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【第六章】新生・魔王軍

【第三十六話】緊急会議 ②

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「とにかく…………カザルだけは何としてでも始末し、晒し首にしないといけないわ。そうでないと…………ロスベリータ様に示しがつきませんもの」

「…………そう、ですね」


ノーシェルの言葉に、ネシャスは硬い表情で頷いた。

ノーシェルも真剣な表情だ。

今回ばかりは、教会も本気にならざるを得ない。

カザルの存在自体が、教会にとっては他人事ではないのだ。

元々はトバルが執行するはずだった、神託の失敗────。

ロスベリータの判断が誤っていたのではないかという、民衆の疑念────。

コレを捨て置けば、ロスベリータを戴く教会の信頼性にも大きな傷がついてしまうことだろう。

事は急を要する大事件だ。

早急に手を打たなければならない。

また…………

王家に任せるどうこう以前に、そもそもノーシェルが実質上、この"国"のトップである────ということもまた、教会がここまで手を焼く理由の一つにもなっていた。

騎士もギルドも王でさえも…………このノーシェルが裏で全てを取り仕切っているのだ。

本来であれば…………街の被害や住民の不満の解消など、国庫を開かないことには解決できないような問題は王家が負担すべき事柄で、教会に責任があるようなことではない。

だが…………

その当の王家が"裏"では既に教会の"管理下"に置かれている以上、見ないことにすることなど出来るはずもなかった。

単純に自分事なのだ。

裏で暗躍しすぎた弊害か…………こういう時の対処は、ノーシェルが自ら進んで行わなければならない。


「王家にももう少しマシな人材を残しておくべきだったかしらね…………?元々はあの"ケモノ"どもの憎しみの受け皿として利用するつもりだったわけだけれど…………少々放置しすぎたかしら?」

「…………ウルスを逃がしてしまったのは痛手でしたね」

「本当にね…………。そのせいで、『フェブリスター王国』の動きが読みにくくなったわ。タイミングを見計らって"交渉材料"にするつもりが…………先にカザルに奪われちゃうなんてね」

「アレに関しても正直、予想外でした…………。捜索隊が奴隷にされたことにも驚きましたが、まさか亜人種の収容場所まで見抜かれるとは……」

「どこかの奴隷商人が裏切ったのかしらね?」

「可能性はありますね…………。先日から、『トンカー・ソリオ』という奴隷商人が消息を絶っているそうです」

「また消息不明…………?あの男、どれだけ手広く被害を拡散させたのかしら…………。もうイライラしすぎて、今にもコメカミが破裂しそうだわ……」

「…………心中お察し致します」


2人はそんなことを話しながら、揃って表情を曇らせた。

被害が大きいだけでなく、未だ解決の糸口ですら見つからない状況なのだ。

兎にも角にも…………カザルの居場所が分からないことにはどうしようもない。


(レオナルドとローリーに期待するしかないか……)


ネシャスは内心で彼らの無事を願いつつ、再びため息を吐き出した。

先ほどノーシェルに嗜められたばかりだが、どうにも上手くいかなさすぎて辞められないのだ。

待っているだけの状況というのは、非常に疲れる。


「とにかく…………今は情報収集に専念する時ね。金はいくら使ってもいいから、何としてでもカザルの居場所を見つけてきなさい」

「…………分かりました」


ノーシェルは最後にそう言うと、入ってきた扉の方に向き直った。

部屋を出るのだ。

ネシャスへの用事と確認が終わった以上、ノーシェルもまた、やるべきことが山のように残っている。

すぐにでも自室に戻り、仕事に取り掛からなければならなかった。

特に、カザルへの対処は最も緊急かつ難解な事案だ。

下手に時間をかけると追加で何をされるのか分かったものではないし、とにかく早急に何かしら対策を考え出さなければならない。

しかし…………

ノーシェルがそうして、扉に近づいた、その時────。


「ほ、報告がありますッ!!」


タイミングが良いのか悪いのか…………ノーシェルがドアノブに手を掛けるより早く、外から1人の兵士が部屋に入ってきた。

大量の汗を流しながらハァハァと息を切らせ、かなり慌てた様子だ。

ノーシェルもネシャスも、それを見て2人揃って首を傾げる。


「…………いきなりどうした。ノックの仕方でも忘れたのか……?」


ネシャスは少し苛立ち気味だった。

危うくノーシェルに当たる所だったのだ。

緊急か何か知らないが、兵士の礼儀のなってなさに、ついつい意地悪な返しをしてしまう。

だが、

兵士はそれどころではないのか、ネシャスの言葉に返答すらしなかった。

もはや礼儀がどうこう言っている場合ではないのだ。

兵士はひどく切迫した表情で、報告を続ける。


「と、トラントスの街が…………ッ!!か、"壊滅"致しましたッ!!」


「「…………………………………は?」」


ノーシェルとネシャスは、再び揃って間の抜けた声を出した。

咄嗟には理解できない内容だ。

兵士は構わずに報告を続ける。


「『千里眼』のスキルで得た、確かな情報です…………ッ!!街は半数以上が破壊され、レオナルド氏は死亡……ッ!!ローリー氏は、"とある魔人"に生きたまま、た、食べられたと…………ッ!!」

「ま、まま、待て…………ッ!!お、落ち着け…………ッ!!と、とりあえず…………1から……」


「報告がありますッ!!」


すると…………

ネシャスの言葉が言い終えるよりも早く、さらにもう1人兵士が現れた。

続いて二度目だ。

ネシャスもノーシェルも、訳が分からず固まってしまっている。


「か、壊滅したトラントスにて…………ッ!!ま、『魔王』の存在が確認されましたッ!!ローリー氏を食べた魔人と同一である可能性が高いとのことですッ!!」

「は、はぁッ!?な、何を言っている…………ッ!!ま、『魔王』が、新たに誕生したというのかッ!?」

「いえ、誕生というのとは少し違うようです…………ッ!!"当時"の文献と照合したところ、魔王『ディーグレア』本人であるとのことですッ!!」

「でぃ、『ディーグレア』だと…………ッ!?ば、バカなことを言うなッ!!ソレは200年前に滅んだはずの怪物じゃないかッ!!何かの間違いだろうッ!!」

「Sランク冒険者、『リズベット』様からの情報ですッ!!おそらくは、間違いはないかと…………ッ!!また、カザルやシャーキッド、ウルスも同様に、街で発見されたとのことですッ!!」

「な、何…………。え………………?」


ネシャスは混乱する一方だった。

とてもじゃないが信じられない内容の上に、情報過多にも程があるのだ。

何一つとして整理できていない。


「双方共に落ち着きなさい…………。どうやら、一刻の猶予も無さそうな案件だわ…………。これから緊急の会議を開くから、『リズベット』や他の諸侯たちも出来るだけ掻き集めるように。10分以内に用意しなさいッ!!」

「は…………ッ!!」


そうして────。

ノーシェルの一言で、兵士たち2人は慌てて走り去っていった。

対処を考える前に、まずは情報を1から集めて、整理しなければならないのだ。

ノーシェルもまた、ネシャス同様に深いため息を吐く。


「何が…………何が一体…………どうなっているというのよ……」


ノーシェルは一人ゴチると、会議室へ向けて、ネシャスと共に足早で歩み去っていった。


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