上 下
148 / 267
【第五章】魔王

【第三十三話】鋼鉄の悪魔 ⑦

しおりを挟む
「あひゃーッひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーッ!!死ね死ね死ね死ねッ!!死ねよ、シャーキッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


レオナルドの声は、もはや狂気と快感に満ち満ちていた。

ただただ殺意と悦楽に突き動かされているようだ。

勝利を確信して、レオナルドの黒い部分が全面的に前へ押し出されている。

やはり…………単純な肉弾戦ではレオナルドの方に分があるのだろう。

何とか奇襲やトリッキーさで誤魔化してはきたものの、根本的な身体能力に差がありすぎるのだ。

レオナルドの身体能力は、本気を出せば1つの都市くらい1人で壊滅できるほどに卓越している。

住民たちの保護を放棄し、戦闘のみに集中した今…………奇襲や不意打ちばかりで勝てる相手ではなかった。

流石は『1位』だ。

強さも異常さも、レオナルドは圧倒的に抜きん出ている。


「クソッタレが…………ッ!!いつまでもやられっぱなしでいられるかよッ!!」


そんな中────。

シャーキッドもまた応戦した。

このまま大人しく敗北を認めるつもりなどないのだ。

やられたのならやり返せばいい。

シャーキッドは防戦して後ろに下がりつつ、後方に気配を感じていた。

都合の良いタイミングだ。

運は今、シャーキッドの方に向いている。


(その醜悪なニヤケ面を歪ませてやるぞッ!!)


シャーキッドは活路を見出したかのように、下卑た笑みを浮かべた。

『バーサクブロウ』は、よほどのことでもない限り、始まったらなかなか抜け出すことの叶わないスキルだ。

それこそ"狂ったように"…………逃れる間も無く延々とフルパワーの拳打を高速で打ち出し続けてくる。

だからこそ、

この状況から抜け出すためには、レオナルドの方から止めてもらわなければならなかった。

簡単な話だ。

悪党が正義の味方に対して行うことなんて、いつもいつも決まっている。

シャーキッドは後ろに下がりつつ、その"気配"のしたソレが近くなった途端、そいつの後ろ髪を乱暴にガッと掴んだ。


「え…………?」


シャーキッドでもレオナルドでもなく、第三者から急に発された声────。

レオナルドの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。

いきなりのことだったのだ。

心のブレーキが突如としてその存在感を知らしめ、レオナルドは愕然とする。

そう、

"住民"────。

シャーキッドはたまたま後ろにいたソイツを盾として目の前に投げ捨てると、レオナルドの拳は、スキルに従って躊躇なくその頭を潰した。


「な……ッ!?」


レオナルドの顔に、「驚愕」の二文字が刻まれる。

巻き添えにしたのと、『直接殺った』のとでは話が別だ。

きっちりと封殺したはずの、住民を殺した罪悪感────。

「仕方がない」と割り切ったはずのそれが思わぬところで顔を出し、レオナルドの額から、大粒の汗が流れ出る。


「カカッ!!」


シャーキッドは今の隙にさらに後ろへ下がると、手当たり次第に住民の体をレオナルドに投げ飛ばした。

ちょうど逃げる一団に差し掛かった所だったのだ。

投げる相手には、困らない。


「い、嫌ァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「な、何を…………ッ!!」
「う、うわあああああああああああああああ…………ッ!!」


バッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


シャーキッドによって投げられた住民たちの体は、レオナルドの拳によってあっという間に四散した。

肉が宙を舞い、内臓がこぼれ落ちて、鮮血が視界を覆うほどに弾け飛ぶ。

目眩しだ。

視界が血で真っ赤に染まり、肉や臓器が前方のシャーキッドの身体を隠す。

シャーキッドからもレオナルドの姿は見えていないが、おそらくは混乱していることだろう。

勝負の最中に突然部外者が出てきて、自分がいきなり加害者となったのだ。

動き出したら止まらない、スキルの弊害────。

コレで止まってくれればありがたいが、流石にそこまでは思ってない。


「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


シャーキッドは叫びながら、レオナルドとの距離が空いた瞬間に身体を丸めて、いきなり巨大なボールのような形状になった。

その表皮には鋭い棘があり、何をするのかは明確だ。

シャーキッドは勢いよく回転を始めると、地面に着いた瞬間にギィィィィィィィィィッ!!と火花を散らせる。

どこかで見たような光景だ。

それはほんの少しだけその場に止まると、ふとした瞬間…………勢いよく転がり出す。

そして…………


ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!


レオナルドの放つ拳打と球体になったシャーキッドは、互いに真正面からぶつかり合った。

飛距離がなかった分、威力としてはシャーキッドの負けだ。

それは仕方ない。

しかし…………


「ぐあァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


それで声を上げたのは、レオナルドの方だった。

拳が棘に直撃したのだ。

シャーキッドはボール状にポンポンと弾かれて、上手く受け身を取っている。

それでも…………ダメージは十分すぎるほどに通ってきているのだが────。


「カァーッカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!どうだッ!!その拳じゃあ、もうさっきの攻撃は放てねぇだろうッ!?」


シャーキッドは嬉しそうに笑った。

あの厄介な『ユニークスキル』を止めた上、レオナルドの拳を片方潰したのだ。

レオナルドは歯をギシリと食い縛る。

棘は拳を貫通し、血が止まらないくらいにボタボタと大量の流血を及ぼしていた。

勢いがあった分、深手となっていたのだ。

とはいえ…………シャーキッドも既に体力やダメージの限界が近い。

さっきの防戦状態が痛かった。

もう一度やられれば死ぬだろう。

それも何とか潰したし、あとは消耗戦だ。

後は…………互いにトドメを刺すだけ────。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


両者共に、殺気を迸らせ、睨み合う。

殺意はとっくの昔に最高潮────。

殺るか殺られるか────。

両者は間合いを図りつつ、どう攻めようかと考えあぐねているようだった。

2人の間には住民たちの死体が転がっているだけだ。

他の住民たちは騒がしくワーキャーと辺りを走り回っているが、近づいてはこないし、関係ない。

────決着の時が近づいてきていた。

もうお互いに限界なのだ。

レオナルドより被弾数の少ないシャーキッドでも、これだけ全力でやり合えば体力は消耗する。

むしろ、これだけやってまだ体力に余裕のあるレオナルドがおかしかった。

ただ、それでも…………レオナルドは逆に怪我の方が深刻だ。

状態的には、五分と五分────。

今こそ雌雄を決し、勝敗を付ける時に他ならない。


「まさか…………この僕と、ここまでやり合うとはね……」

「カカッ!!俺も驚いているよ。欲を言うと、『バーサクモード』のレベル"10"って奴も見てみたかったがなァ……」

「見せてやろうか?」

「カッカッカッカッカッ!!遠慮しておくよ。戦いは楽しいが、死ぬのは御免だからな」

「我儘な奴だ」

「よく言われるよ」


そんなやり取りをしながら、2人は互いの手の内を読み合っていた。

体力のある側とない側────。

怪我のある側とない側────。

与えたダメージはシャーキッドの方が多くても、元々持っている体力の総量が違うのだ。

ダメージを与えていることは、それほど有利には働かない。

だが、

レオナルドもいつまでも怪我を放置するわけにもいかないし、シャーキッドを倒した後にはカザルともやり合わなければならないのだ。

時間はかけられない。

それなら、直接相手の命を断つ以外に、方法なんてなかった。


「なら…………」

「あぁ…………」


交錯する視線────。

互いに読み合う軌道────。

2人は目だけで意思を疎通して、同時に動きだす。


「シャーキッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「レオナルドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


2人の間に描かれる一本道────。

2人は叫んだ。

両者共に直進だ。

そのレールはお互いにほぼまっすぐな直線を描き、殺気がその中央に集約している。

覇気が空気を震わせ、声が地を揺らし、迸るオーラは遥か遠くまで衝撃をもたらすほどだった。

決着の瞬間だ。

上から……?横から……?

それとも策を……?

違う違う違う違うッ!!

ここは、ただひたすらに…………

正  面  突  破  ッ  !  !
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...