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【第七章】シベリザード連合国

【第四十八話】勇者 ③

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「お前らの使う『スキル』やら『職業』にはもうウンザリだ…………。ホトホト反吐が出るよ。戦闘の『せ』の字も知らぬクソガキが…………他人にもらった力で、何を勝ち誇った顔をしてんだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


その不敵に満ちた顔が、恭司の怒りの琴線に触れた。

本気モードだ。

三谷の中伝が一つ、『影舞踊』────。

恭司とまったく同じ姿をした幻影が突然大量に現れ、その全てが刀を振り上げている。


「く…………ッ!!」


そこから何をするつもりなのかは明確だった。

そもそも隠すつもりがないからだ。

和也もまたすぐに『分身』を作るが、恭司が前世で散々使い込んできた『影舞踊』とは、単純に"数"が違う。


「バカ…………な…………ッ!!」


狼狽える和也を他所に、いきなり大勢となった恭司はただただ感情のままに攻撃を開始した。

三谷の中伝が一つ、『風撃砲』────。

振り下ろされた刀から飛び出す、横向きの竜巻の一斉放射だ。

本物は一つだけだが、この一瞬で見分けて避けることは至難の業だろう。

それこそ、長年の戦闘経験でもないとすぐには反応できない。


「く、クソ…………ッ!!なら……ッ!!」


そこで和也が頼ったのは、やはり"スキル"だった。

スキル、『ゲート』────。

恭司の『瞬動』や『ソニックムーブ』とは違い、単純に空間をそのまま移動するスキルだ。

熟練度は『分身』同様まだまだだが、直接移動するわけではない分、完全に被弾を防ぐことができる。


「チ…………ッ!!また妙なスキルを…………ッ!!」


恭司は和也が移動した瞬間に、すぐさま顔を"和也のいる"方向へ向けた。

一瞬にして見つかったことに驚きが隠せないのか、和也の顔は真っ青だ。

何故すぐに居場所が分かったのかは単純────。

ただただ純粋な、"経験則"に他ならない。

恭司が今の身体になったのはつい最近のことだが、この技自体は前世で飽きるほどに繰り返し使いまくってきたのだ。

こういう時に相手がどこへ逃げたがるかなんてもう考えなくても分かる。

恭司はそこから間髪入れずに、すぐさま次の攻撃を仕掛けた。

先の『影舞踊』の幻影と共に一斉に行われた奥義────。

『阿修羅』だ。

中伝と奥義の併用────。

シャーキッドの時とは違って奥義を使いこなせる今となっては、これくらいの芸当は無理なくこなせる。

ただでさえ手数の多い『阿修羅』がこうも一斉に放たれては、もうどこにも逃げ場などあるはずがなかった。

『ゲート』で離脱できそうな場所も無い。

本物と一緒に幻影が混じっているせいで、逃げられそうな場所には全て予め攻撃が放たれているからだ。

一か八かで幻影の中に飛び込む度胸もない。

和也はそこですぐさま手を前に出すと、自分を囲むようにそれを"召喚"することにした。

スキル、『アイテムボックス』────。

すると、

さっきまで何もなかった所に、いきなり巨大な盾のような物がいくつも同時に現れる。

何かの魔法具なのか、とても大きくて分厚い盾だ。

『阿修羅』はそれらを悉く斬って砕いて崩していくが、幻影による偽物だけはそうもいかない。

幻影は盾にぶつかって音もなく消えていき、元の何もない状態へと戻っていった。

和也はその途端にすぐさま『ゲート』を使う。

偽物の幻影が消えたことで、安全そうな場所を見つけられたのだ。

本物の『阿修羅』が盾を破壊した頃には、和也は既に数百メートル離れた所まで移動している。

だが…………

それでもやはり、恭司はすぐに和也の逃げ込んだ先を見つけてきた。

予想していたのか純粋に気付いたのか、とにかくとんでもない速度だ。

和也の身体自体は大きな盾に遮られて物理的に見えなかったはずなのに、恭司は和也が移動した瞬間にグルリと顔をそちらへ向ける。

今  度  ハ  ソ  ッ  チ  カ  ────。

表情がなかった。

完全に獲物を狙う肉食獣の目だった。

ゾッとするくらいの執着心だ。

どこへ行っても付き纏ってくる死神の鎌────。

和也も思わず、声が出る。


「ひ…………ッ!!」


三谷の秘奥義が一つ、『風撃閃』────。

けたたましくも荒々しい音を立てて、恭司は再び和也に追い縋った。

自らを中心に入れた、三谷の秘奥義だ。

『風撃砲』とは比べ物にならないほどに大きな風の螺旋────。

触れた者を全て粉微塵にする殺戮の暴風は、立ち塞がる障害を何もかも破壊しながら和也を追う。


「あ、あああああああああああああああ…………ッ!!げ、『ゲート』ッ!!『ゲート』ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


和也は錯乱しながら、何度も『ゲート』を使った。

今の和也の熟練度では数百メートルがせいぜいのため、一気に遠くまで移動することはできないのだ。

息を呑むような怒涛の連撃────。

『インビジブル』ですら使う暇はなく、『使用回数』の限界も迫る中、和也はひたすら"逃げ"に徹する。


「和也ッ!!『聖剣』だッ!!『聖剣』を使えッ!!前に教えてやっただろうッ!?」


あまりの急展開と速度に、ネシャスの声も焦りに満ちていた。

一分一秒が死ぬ寸前の世界だ。

いつまでもどこからでも恭司は和也の命を狙い、『奥義』を使った大型の攻撃が数秒単位で連続して追いかけてくる。

ネシャスもまた、恭司のあの様子に冷や汗を垂れ流した。

和也も変わったはずだが、今の恭司の変化はそれ以上だ。

"あの時"とは明らかに戦力が違いすぎる。

和也もあの様子では、『聖剣』なんて使う余裕はないだろう。

というより、恭司には『使用回数』なんて制限はないのだから、このままだとジリ貧だ。

このままでは、世界の『勇者』が死んでしまう────。
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