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【第二章】ユウカ・バーレン

【第七話】任務⑤

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空気がピシャリと硬ばった。

もう雑談じゃない。

ビジネスの話だ。


「…………ずいぶんと、穏やかじゃない話ですね。要は、そのイベントの中で殺してこいと?」


恭司は真剣な面持ちでそう訊ね返す。

今までの軽いお喋りが、いきなり酷く物騒な話題へとすり替わったのだ。

静かに緊張感が漂っている。


「そういうことだ。『ボルディス』のことはユウカから何か聞いているかね?」

「魔家貴族の一つだということ以外は何も……。どういう家なんですか?」

「『土魔法』の使い手だ。魔法には基本四属性の他に色々あるが、その色々の中でも特殊中の特殊な魔法だ。元々は石魔法から派生したと言われているが、戦闘における厄介さで言えば石魔法を悠に凌ぐ」

「また……知らない単語が増えましたね……」


恭司は頭を抱える思いだった。

知識がまるで定まらない中で、状況ばかりが早足で進んでいく。

それは偏に恐怖だった。

アベルトの命令に関し、『何も分からない』は『実行出来ない』の理由に足り得ない。

恭司はアベルトに出会ったその日から、そういう立場にいるのだ。


「……申し訳ないね。君のことは正直あまり念頭に置いていないんだ。かつて世界中を血で染め上げた伝説の殺人鬼様だ。分かっていようと分かっていまいと、”出来るだろう??”」

「…………」


(この人は……いや……)


恭司は舌の上にまで出掛かったその言葉を、喉の奥にまで引っ込めた。

『アベルトがここまで自分に情報を与えてこないのはわざとかもしれない』。

そんなこと、言うはもちろん、思ってもいけない話だった。


「まぁ、そういうことだから、仕事上そのイベントに参加するためにも、我が娘とはなるべく親密になっておいてくれ。時期はまだ未定だが、一応、君が入学した後で考えている。集客のこともあるから、あまりモタモタもしていられないんだけどね」

「…………」


結局、これが狙いかと、恭司は嘆息した。

短い付き合いだが、アベルトは何となくや思い付きでは行動に移さない、それくらいは分かってきている。

まぁ、これが『ユウカのためにイベントを作った』のか、『イベントのためにユウカを利用したのか』は分からなかったが、多分両方だろう。

相変わらず不確定要素の多すぎる展開だが、恭司はコーヒーを口にして一応納得の形を見せた。

何も分かってないは今更だし、それについてどうこうは既に話し合った後だ。

いや、正確には決められた後、というべきかもしれないが……。

兎にも角にも、今言うべきじゃない。


「ところで、ユウカから君の入学の日取りについては何か話はあったかな?」


と、その時、

恭司の思考を他所に、アベルトは世間話のような態度で話題を変えてきた。

もちろん聞いた覚えは無い。

今日それに関わる買い物をしてきたはずだが、恭司もそこについては失念していた。


「そういえば聞いていませんね。もう決まっているんですか?」

「あぁ。ちょうど後1週間後だな。手続き等は既に済ませてあるよ」

「さすが、仕事が早い……」

「服や使用物なんかは今日買ってきただろうが、制服はまだのはずだな?そっちは明後日くらいにここへ郵送されてくることになっているから、それを着ていきたまえ。サイズは私の目分量で勝手に決めたんだが、合わなければ言ってくれ。すぐに再発送する」

「分かりました」
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