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【第六章】新生・魔王軍

【第三十七話】進化 ③

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「主人様…………この度の勝利、誠におめでとうございます」

「カカッ!!ようやく終わったなァッ!!なかなか楽しい戦いだったぜッ!!」


すると、そんな中────。

一時戦線離脱していたウルスとシャーキッドもまた、恭司たちに合流してきた。

両者共、先ほどはそれぞれレオナルドとローリーの相手をして、ディーグレア復活のための時間稼ぎをしてくれていたのだ。

まぁ、シャーキッドについてはこの街の壊滅についてもジックリ問い質したい所ではあるが…………終わったことだし、今はとりあえず何も言わないでおくことにする。


「お前たちもご苦労だったな。…………あの草原からよく生き延び、ここまで駆け付けてくれたものだ」

「滅相もございません。…………それより、私の方は不覚にもあの魔術師に遅れを取ってしまう形となりましたので、主人様には大変申し訳なく思います」


ウルスはそう言って、深々と頭を下げた。

ウルスはあの時ローリーと戦っていたが、やはりSランク相手は荷が重かったのか、シャーキッドほど時間は稼げなかったのだ。

危うく2対1で、シャーキッドが死にかけた要因でもある。


「気にするな。むしろ、あの草原から逃げ延びた後で、よくやってくれたと思うぞ。…………そこの戦闘狂がおかしいだけだ」


ウルスとシャーキッドは、あの草原での一戦から連戦に次ぐ連戦だった。

2人はあの和也とネシャスとレオナルドとローリーの4人の追撃を躱した後、1日かけてここまで移動した後の戦闘だったのだ。

体力的には既に限界近かったに違いない。

恭司の言う通り、シャーキッドがおかしいだけだ。

レオナルドには流石に劣るものの、シャーキッドもまた…………他人とは桁違いのステータスを身に付けている。


「カァーッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!そう褒められると頬がこそばゆくなるなッ!!俺様としては、あのレオナルドを殺りきれなかったことがどうにも心残りなんだがなァッ!!」

「別に褒めてねぇよ……」


恭司はため息混じりに言葉を返した。

とはいえ…………ここで3人揃うことが出来たのは、ほとんど奇跡のようなものだ。

あの絶望的な草原での戦いからよく3人揃って生き延びたものだと…………今になって改めて感心する。

和也やネシャスはさぞかし悔しがっていることだろう。

結局…………彼らはあそこまで恭司たちを追い詰めておきながら、最終的に誰も殺せなかったのだ。

あの王都での2日目は恭司にとって大失敗だったが、この2人を手中に出来たことを考えれば、そこまで悪くはなかったのかもしれない。


「ほぉ…………。何やら、初対面の者たちがいるようだなァ…………?」


すると…………

そこに、ディーグレアが話に入り込んできた。

ディーグレアが復活したのはシャーキッドたちが戦った後のため、彼らはこれが初対面になるのだ。

恭司はここで、そういえばと1つ思い当たる。

ウルスは亜人種で、シャーキッドは一応ヒューマンだ。

恭司も大概だが、元は対立する種族同士────。

ディーグレアたち魔族と、シャーキッドたち"他種族"は…………もしかしたら、人種的に相容れない可能性もある。


「カカッ!!アンタがかの有名な"魔王様"って奴かッ!?俺にとっちゃあ御伽噺みてぇな存在だが、確かに強そうじゃねぇか…………ッ!!体が癒えたら、そのうちお手合わせ願いたいものだなァッ!!」


しかし…………

シャーキッドは特に何も気にしていないのか、普通に話しかけていた。

元々、人間性的にも立ち振る舞い的にも、まったくヒューマンには見えない男だ。

思考も言動も見た目も鋼鉄の身体も…………むしろ『魔人』と言われた方がしっくりくる。


「ふむ…………。それは構わんが…………。………………お前、一体どこの種族だ…………?我のいた時代には、こんな感じの魔人はいなかったように思うのだが…………」

「先代様…………。ソレは魔人じゃなくて、ヒューマンだニャ……」

「えッ!?ヒューマンッ!?」


いや、ディーグレアも気付いていなかった。

隣でニーニャも嘆息している。

てっきり恭司に対してだけなのかと思っていたが…………ディーグレアからすれば、どうやらシャーキッドもヒューマンには見えなかったようだ。

気持ちは分からないでもないが、こうまで連続で外してくると、もしかして他に対してもそうなのではないかと疑いたくなってくる。


「いやぁ、まったく見えぬなー…………。カザルもそうだったが…………まさか、ヒューマンと魔族の違いが分からなくなる日がやってくるとは思いもよらなかったぞ……」


ディーグレアはそう言って、改めてマジマジとシャーキッドを見つめた。

シャーキッドは鋼鉄の身体という特殊体質持ちではあるが、同時に『忍者』という、"職業"と"スキル"を持った存在でもあるのだ。

さっき聞いた魔族の嗜好を考えると、シャーキッドもまた…………彼らにとっての"ご馳走"にあたるのかもしれない。


「いやでも、めっっっっっちゃ不味そうだなッ!?なんか食っても腹を下しそうな気しかしないぞッ!?ロスベリータの加護どころか、怨念……?のようなものを感じる…………ッ!!パワーアップどころかダウンしそうな勢いだッ!!本当マジ無理だわッ!!」


…………と、思ったら、まるでそんなことはなかった。

ご馳走どころか全力で拒否反応を示されている。

いつかのニーニャの時のような反応だ。

シャーキッドは恭司と違ってロスベリータの恩恵も得ていたから、定義的にはニーニャの言う"ご馳走"に当てはまるはずなのだが…………どうやら、元魔王のお眼鏡にはかなわなかったらしい。

確かに、見た目も中身もまるで美味しそうに見えない奴であるのは間違いないものの、そうまで本気で拒否してくるとは思わなかった。

少し意外だ。

シャーキッドはそれに対し、珍しく"気まずそう"な顔をしながら、頬をポリポリと描く。


「あー、もしかしたら…………さっき戦いが終わった後、ロスベリータに『スキル』を"取られちまった"のが原因かもしれねぇなァ……」

「…………????"取られた"…………?一体、どういうことだ……?」


恭司は訝しげに尋ねかけた。

元々この世界の『職業』や『スキル』に詳しくない恭司だが、流石にそれがイレギュラーだということくらいは分かる。

この世界のヒューマンにとって、『スキル』とは正に命綱のようなものなのだ。

それが『取られた』とあっては、彼らにとってずいぶんと不穏であり、物騒な響きだろう。

シャーキッドはそれに対し、何とも言えなさそうな様子をしながら、説明を続ける。
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