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【第六章】新生・魔王軍

【第四十一話】最狂の死神 ⑦

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「やり方は分かるな…………?何でもいいから、ディーグレアの首を掻っ切ってやれば良いんだ。少し硬いかもしれないが、お前ならチョロいもんさ。単純だろう…………?」

「い、嫌…………」

「断ってもいいが、その場合は"全員"、そこの『卑怯者』と同じ末路だ…………。決闘を汚した『卑怯者』への手助けなど、"魔族として"は言語道断────。もちろん…………"元幹部"であり、この場で"最も強い"『竜種』であるお前が言うなら、他の魔族たちだって反対はしないさ」

「そ、そんな、『全員』なん……」

「だから…………ッ!!今ッ!!ここで"選択"しろ、ニーニャッ!!全員揃って俺と共にヒューマンを滅ぼすか…………ッ!!全員ここでこの『卑怯者』と共に死ぬかだッ!!さァ、決めろッ!!さァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァさァ…………ッ!!」

「ひ………………ッ!!」


竜種であるニーニャすらもが慄く、狂気の恫喝────。

ドライダスやナターシャもニーニャと同じ『竜種』であり、"元幹部"であるものの…………有無を言う間も無く勝手に巻き込まれてしまった。

今のこの瞬間に限り、ニーニャが彼らの"代表"としての扱いになったのだ。

まぁ、それについては、ドライダスもナターシャも特に反論はない。

この場ではニーニャだけがディーグレアを庇い、ここ最近のディーグレアを知っているからだ。

ニーニャとの付き合いも長いし、『弱肉強食』の論理で言えば、ここではニーニャが一番強い。

それに…………

"万が一"の時は本当に一緒に死んでやれるくらいには、彼らの絆は相当に強かった。

他の魔族はとばっちりだ。

理不尽で全く納得できなかったとしても、この狂気の暴君に逆らえるほどの度胸はない。

兎にも角にも…………ニーニャの『選択』一つで、ここにいる魔族たちの命運が左右されるような状況になった…………ということだった。

ニーニャの意思一つで、魔族の『本意』が決まる。

ディーグレアを殺すか、『全員』死ぬか────。

改めて考えても最悪の選択肢だ。

ニーニャの頬から、大粒の冷や汗が何度も何度も滴り落ちていく。


(コレが…………『新しき王』…………か……)


ドライダスはこの光景を見て…………改めて息を呑んだ。

この場の空気は異常だ。

背中が寒々しく凍りつく中、汗だけが一向に止まる気配がない。

恭司の醸し出す不気味なオーラに誰しもが圧倒され、心臓の鼓動を急ピッチで跳ね上げていた。

ドライダスやナターシャまでもが大人しくなってしまうくらいだ。

チリチリと全身に痛みを感じるほどの絶大な緊張感が場を包み、空気がピリピリと冷たく苦しくなっていく。

選択肢なんて…………もはやあってないようなものだった。

一応『選択』なんて銘打ってはいるが、ほとんど"恐喝"のようなものだ。

まるで心を鎖で束縛されているかのように…………抗おうにも、身体がそう動いてはくれない。


「ディーグレア様…………」

「がああああああああああああああああああああああッ!!グアアァガ…………ッ!!ぐぅああああああああああああああああ…………ッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!」

(やめろ、ニーニャッ!!そんなことをする必要はないッ!!ソイツはお前たちに消えない傷を負わせようとしているんだッ!!やれば二度と後戻りできなくされるぞ…………ッ!!)


ディーグレアによる必死の制止も…………この場にいる魔族たちには誰にも届きはしなかった。

既に彼らのディーグレアに対する信頼はなくなっており、それどころか命の危機にまで追いやられているほど緊迫した状況になっているからだ。

勇者などよりよっぽどタチが悪い。

ニーニャはとりあえず大きく息を呑むと、慎重に一歩ずつ…………ディーグレアの元へゆっくりと歩み寄っていった。

そのユラユラと小刻みに左右へとブレる様は、見方によってはゾンビのようだ。

覚悟を決めたわけじゃない。

決断したわけでもない。

ニーニャはただ…………"諦めた"だけだ。

その行動に心や意思はなく…………恭司の恐喝に仕方なく流されるまま、思考を停止して動いている。

恭司はそんなニーニャの様子を見て…………満足そうに、ニヤリと口元を緩めた。

"上出来"だ。

ニーニャが…………魔族たちが"自ら"動いた事実さえあれば、あとはどうとでもできる。

だから────。


「さァ、やれ────。ニーニャ」


「ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


ザク…………ッ!!ザク…………ッ!!ザク…………ッ!!ザク…………ッ!!


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!ガァァァァァァァァァァ…………ッ!!グァァァ…………ッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!」


響き渡る絶叫に、延々と高まっていく狂気性────。

瀕死でも尚硬いディーグレアの身体を、ニーニャは自らの爪で力一杯斬り裂いていった。

もう一心不乱だ。

何も考えず────。

何も感じず────。

まるで人形の如く、ただただ無心で心を殺し、ひたすら作業を続け続ける。


「ひ…………ッ!!ひ…………ッ!!」


ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャッ!!ズシャ…………ッ!!


「ぁう…………ッ!!がぁ…………ッ!!」


物理的に肉体を奪い取られていって、ディーグレアも既に叫ぶ気力すら残ってはいなかった。

もはや…………最期に残った力ですら底を尽きたのだ。

静寂に包まれたこの空間の中────。

ディーグレアの血が肉がニーニャの手によって幾度となく宙を舞い、地面が真っ赤に染め上げられていく。
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