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【第六章】新生・魔王軍

【第三十八話】亜人種 ③

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「まぁ…………それなりによく分かったよ。今後の参考にもなりそうだ」

「お力になれたのであれば何よりです」

「…………なら、そろそろ行くとするとしようかね。今日は拠点と軍の強化に動く予定だ。コキ使ってやるから、せいぜい働け」

「ハ…………ッ!!ありがとうございますッ!!」

「……………………」


相変わらず忠義心厚そうに返事を返してくるウルスに、恭司は黙って頷いた。

この会話で新しく分かったことは、とにかくウルスたちにとって『ゾルアーク』が至高の存在だということと、他2国のそれぞれの信仰心くらいだ。

ウルスたちの忠義心の理由についても分かったことだし、彼らのヒューマンやロスベリータに対する憎しみは、恭司たちと利害が完全に一致している。

だが…………

理解はできたものの、肝心の彼らに対する不信感を完全に拭い去ることはできなかった。

『ロスベリータ』にしろ『ゾルアーク』にしろ…………この世界の神は、やたらと下界の事情に干渉したがるようだ。

その辺は魔族も同じだが、そういう所がどうにも好きになれそうもない。

『神なんて必要ない』と考える恭司にとっては、それは一種の『依存』のように思えて仕方がなかったのだ。

戦いの理由と言えば、どこもかしこも『宗教戦争』ばかり────。

なまじ本当に力や恵みが与えられるせいか、発展も精進も意思でさえも…………この世界の人間は、借り物の力に頼りすぎている。

神の施しに甘え過ぎて、それぞれの思考や向上心…………努力が疎かになっているのだ。

『職業』だとか『スキル』だとか『加護』だとか…………そんなものが無くても、人間は強く生きていける。


「本当に邪魔だな…………。おせっかいなクソ神どもが……」

「…………??」


ウルスに聞こえないくらいのボリュームで、恭司はボソリと呟いた。

これ以上は愚痴っていたところで仕方のない話だ。

恭司は一息吐くと、颯爽とベッドから起き上がる。

今日も今日とてやることは山積みなのだ。

拠点の修繕に分隊長の抜擢…………軍の増強に食料確保────。

やることを挙げだしたらキリがない。

せっかくの爽やかな朝が妙な話で台無しになってしまったが、時間もないことだし、とりあえず行動に移すべきだった。

こういうことは切り替えが大事だ。

恭司はベッドから下りると、さっさと身支度を整えてウルスと共に外へ出て行く。


「あっ、魔王様ッ!!」
「おはようございますッ!!」
「素敵な朝ですねッ!!」


外に出ると、ハイエルフやコボルトたちから熱烈な挨拶を受けた。

ずいぶんと穏やかな顔をするものだ。

魔族の中でも最下層にいる彼らにとって、『拠点がある』ということはそれだけで安心できるのかもしれない。

物心ついた時から『強者』の立場にいた恭司からすれば、あまりよく分からない感情だった。

しかし、

理解できようとできまいと、これから『軍』がしっかりと機能するためには、コレは必要なことなのだ。

『帰ってくる場所』があるというのは、それだけで人に力を与えてくれる。

どうせ戦争になればこの内の何体かは死ぬわけだが、今のうちに英気を養っておいてもらった方がその生存率も上がることだろう。

恭司はとりあえず彼らに最低限の挨拶だけを返すと、視界の端にディーグレアとニーニャの姿を見つけた。


「あっ、カザルだニャッ!!おはようニャッ!!」

「今日は気持ちの良い朝だな。ここは一つ…………"狩り"なんてどうだ?」


ニーニャとディーグレアは、そう言ってそれぞれ爽やかな笑顔を浮かべつつ、声をかけてくる。

ちなみに、ディーグレアの言う狩りとは、『ヒューマンを攫って食う』ということだ。

まぁ、ここから少し離れた所にも村や集落があるそうだし、一応検討には値しないでもない。

だが…………

今日やることは、既に恭司の中で決まっていた。


「悪いが…………狩りはまた今度だ。ディーグレアには、これからやってもらうことがある」

「ほぉ…………?我にか…………?」


ディーグレアはそう言って首を傾げる。

魔族は基本的に戦って奪うことばかりで、その他のことには無頓着な者がほとんどだ。

他にできることと言えば、草木や果物なんかの食料採取くらいしかない。

そんなものは、ディーグレアはやらないだろう。

だからこそ、疑問に持つわけだが…………


「あぁ…………。今日は、"兵"を掻き集める予定だ」


恭司から出た言葉を聞いて、ディーグレアは口元を緩めた。

納得の表情だ。

コレは、ディーグレアにしかできない。


「なるほどな…………。我の"かつての部下"たちを使おうというわけか」


恭司がディーグレアを復活させた理由のほとんどがコレだった。

前魔王であるディーグレアの当時の部下たちは、種族によってはまだ生きているはずなのだ。

特に…………ニーニャのような『竜種』なんかは、確実に今も生き延びているに違いない。


「そうだ…………。頼めるか?」

「まぁ…………別に我は構わんが…………ソイツらがお前に従うかどうかは別問題だぞ…………?我も流石にそれを強要するつもりはない」

「あぁ、それでいい。その辺りは…………こっちで"何とかする"さ」

「…………????まぁ…………それならば良いのだが……」

「………………」


恭司はそれ以上、何も言わなかった。

恭司は元々かなり短気で、待つのも説得するのも大嫌いな性格だ。

だからこそ…………

それ以上は、何も言えないし、言わない。

ソイツらの元上司であるディーグレアには…………とてもじゃないが、言うわけにはいかない話だった。

いよいよ…………恭司が本当の意味で、『王』となる時が近づいてきているのだ。

恭司はニヤリと黒い笑みを浮かべる。

その笑みは、見ているだけでも吐き気が込み上げてくるほどに…………ひどく邪悪で、不気味な三日月を描いていた。


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