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【第六章】新生・魔王軍

【第四十一話】最狂の死神 ⑧

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「はぁ……ッ!!はぁ……ッ!!はぁ……ッ!!はぁ…………ッ!!」


そして…………

ニーニャが攻撃を開始してから約10分────。

"最後"の方になってようやく…………ディーグレアの首の"骨"が見え始めた。

自然と溢れ出る涙に、しつこく心を蝕み続けてくる後悔────。

少しでも気を抜くと、殺したはずの心がすぐさま蘇ってきてしまいそうだ。

自分が今、"何を"しているのか────。

ちゃんと考えてしまえば、心があっという間に壊れてしまう。

何でこうなったのかすら、ニーニャにはもうよく分からなくなっていた。

コレが最後の別れなんてあんまりだ。

脅されて…………言いくるめられて…………反論も何も出来ずに…………自ら"選択"したまま、ニーニャは"愛した人"を刻み続ける。


「ディーグレア様…………」

「ぁ………………。ぅ………………」


そして…………

ディーグレアの意識はもう今にも消え去りそうなほどに、小さく薄くなっていた。

まだ消えていないのは、込み上がって溢れ出して止まらない"無念"があるからだ。

死んでも死にきれないほどの悔しさが、最期の最期までしぶとく残り続けている。

それでも既に消え去るのは時間の問題となってはいるものの、ディーグレアはゆっくりと死に絶えていきながら、最期に"仲間"の顔を思い浮かべていた。

閉じていく瞼の裏に浮かび上がる、ドライダスにナターシャにニーニャ…………共に死線を潜り抜けてきた、数多くの魔族たち────。

無念と言えば…………やはり彼らのことなのだ。

ディーグレアは死ぬ間際になって、目がグルンと白目を剥く中、彼らの姿を頭に鮮明に映し出す。


(ドライダス…………ナターシャ…………。そして…………ニーニャ…………。我が不甲斐なかったばかりに、辛い思いをさせてしまってすまない…………。もうこの先、我が皆を率いることは無いだろう…………。サービスタイムは終わりだ。もう間も無くして…………我はまた、"あの場所"へと連れ戻される。こんな我にここまで付いてきてくれて…………皆…………本当に…………ありがとう……)


「ディーグレア…………ッ!!」
「ディーグレア様ぁぁぁ…………ッ!!」
「ディーグレア様…………ッ!!」


ドライダスもナターシャも他の魔族たちも…………いつの間にかその瞳には涙が溜まっていた。

声は聞こえずとも…………感じるのだ。

ディーグレアの感情が…………想いが────。

そこに言葉はなかったとしても、その目や表情に付随された"優しさ"だけは、まだ彼らの心にも届く。


(我は良い仲間を持った…………。志半ばでこのような結果となってしまったが、その人生自体に悔いはない…………。…………だがッ!!だが…………ッ!!!!それでも…………ッ!!)


ディーグレアは最後の力で歯を目一杯食いしばりながら、思わず涙を流した。

さっきまでとは打って変わり、怒りと憎しみに支配された顔だ。

ディーグレアは目をギュッと瞑って涙を振り絞りながら、強く…………強く、念を飛ばす。


(願わくば…………ッ!!皆、"そいつ"にだけは…………ッ!!カザルにだけは、決して騙されるな…………ッ!!そいつは、皆を…………ッ!!"魔族"を導く王などではないッ!!そいつは…………ッ!!ソイツはぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ!!)


ディーグレアの最期に残された、"無念"の"元凶"────。

もうほとんど何一つとして見えやしないのに…………"その時"になって、何故か恭司の顔だけはやけにくっきりと見えた。

口元を三日月状に歪めた、悪意と狂気に彩られた禍々しい顔────。

相変わらずの凶悪で残忍な表情だ。

ヒューマンのように見えるのは見た目だけで、中身は魔族などよりよっぽど化け物じみている。


「ククッ!!最後の別れは済んだか、ディーグレア…………?じゃあ、コレでようやく終わりだなァ…………ッ!!もう少しすれば、流石のお前も息絶えるだろうさ。今後の魔族たちについては、俺にばっちりと任せておけ。これからは俺がコイツらを"使って"…………ッ!!ヒューマンどもをしっかりと皆殺しにしてやるからなァ…………ッ!!フ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  …………ッ!!」

「ぁぅ…………ぁ…………が…………。(クソが…………。何でお前みたいな奴が…………次の魔王…………なんかに…………)」


ディーグレアは最後の最後まで恭司と分かり合えないまま…………業火の如く強い憎しみと共に、意識を閉ざしていった。

無念で…………屈辱的で…………最悪の最期だ。

激しい憎悪と後悔を胸に抱きながら、ディーグレアは目を大きく見開きつつ、そのまま事切れたように眠りについていく。


そうして────。


恭司はハイエルフたちの協力のもと、ディーグレアを下したのだった。

コレで…………恭司が最終段階に進むための工程は全て完了したのだ。

ニーニャやドライダスたちは最後になってディーグレアの死に顔を見つめつつ、本当にコレで良かったのかと涙を流す。

彼らをこれまで率いてきた『希望』は、"自分たち"の手によって…………たった今、跡形もなく消え失せたのだ。

押し寄せる後悔に、今になって湧き立つ葛藤────。

もう戻れないと分かっていても、その"死"を目の前にすれば、その判断が間違っていたのではないかと少しばかり不安が顔を出してくる。

ドライダスたちが見たのは聞いたのは、あくまでも"断片的"な事実なのだ。

"もしかしたら"…………と…………少しだけ心が"振り返り"を求め始める。


"だから"…………ッ!!


"後は"そう────ッ!!!!



「"食事"の時間だ…………ッ!!」

「「「「え…………ッ!?!?」」」」


グッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


手掴みで肉を引き裂く音────。

恭司は事もあろうに…………"それ"を今すぐ始めた。

"世代交代"の締めくくり────。

"別れ"の総仕上げ────。


そう…………


"公開処刑"だ。

もちろん…………晒し首どころの話じゃない。

恭司はトドメを刺したニーニャを押し除けると、ディーグレアをそのまま"食べ始めた"のだ。

もう後戻りはできないのだと…………彼ら全員に思い知らせるかのように────。

お前らの"選択"によってこうなったのだと…………彼ら全員に突きつけるかのように────。

恭司は生のまま…………ディーグレアの硬い皮膚を、歯で手で千切っては乱暴に食い散らかしていく。


「あ、あぁ…………ッ!!や、やめてニャ…………ッ!!やめてニャあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「おえッ!!おええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」
「そ、そんな…………ッ!!ディーグレア様…………ッ!!ディーグレア様ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!」


ニーニャは泣き喚き────。

ドライダスは吐き散らし────。

ナターシャは嘆き悲しんだ。

やはり…………元とはいえ、魔王の肉は最高だ。

生でも問題ないくらい…………美味しくてたまらない。


「ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ …………ッ!!ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


恭司は笑い、魔族たちからは悲鳴が上がった。

かつて…………一つの世界を滅ぼす寸前にまで追い込んだ、史上最悪の殺人鬼の復活だ。

恭司は身体から白い湯気を噴き上げながら、ディーグレアの肉を頬張って、メキメキと体格をビルドアップさせていく。

それは…………魔族やヒューマンなどの種族の枠に収まらないほどの、強烈であり絶対であり不変であり純粋な…………『悪』そのものだった。

正しくこの世の『絶対悪』だ。

世を乱し、悪意と狂気によって世界を混沌に引き摺り込む、最低最悪の暴君の誕生────。

"世界大戦"が…………始まりを迎えた瞬間でもある。


その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』────。

その超絶で絶大な強さは、正に『神』────。


だからこそ…………


後に人々は、彼をこう呼んだ。

『鬼神』と────。


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