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【第七章】シベリザード連合国

【第四十九話】準備 ⑤

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「くそ…………」
「畜生…………」
「何でこんなことに…………」


魔族たちの心情は不満だらけだった。

まぁ、元々彼らはドライダスたちによって無理矢理連れてこられたようなものなのだ。

成長だの協力だの…………頼んでもいないのに勝手に巻き込まれて無茶苦茶言われている。

でも…………

恭司が最後に言った言葉だけは、全員に響かざるを得なかった。

当たり前の話だ。


言う通りに出来なければ殺される────。


それだけは、どんなバカにだってすぐに分かる。


「あぁ、やってやるよ、クソッタレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
「こんな所で死んでられるかッ!!」
「おいッ!!テメェら、"協力"しろッ!!"一緒"にあの魔王ブチ殺すぞッ!!」


魔族たちは一斉に雄叫びを上げた。

協力の重要さに気づいたのではなく、単に死にたくないのだ。

恭司はそれを見てニヤリと笑うと、再び刀を鞘にしまう。


「なら、第二ラウンドといこうか────。突撃するだけのカカシ相手じゃ物足りなかったからな。根性見せてみろッ!!」


そうして────。

再び恭司と魔族たちによる乱闘が幕を開けた。

恭司の言った言葉を正しく理解したかどうかはよく分からないが、別にそこまで期待しているわけではないのだ。

キッカケが脅しだろうと何だろうと、ちゃんと"経験"させることこそが狙い────。

強い奴を相手にした時に『逃げる』以外の選択肢を持てさえすれば、それで良い。

元々コレは強行軍なのだ。

これだけの数をそれぞれキチンと教育できるわけでもないし、文字通り身体で覚えさせる方が早い。

そして…………


(クク…………。悪くねぇ感触だな)


その目論見はある程度は果たしていると言えそうだった。

魔族たちは次第に、背中越しに身を寄せ合うようになってきたのだ。

どこから来ても正面から受けられるようにするためだろう。

まぁ、例え正面から受けたところで、そのまま一人でも吹っ飛ばせばすぐに瓦解する程度の策だが、とにかく"考え始めた"点は評価できる。

流石に全員が全員ではないものの、ここで大事なのは『下地』を作ることであって、こんなことで魔族の低脳が解決するはずもないのだ。

ちゃんとした効率的なやり方なら、恭司が改めて考えて教えてやれば良い。


「くそ…………ッ!!やっぱ強ぇ…………ッ!!」
「こ、殺されるッ!!"誰か"来てくれッ!!」
「"一斉放射"だッ!!ブレスが使える奴は"集まれ"ッ!!」


とはいえ、魔族たちの成長は恭司の想定していた以上に著しかった。

元々が単純だからか、一度学べば盲目的にそればかりを繰り返しているようだ。

思考力が足りない分、誰でも思いつく程度のことなら素直にすぐ実行へ移す。

こういった即興の強行軍においては、彼らはヒューマン以上に優秀な兵力かもしれなかった。

いちいち余計なことを考えない分、扱いが楽なのだ。

これだけ単細胞揃いなら、恭司の思う"戦略"にも十分対応できるだろう。

逃げずに言われたことさえちゃんと出来れば、それで良い。

そうして…………


「ふむ…………」


それから2時間も経った頃には、その場にいた魔族のほとんどは地に伏せて倒れ込んでいた。

全滅だ。

全員が倒れ込み、気絶しているかもう動けなくなっている。


「お疲れ様です、魔王様」


すると、

頃合いを見て、ドライダスが歩み寄ってきた。

遠目から観察していたのだ。

ドライダスは始まった当初と比べて、今は驚きと感心に満ちた表情をしている。

この何万という数もすごいが、『誰も死んでいない』ことが意外で仕方ないのだ。

てっきり恭司なら何百何千かくらいは殺してしまうかと思っていたのだが、意外と自制心が効いていたということだろう。

恭司もまた、満足気に呟く。


「俺は…………もしかしたら『教育者』に向いているのかもしれねぇな」


『それだけは絶対に無い』と内心でツッコミながら、ドライダスは黙って頭を下げた。

こういう時はスルーが正解だ。

下手に口を出すとロクなことがない。


「とにかくコレで多少は『下地』ができたな。ドワーフどもの方はどんな調子だ?」

「ハッ…………。取り急ぎ、試験的な第一号は完成したようです。確認なさいますか?」

「へぇ、もう出来たのか…………。流石の仕事ぶりだな。もちろん確認しよう」


そう言って、恭司はその場を後にした。

魔族たちと違い、特に疲労も感じていないようだ。

何万もの魔族を相手にした後とは思えない、相変わらずの化け物ぶりだが、ドライダスもそこには突っ込まない。

今さらだ。

恭司はドワーフたちのもとへ向かうと、"それ"を見て感心に息を漏らす。
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