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【第三章】ディオラス

【第八話】スパイル・ラーチェス 16

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「ふぅん……。まぁ、良いや。とりあえず、やることを……先に済ませろよ」


そう言って、スパイルは座って恭司の前に首を差し出してきた。

恭司の顔つきも、自然と引き締まる。

穏やかだった空気に、緊張感が混ざり込んだ。


「俺は勝負に負け……お前は勝った。お前には俺の首を跳ねる権利がある。やるなら……早くやれ」


場がシィンと静まった。

マグマの燃え上がる音も、木々が燃えて朽ち果てる音も、今は聞こえない。

まるで世界に恭司とスパイルしかいないかのような静けさだった。


「……そうだな……」


恭司は刀に手をかける。

今まで王族狩りとして、様々な首を跳ねてきた。

男も女も子供も老人も……殺すことに躊躇うことなどなかったし、今でも殺すことに抵抗はない。

だが……

スパイルに対しては今や、殺意よりも別の感情も芽生えつつあった。

今までの恭司にはなかったものだ。

生まれて初めて"他人"に感じた感情だ。

それを、ゆっくりと口に出してみる。


「お前……俺と一緒に、来ないか?」


自分自身ですら驚くような言葉。

恭司が初めて"他人"に向けて感じた感情と考えーー。

それは一つの『興味』だった。

恭司とほぼ同等の力を持つこの男。

咄嗟の状況でも瞬時に策を巡らす頭の回転に、戦闘力。

今、恭司一人でバルキーを殺しに行くことは難しいだろう。

というより不可能だ。

ドラルスでいかに体制を整えようと、一人ではその刃を届かせるのにあと何年もかかる。

しかし……

もし、これだけの力を持つ味方が加わればどうか?

恭司と同等の力を持つスパイルと2人でならば……。


ーー三谷でもない男を仲間に引き入れるなど、今までの恭司では考えられなかったことだ。


日本国が無くなって以来、恭司は『仲間』という存在に興味を持ったことはなかった。

というより避けてきた。

また同じことを繰り返すかもしれない。

また同じ思いをするかもしれない。


(それでも……)


逸る気持ちが思考を急ピッチで巡らせる。

思わず、スパイルの表情を見た。

その表情は……笑顔だった。


「良いのか?」


内容もまだ聞いていないのに、嬉しそうに放つ言葉。

恭司は頷いた。

スパイルは立ち上がり、喜んで恭司の手を握り、ほぼ無理やり握手を交わす。


「ありがとう!!よろしくな!!」


こうして、恭司に一人、仲間ができた。

久しぶりに得る『仲間』という存在に、内心では戸惑いを感じる恭司だったが、そこには同時に喜びも混じっていた。


旅は続く。

バルキーやシェルの首をかっ斬る日もそう遠くはないと、恭司は頬を少しだけ緩めた。
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