40 / 134
【第二章】ユウカ・バーレン
【第七話】任務⑤
しおりを挟む
空気がピシャリと硬ばった。
もう雑談じゃない。
ビジネスの話だ。
「…………ずいぶんと、穏やかじゃない話ですね。要は、そのイベントの中で殺してこいと?」
恭司は真剣な面持ちでそう訊ね返す。
今までの軽いお喋りが、いきなり酷く物騒な話題へとすり替わったのだ。
静かに緊張感が漂っている。
「そういうことだ。『ボルディス』のことはユウカから何か聞いているかね?」
「魔家貴族の一つだということ以外は何も……。どういう家なんですか?」
「『土魔法』の使い手だ。魔法には基本四属性の他に色々あるが、その色々の中でも特殊中の特殊な魔法だ。元々は石魔法から派生したと言われているが、戦闘における厄介さで言えば石魔法を悠に凌ぐ」
「また……知らない単語が増えましたね……」
恭司は頭を抱える思いだった。
知識がまるで定まらない中で、状況ばかりが早足で進んでいく。
それは偏に恐怖だった。
アベルトの命令に関し、『何も分からない』は『実行出来ない』の理由に足り得ない。
恭司はアベルトに出会ったその日から、そういう立場にいるのだ。
「……申し訳ないね。君のことは正直あまり念頭に置いていないんだ。かつて世界中を血で染め上げた伝説の殺人鬼様だ。分かっていようと分かっていまいと、”出来るだろう??”」
「…………」
(この人は……いや……)
恭司は舌の上にまで出掛かったその言葉を、喉の奥にまで引っ込めた。
『アベルトがここまで自分に情報を与えてこないのはわざとかもしれない』。
そんなこと、言うはもちろん、思ってもいけない話だった。
「まぁ、そういうことだから、仕事上そのイベントに参加するためにも、我が娘とはなるべく親密になっておいてくれ。時期はまだ未定だが、一応、君が入学した後で考えている。集客のこともあるから、あまりモタモタもしていられないんだけどね」
「…………」
結局、これが狙いかと、恭司は嘆息した。
短い付き合いだが、アベルトは何となくや思い付きでは行動に移さない、それくらいは分かってきている。
まぁ、これが『ユウカのためにイベントを作った』のか、『イベントのためにユウカを利用したのか』は分からなかったが、多分両方だろう。
相変わらず不確定要素の多すぎる展開だが、恭司はコーヒーを口にして一応納得の形を見せた。
何も分かってないは今更だし、それについてどうこうは既に話し合った後だ。
いや、正確には決められた後、というべきかもしれないが……。
兎にも角にも、今言うべきじゃない。
「ところで、ユウカから君の入学の日取りについては何か話はあったかな?」
と、その時、
恭司の思考を他所に、アベルトは世間話のような態度で話題を変えてきた。
もちろん聞いた覚えは無い。
今日それに関わる買い物をしてきたはずだが、恭司もそこについては失念していた。
「そういえば聞いていませんね。もう決まっているんですか?」
「あぁ。ちょうど後1週間後だな。手続き等は既に済ませてあるよ」
「さすが、仕事が早い……」
「服や使用物なんかは今日買ってきただろうが、制服はまだのはずだな?そっちは明後日くらいにここへ郵送されてくることになっているから、それを着ていきたまえ。サイズは私の目分量で勝手に決めたんだが、合わなければ言ってくれ。すぐに再発送する」
「分かりました」
もう雑談じゃない。
ビジネスの話だ。
「…………ずいぶんと、穏やかじゃない話ですね。要は、そのイベントの中で殺してこいと?」
恭司は真剣な面持ちでそう訊ね返す。
今までの軽いお喋りが、いきなり酷く物騒な話題へとすり替わったのだ。
静かに緊張感が漂っている。
「そういうことだ。『ボルディス』のことはユウカから何か聞いているかね?」
「魔家貴族の一つだということ以外は何も……。どういう家なんですか?」
「『土魔法』の使い手だ。魔法には基本四属性の他に色々あるが、その色々の中でも特殊中の特殊な魔法だ。元々は石魔法から派生したと言われているが、戦闘における厄介さで言えば石魔法を悠に凌ぐ」
「また……知らない単語が増えましたね……」
恭司は頭を抱える思いだった。
知識がまるで定まらない中で、状況ばかりが早足で進んでいく。
それは偏に恐怖だった。
アベルトの命令に関し、『何も分からない』は『実行出来ない』の理由に足り得ない。
恭司はアベルトに出会ったその日から、そういう立場にいるのだ。
「……申し訳ないね。君のことは正直あまり念頭に置いていないんだ。かつて世界中を血で染め上げた伝説の殺人鬼様だ。分かっていようと分かっていまいと、”出来るだろう??”」
「…………」
(この人は……いや……)
恭司は舌の上にまで出掛かったその言葉を、喉の奥にまで引っ込めた。
『アベルトがここまで自分に情報を与えてこないのはわざとかもしれない』。
そんなこと、言うはもちろん、思ってもいけない話だった。
「まぁ、そういうことだから、仕事上そのイベントに参加するためにも、我が娘とはなるべく親密になっておいてくれ。時期はまだ未定だが、一応、君が入学した後で考えている。集客のこともあるから、あまりモタモタもしていられないんだけどね」
「…………」
結局、これが狙いかと、恭司は嘆息した。
短い付き合いだが、アベルトは何となくや思い付きでは行動に移さない、それくらいは分かってきている。
まぁ、これが『ユウカのためにイベントを作った』のか、『イベントのためにユウカを利用したのか』は分からなかったが、多分両方だろう。
相変わらず不確定要素の多すぎる展開だが、恭司はコーヒーを口にして一応納得の形を見せた。
何も分かってないは今更だし、それについてどうこうは既に話し合った後だ。
いや、正確には決められた後、というべきかもしれないが……。
兎にも角にも、今言うべきじゃない。
「ところで、ユウカから君の入学の日取りについては何か話はあったかな?」
と、その時、
恭司の思考を他所に、アベルトは世間話のような態度で話題を変えてきた。
もちろん聞いた覚えは無い。
今日それに関わる買い物をしてきたはずだが、恭司もそこについては失念していた。
「そういえば聞いていませんね。もう決まっているんですか?」
「あぁ。ちょうど後1週間後だな。手続き等は既に済ませてあるよ」
「さすが、仕事が早い……」
「服や使用物なんかは今日買ってきただろうが、制服はまだのはずだな?そっちは明後日くらいにここへ郵送されてくることになっているから、それを着ていきたまえ。サイズは私の目分量で勝手に決めたんだが、合わなければ言ってくれ。すぐに再発送する」
「分かりました」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!
青空一夏
ファンタジー
婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。
私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。
ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、
「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」
と、言い出した。
さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。
怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?
さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定)
※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です)
※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。
※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる