭司に嫌われたかもしれないと。

今までずっと独りだったユウカに、初めてできた父親以外の味方。

こんな自分のことを認めてくれて、守ってくれようとまでするパートナー。

そんな恭司が自分の元を離れてしまうかもしれない。

そう思って、ユウカはこの日のうちに謝りにきたのだ。

普段より遅い時間まで起きていたのも、単に不安で眠れなかったのだろう。

恭司が父親と話しているということも、当然その理由にあったに違いない。

不安な心境にある時、人はどうしてもネガティヴな発想ばかりしてしまうものだ。


「ありがとな……ユウカ」

「えぇっ!?な、ななな何で!?何で恭司が謝るの!?謝るのは私で、恭司は別に……」

「いや、いいんだ」


恭司はそう言って、首を左右に振る。

昼間の一件のことなんて、本当はもう全く気にしていなかった。

ユウカはそれについてずいぶん反省しているようだが、恭司の認識としては、所詮子ども同士の口喧嘩だ。

相手が貴族だろうと何だろうと、それほど大した問題には感じていない。

大した問題と感じているのは、恭司が最も厄介だと感じているのは、勿論、アベルトから受けた依頼だ。

仕事の難易度もさながら、自分を傀儡と変えてしまいそうなこの状況。

全てアベルトの掌の上で踊らされているような気がして、恭司はどことなく気分が落ち込んでいたのだ。

そんな時にユウカが現れて、酷く脆い一面を見せられて、恭司は守らなければならないと思った。

こんなことにヘコたれていてはいけないと感じた。

偶然は偶然だが、ユウカは自然に、恭司の気持ちを救ったのだ。

だから感謝の気持ちを述べた。

ユウカはそんな恭司の様子にクエスチョンマークを浮かべる一方だったが、恭司は何でもないように微笑む。

ようやく、一歩踏み出せそうな気がした。


「明日からもよろしくな、ユウカ」

「え?う、うん。よろしくね」


ユウカは何ともよく分からなさそうに、曖昧な頷きを返した。
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