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【第六章】新生・魔王軍

【第四十話】無敵の王様 ⑤

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「グハハ。良い攻撃を為すには、まずは万全の防御からというわけよ。さァ…………お前の攻撃は、この我が鎧を打ち破れるか…………?」

「………………」


早々と"最終"奥義を出してきたディーグレアを前に、恭司は何も言葉を返さなかった。

もちろん…………この展開を予想しなかったわけではない。

ディーグレアはかつて当時の勇者パーティと相打ちになり、実際に世界を滅ぼす寸前にまで追い込んだほどの実力者なのだ。

奥の手の一つや二つくらい隠し持っていたところで、別におかしくも何ともないだろう。

しかし…………

それでも尚、恭司がここで動いたのは、ただ単に"打算"があったからだった。

もちろん…………『奥義』だ。

この『中伝』よりもさらに上の技────。

結局…………何をどう考えても、今の恭司がディーグレアを殺すためには、そこだけは絶対に外すことはできない。

だが…………

そんなにも強大な攻撃が、それほど簡単に放てるはずもなかった。

無理矢理放てば不完全に終わるだろうし、ちゃんとしようと思えば必要以上に時間がかかるのは明白なのだ。

しかも…………

この未だ未発達な身体では、放った後に大ダメージを喰らうことは目に見えている。

今はヒールポーションも手元に無く、仮に戦闘中にそんな状態になることがあれば、恭司は確実にここで死んでしまうことだろう。


("だから"────)


恭司は今…………密かに待ち続けていた。

"そろそろ"なはずなのだ。

ディーグレアと戦い始めてそれなりに経ったが、ついさっき"ハイエルフ"たちから聞いた限りでは、もう近くに来ていることは間違いない。

だからこそ…………

あとは、"タイミング"だけなのだが────。


「何だ…………?何も答えないのか…………?流石の貴様も、この鎧を打ち破る術は持ち合わせておらんか…………。ならば…………ッ!!そのまま為す術なく、ただただ無惨に死んでもらうまでよッ!!」


ディーグレアはそうして…………動き出した。

あんなに硬くて重そうな鎧なのに、動きはずいぶんと軽やかなものだ。

手には炎球────。

口には『魔王炎』────。

相変わらずの全方位攻撃に加えて、足元には再びマグマの海が出来上がりつつある。

そして…………

そこに加えて、あの無敵の鎧────。

本当に…………化け物だ。

攻防一体でもあるあの禍々しい鎧に、もう『中伝』の技なんて一切通じることはないだろう。

大技を放つための"準備"が整わない以上、今はとにかく何とか時間を稼ぐことくらいしかできない。

…………と────。

恭司がそう思っていた…………正に、その矢先のことだった。


「「「ディーグレア様…………ッ!!」」」

「…………ッ!!??」


この緊迫した戦場下で突如として聞こえてきた、ディーグレアを呼ぶ声────。

恭司の下に属していない魔族たちだ。

『ミノタウロス』や『サイクロプス』など、まだこの世界では見たことのない上位魔族まで揃っている。

その声には驚きと嬉しさと感動が一杯一杯に込められており、中には少しばかり涙声になっている者もいた。

"ディーグレアが"呼んだ、"ディーグレアの"かつての部下たちだ。

ディーグレアに会うために、大急ぎで森中を走り回ってきたのだろう。

その先頭には、奥地から全力で走ってきたのであろう『ドライダス』と『ナターシャ』の姿もある。

恭司はそれを見て…………ポーカーフェイスから途端に、"悪魔じみた笑み"を浮かべた。

最高のタイミングだ。

邪神のおかげかどうかは知らないが、相手の"不意"を突くにはこの上ないタイミング────。

兎にも角にも…………


間  に  合  っ  た  ッ  !  !


「ば、馬鹿者…………ッ!!今は…………ッ!!」

「「「え………………?」」」


自らを慕う、かつての部下たちとの再会────。

真剣勝負の最中に起きた、200年ぶりの邂逅────。

それは、ディーグレアが一瞬の隙を生み出すには、十分すぎるほどのシチュエーションだった。

流石のディーグレアと言えど、200年ぶりの忠臣たちとの再会には心揺さぶられるものだ。

ホンの一瞬だけ垣間見せた"隙"────。

当然の如く…………恭司はその隙を、見逃さない。


「フハハハハハ…………ッ!!好機…………ッ!!  到  来  ッ!!」


途端に場を掻き回す大風────。

そこからノータイムで繰り出される『奥義』の"予備動作"に、ディーグレアもすぐさま気が付いた。

恭司にしてはずいぶんと"ゆっくり"なタイムラグだが、明らかに大技の気配だ。

三谷の『奥義』────。

ディーグレアの『紅蓮火王』を打ち破るための技────。

ディーグレアからしても、恭司がここで大技を仕掛けてくるだろうことは予想に容易い。

予想が出来ている限りは、何かしら対処の一つや二つくらいはお手の物だろう。

しかし…………

ディーグレアがいざ恭司の動きを見ると、ディーグレアは思わず目を見開くことになった。

他は分かっても"コレ"だけは…………この展開だけは、流石のディーグレアにも予想外だったのだ。

恭司にとってはほとんど"いつも通り"の、日常茶飯事────。

そう…………

恭司の放つ奥義の矛先が…………ディーグレア本人ではなく、ディーグレアの背後の元"部下たち"へと向いている。


「な…………ッ!?き、貴様…………ッ!!一体、何を……ッ!!」

「ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ハ  ッ  !  !」


三谷の"最終"奥義、『風撃閃』────。

その瞬間────。

風の螺旋が恭司を包み込んだかと思うと、恭司は『瞬動』と共に、駆けた────。


ズガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


立ち塞がる全てを切り裂き、刻んで粉砕する『殺戮の暴風』────。

その風の螺旋は、『風撃砲』なんかよりもさらにさらに巨大な…………三谷の"最終"『奥義』だった。

和也やネシャスたちから逃げる時にも使った技だ。

風が削岩機のように激しく回り続け、目まぐるしい高速回転と共に前方の全てを木っ端微塵に粉砕する。

『風撃閃』の良い所は、風の力で恐ろしく速い移動ができることと、そのあまりに強烈で無慈悲な"破壊力"だ。

当たれば何でも弾き、粉々にしてしまう大技────。

恭司の使える技の中でも"最強"の攻撃力を持つ"最終"『奥義』────。

後でかなりの大ダメージを喰らうのは確定的だが、恭司が放てる技の中でも最高峰の秘技になる。


「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ッ!!!!」


そして…………

ディーグレアはそれを…………"敢えて"真正面から受け止めた。
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