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【第五章】魔王
【第三十四話】滅びの唄 ①
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「た、助かったぞ、ローリー……」
「気にしないで。それより、コレ使って」
ローリーはそう言って、レオナルドに『ヒールポーション』を投げ渡した。
飲むだけで怪我も疲労も無くなるチートポーション────。
最悪だ。
シャーキッドは怒り真っ心頭で、いきなりここへ現れたローリーを睨み付ける。
「テメェ…………覚悟は出来てんだろうなァ……?」
「それはこっちのセリフ。ちゃんと状況をよく見てみたら?」
「あァッ!?」
シャーキッドは言われて改めて…………この状況に目を向けた。
レオナルドはさっきローリーから渡されたヒールポーションで完全に回復し、拳の怪我も元通り────。
それに対し、シャーキッドの体力はギリギリの所まで消耗させられ、戦闘に有効なスキルの回数も残り僅かなのだ。
職業『忍者』は、隠密や暗殺に適したレアスキルを多く持つ反面…………この2人と真っ向からのぶつかり合いに使えるようなスキルは少ない。
レア職業とはいえ、元々、真正面から戦うことを想定された職業ではないのだ。
レオナルドとマトモにやり合っているのは、職業というよりシャーキッドの自力の部分が大きい。
そして、
レオナルドに加えてローリーがやって来たことで、Sランク級の人間が揃って万全の状態でシャーキッドの前に立ち塞がっているのこの状況もまた、かなりマズい展開だった。
どう見ても分の悪い、2対1────。
あそこまで追い詰めていた分、口惜しすぎて腹がよじ切れるかのような思いだ。
形成は既に…………逆転している。
「戦場には卑怯も何もない…………。貴方たちが好きそうな言葉よね……?今は…………存分にやられる側の気持ちを味わうといいわッ!!」
「くそ…………ッ!!」
チェックメイト────。
戦闘狂のシャーキッドでも、流石にこの展開には冷や汗が止まらなかった。
感情的には悔しいなんてものじゃないが、状況的には顔面蒼白の緊急事態だ。
本来なら、あともう少しくらいはウルスが粘っていたはず────。
ローリーの力を見誤っていたと…………そう認めざるを得ない。
シャーキッドはここに来て、判断を迷わざるを得なかった。
逃げるか戦うか────。
予定では『あと少し』のはずではあるが、間に合うかどうかは正直よく分からない所だ。
そこについては不確定────。
動いているのはカザルで、その進捗についてはシャーキッドはタッチしていないし、こんな所からじゃ出来るはずもない。
「フハハハハハハハハハハハッ!!どうやら、最後は俺たちの方に運が回ってきたようだなァ、シャーキッド……?いつも嵌められる側だっただけに、感無量だよ。さぁ…………それじゃあ死んでもらおうか」
さっきまで沈んでいたレオナルドも、状況が変わって完全に持ち直したようだった。
ついさっきまで涙まで流していた割には現金なものだ。
しかも…………
レオナルドだけでも十分すぎるほどに厄介なのに、今は隣にローリーまでいる。
2人がかりで来られては、仮に逃げようと思っても流石に逃げ切れるとは思えなかった。
正に、万事休すだ。
解決策なんて、カザルを待つ以外には一つたりとも考えつかない。
(となればもう…………仕方がねぇか……)
『時間を稼ぐ』────。
シャーキッドは敢えて、そう判断した。
戦っても逃げても敗北が見えているのであれば、少しでも可能性のあるものにしがみつくしかないのだ。
諦めるのだけは、性に合わない。
「カッカッカッカッカッ!!こりゃあ確かに…………ヤベェ展開だなァ……。正直、想定外だよ…………。お嬢さんが来るのは、もっと先だと思っていた。ウルスの奴は死んだのかァ?」
「いえ…………死んではいないわ。散々邪魔するだけ邪魔して…………トドメを刺す前に逃げたのよッ!!あの犬畜生は……ッ!!」
「おいおいおいおいッ!!犬畜生とは酷い言い草じゃねぇかッ!!確か、アンタは亜人種に対して友好的な人間だったと記憶しているがなァ…………?」
「別に亜人種だからどうこうってわけじゃないわよ…………。単に、カザルの下に付いているのが気に食わないだけ…………。お前と同じよ、この下劣な暗殺者がッ!!」
「カァーッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ!!なるほどなるほど…………?ヒューマンの俺様にもその態度でいくんだから、亜人種でも変わらず行くってことか。意外と割り切れるんだな、お嬢さん。もっと甘ちゃんかと思ってたぜ」
「舐めるなよ、犯罪者どもめ……ッ!!貴様ら畜生に与えてやる慈悲などカケラもないッ!!全員まとめて、地獄に叩き落としてやるわッ!!」
「カカーッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!威勢がいいなッ!!そんな理想論で、一体どこまで……」
「おい、もういいだろう」
と、そこで…………
レオナルドが口を挟んだ。
冷静な表情だ。
その顔は、ローリーの方に向いている。
「落ち着け、ローリー……。どう見ても時間稼ぎだ。コイツは挑発を混ぜつつ、こちらをここに止めようとしている。…………一体、何を企んでいるのかは知らないが、さっさと殺して終わりにしてしまおう」
「チッ………………」
図星だった。
ぐうの音も出ないほどだ。
レオナルドは自分のことになると周りが見えなくなるが、他人の話には客観的でいられるらしい。
シャーキッドは焦っていた。
稼げた時間としては数秒程度だ。
この程度では、何の足しにもならない。
こうなればもう…………不服ながら、腹を括るしかないだろう。
シャーキッドは構えた。
今の状況でやれることなんて、もうこれくらいしかないのだ。
分が悪かろうと何だろうと…………足掻こうと思えば、"コレ"しかない。
(悪いな、旦那…………)
シャーキッドは前傾姿勢を取りながら、重心だけはさりげなく"後方"に寄せた。
ここまで来ると、『逃亡』の一択だ。
前傾姿勢を取っているのはブラフに過ぎない。
見破られている可能性の方が高いが、やらないよりはマシだ。
シャーキッドは息を整え、タイミングを見計らう。
(レオナルドが厄介だな…………。『分身』の残り回数は1回────。さて…………どう切り抜けるか……)
と…………その時だった。
いざ2対1の戦いが始まろうとした、その瞬間────。
突如として空が暗転し、ゴゴゴゴゴゴと低い音が鳴り始める。
まるで、雷が落ちる前のような音だ。
レオナルドもローリーも、警戒に表情を歪ませる。
「コレは…………」
「何…………?」
2人それぞれで呟かれた声────。
何かが始まろうとしているのだけは、間違いなかった。
あからさまに怪しい空気だ。
シャーキッドはそれを見て、顔を綻ばせる。
「カカ…………ッ!!遅ぇんだよッ!!間に合わないのかと思って、ヒヤヒヤしたじゃねぇかッ!!」
その声には訝しさなどカケラもなく、その正体もしっかりと分かっているようだった。
アレはシャーキッドにとって、『予定通り』の事象なのだ。
事前にコボルトたちを通して聞いていた話と相違ない。
上を見ると、空は完全に曇り空となり、月も太陽も黒い雲に覆われて、ひどく不気味な空模様と化していた。
街中が暗闇に呑み込まれ、どことなく寒気のするような雰囲気だ。
レオナルドとローリーは戦闘体制を崩さず、状況を見極めようと集中する。
こんな突然でいきなりの急展開…………どう考えても間違いなく、カザルの仕業だろう。
だが…………
これから何が行われるのかについては、一切予想も何もできなかった。
カザルが天変地異を操れるなんて話はなかったはずだが、その程度は些細な問題だ。
『無能者』なくせにやたらと強いあの男なら、何が起きてもおかしくはない。
むしろ、本来なら強さどころかスキルの一つすら使えるはずもない職業だったのだ。
そんなカザルがスキルらしきものをいくつも使い、何百人と人を殺していることが確認できている時点で、今さらに過ぎる。
レオナルドとローリーは互いの背中を合わせつつ、とりあえず全方位を警戒することにした。
((来るなら…………来い…………ッ!!))
どんなトリッキーな技だろうと、真正面から受けて立つ構えだ。
今のところ、空が暗転したこと以外は何も変化はないように見えるが、油断するつもりはない。
すると…………
2人が最大限に警戒体制を取っている中…………
突如、2人の耳に、『唄』が聞こえてきた。
「気にしないで。それより、コレ使って」
ローリーはそう言って、レオナルドに『ヒールポーション』を投げ渡した。
飲むだけで怪我も疲労も無くなるチートポーション────。
最悪だ。
シャーキッドは怒り真っ心頭で、いきなりここへ現れたローリーを睨み付ける。
「テメェ…………覚悟は出来てんだろうなァ……?」
「それはこっちのセリフ。ちゃんと状況をよく見てみたら?」
「あァッ!?」
シャーキッドは言われて改めて…………この状況に目を向けた。
レオナルドはさっきローリーから渡されたヒールポーションで完全に回復し、拳の怪我も元通り────。
それに対し、シャーキッドの体力はギリギリの所まで消耗させられ、戦闘に有効なスキルの回数も残り僅かなのだ。
職業『忍者』は、隠密や暗殺に適したレアスキルを多く持つ反面…………この2人と真っ向からのぶつかり合いに使えるようなスキルは少ない。
レア職業とはいえ、元々、真正面から戦うことを想定された職業ではないのだ。
レオナルドとマトモにやり合っているのは、職業というよりシャーキッドの自力の部分が大きい。
そして、
レオナルドに加えてローリーがやって来たことで、Sランク級の人間が揃って万全の状態でシャーキッドの前に立ち塞がっているのこの状況もまた、かなりマズい展開だった。
どう見ても分の悪い、2対1────。
あそこまで追い詰めていた分、口惜しすぎて腹がよじ切れるかのような思いだ。
形成は既に…………逆転している。
「戦場には卑怯も何もない…………。貴方たちが好きそうな言葉よね……?今は…………存分にやられる側の気持ちを味わうといいわッ!!」
「くそ…………ッ!!」
チェックメイト────。
戦闘狂のシャーキッドでも、流石にこの展開には冷や汗が止まらなかった。
感情的には悔しいなんてものじゃないが、状況的には顔面蒼白の緊急事態だ。
本来なら、あともう少しくらいはウルスが粘っていたはず────。
ローリーの力を見誤っていたと…………そう認めざるを得ない。
シャーキッドはここに来て、判断を迷わざるを得なかった。
逃げるか戦うか────。
予定では『あと少し』のはずではあるが、間に合うかどうかは正直よく分からない所だ。
そこについては不確定────。
動いているのはカザルで、その進捗についてはシャーキッドはタッチしていないし、こんな所からじゃ出来るはずもない。
「フハハハハハハハハハハハッ!!どうやら、最後は俺たちの方に運が回ってきたようだなァ、シャーキッド……?いつも嵌められる側だっただけに、感無量だよ。さぁ…………それじゃあ死んでもらおうか」
さっきまで沈んでいたレオナルドも、状況が変わって完全に持ち直したようだった。
ついさっきまで涙まで流していた割には現金なものだ。
しかも…………
レオナルドだけでも十分すぎるほどに厄介なのに、今は隣にローリーまでいる。
2人がかりで来られては、仮に逃げようと思っても流石に逃げ切れるとは思えなかった。
正に、万事休すだ。
解決策なんて、カザルを待つ以外には一つたりとも考えつかない。
(となればもう…………仕方がねぇか……)
『時間を稼ぐ』────。
シャーキッドは敢えて、そう判断した。
戦っても逃げても敗北が見えているのであれば、少しでも可能性のあるものにしがみつくしかないのだ。
諦めるのだけは、性に合わない。
「カッカッカッカッカッ!!こりゃあ確かに…………ヤベェ展開だなァ……。正直、想定外だよ…………。お嬢さんが来るのは、もっと先だと思っていた。ウルスの奴は死んだのかァ?」
「いえ…………死んではいないわ。散々邪魔するだけ邪魔して…………トドメを刺す前に逃げたのよッ!!あの犬畜生は……ッ!!」
「おいおいおいおいッ!!犬畜生とは酷い言い草じゃねぇかッ!!確か、アンタは亜人種に対して友好的な人間だったと記憶しているがなァ…………?」
「別に亜人種だからどうこうってわけじゃないわよ…………。単に、カザルの下に付いているのが気に食わないだけ…………。お前と同じよ、この下劣な暗殺者がッ!!」
「カァーッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ!!なるほどなるほど…………?ヒューマンの俺様にもその態度でいくんだから、亜人種でも変わらず行くってことか。意外と割り切れるんだな、お嬢さん。もっと甘ちゃんかと思ってたぜ」
「舐めるなよ、犯罪者どもめ……ッ!!貴様ら畜生に与えてやる慈悲などカケラもないッ!!全員まとめて、地獄に叩き落としてやるわッ!!」
「カカーッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!威勢がいいなッ!!そんな理想論で、一体どこまで……」
「おい、もういいだろう」
と、そこで…………
レオナルドが口を挟んだ。
冷静な表情だ。
その顔は、ローリーの方に向いている。
「落ち着け、ローリー……。どう見ても時間稼ぎだ。コイツは挑発を混ぜつつ、こちらをここに止めようとしている。…………一体、何を企んでいるのかは知らないが、さっさと殺して終わりにしてしまおう」
「チッ………………」
図星だった。
ぐうの音も出ないほどだ。
レオナルドは自分のことになると周りが見えなくなるが、他人の話には客観的でいられるらしい。
シャーキッドは焦っていた。
稼げた時間としては数秒程度だ。
この程度では、何の足しにもならない。
こうなればもう…………不服ながら、腹を括るしかないだろう。
シャーキッドは構えた。
今の状況でやれることなんて、もうこれくらいしかないのだ。
分が悪かろうと何だろうと…………足掻こうと思えば、"コレ"しかない。
(悪いな、旦那…………)
シャーキッドは前傾姿勢を取りながら、重心だけはさりげなく"後方"に寄せた。
ここまで来ると、『逃亡』の一択だ。
前傾姿勢を取っているのはブラフに過ぎない。
見破られている可能性の方が高いが、やらないよりはマシだ。
シャーキッドは息を整え、タイミングを見計らう。
(レオナルドが厄介だな…………。『分身』の残り回数は1回────。さて…………どう切り抜けるか……)
と…………その時だった。
いざ2対1の戦いが始まろうとした、その瞬間────。
突如として空が暗転し、ゴゴゴゴゴゴと低い音が鳴り始める。
まるで、雷が落ちる前のような音だ。
レオナルドもローリーも、警戒に表情を歪ませる。
「コレは…………」
「何…………?」
2人それぞれで呟かれた声────。
何かが始まろうとしているのだけは、間違いなかった。
あからさまに怪しい空気だ。
シャーキッドはそれを見て、顔を綻ばせる。
「カカ…………ッ!!遅ぇんだよッ!!間に合わないのかと思って、ヒヤヒヤしたじゃねぇかッ!!」
その声には訝しさなどカケラもなく、その正体もしっかりと分かっているようだった。
アレはシャーキッドにとって、『予定通り』の事象なのだ。
事前にコボルトたちを通して聞いていた話と相違ない。
上を見ると、空は完全に曇り空となり、月も太陽も黒い雲に覆われて、ひどく不気味な空模様と化していた。
街中が暗闇に呑み込まれ、どことなく寒気のするような雰囲気だ。
レオナルドとローリーは戦闘体制を崩さず、状況を見極めようと集中する。
こんな突然でいきなりの急展開…………どう考えても間違いなく、カザルの仕業だろう。
だが…………
これから何が行われるのかについては、一切予想も何もできなかった。
カザルが天変地異を操れるなんて話はなかったはずだが、その程度は些細な問題だ。
『無能者』なくせにやたらと強いあの男なら、何が起きてもおかしくはない。
むしろ、本来なら強さどころかスキルの一つすら使えるはずもない職業だったのだ。
そんなカザルがスキルらしきものをいくつも使い、何百人と人を殺していることが確認できている時点で、今さらに過ぎる。
レオナルドとローリーは互いの背中を合わせつつ、とりあえず全方位を警戒することにした。
((来るなら…………来い…………ッ!!))
どんなトリッキーな技だろうと、真正面から受けて立つ構えだ。
今のところ、空が暗転したこと以外は何も変化はないように見えるが、油断するつもりはない。
すると…………
2人が最大限に警戒体制を取っている中…………
突如、2人の耳に、『唄』が聞こえてきた。
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