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【第五章】魔王

【第三十二話】狂戦士 ⑤

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「なるほど…………。『コボルト』…………か……。この短期間で、まさかお前たちすらもが、カザルの下についていたとはね……ッ!!」


ローリーは悔しそうに歯軋りした。

コボルトは…………ウルスたち亜人種になる前の、『先祖種』にあたる存在だ。

そもそも『亜人種』自体が、ヒューマンと魔族の間に"子が出来た段階"で生まれる存在になる。

ロスベリータが亜人種を『敵』ではなく『嫌い』だと表現していることも、それが理由の一つだった。

要は、彼ら『亜人種』の半分はヒューマンで出来ているのだ。

ただ、そのもう半分は魔族で出来ているために、亜人種はどっちつかずで両種族から嫌われている。

しかも、

その数は一つの国を作れるほどに多かった。

『フェブリスター王国』という、亜人種だけの国があるくらいだ。

昔はヒューマンと魔族との関係性が良好だったという証左にもなる話だが、そんなことは今は関係がない。

それよりも…………

シャーキッドとウルスがここに現れた理由について、ローリーはようやく合点がいっていた。

どう考えても間違いなく、このコボルトたちの仕業だろう。

ウルスたち餓狼族の半分の"先祖種"にあたるコボルトなら、子孫であるウルスたちの臭いは的確に嗅ぎ分けられる。

今となっては力関係は逆転しているものの、似たような遺伝子を辿っているのは間違いないのだ。

元が同じなら、自分たちに近い臭いを辿るくらいは造作もない。

そこにエルフたちの力を合わせれば、シャーキッドたちがほんの数キロくらい遠くにいたところで、見つけることは容易かっただろう。

つまり、

コボルトたちは、ウルスたち餓狼族の臭いを追って、先に彼らと合流していたのだった。

全体の半分はエルフたちの補助に回して、残りは別行動でウルスたちの捜索係として編成していたのだ。

シャーキッドたちと現場の"繋ぎ"としての役目を果たし、コボルトたちは見事に彼らをここまで連れてきている。

それも、

あのよく出来たタイミングを見るに、魔族たちがよく使う『眷属化』も使用していたのだろう。

おそらくはエルフかニーニャだ。

彼らと"パス"を繋ぐことで、状況についても細かく知らされていたに違いない。


「やってくれたわね…………。この犬畜生風情が……ッ!!」


ローリーはウルスとコボルトたちに向け、溢れんばかりの殺気を放った。

今にも吹き飛ばされそうなくらいに強い怒りだ。

頬から汗が滑り落ち、焦燥と恐怖で表情が歪む。

コボルトなんかは既にそそくさと退散し始めているくらいだ。

ウルスはそんな中…………ローリーに向けて、戦闘の構えを取る。


「私の役目は、あくまでお前をこの場に"縛り付けること"────。例えSランク相手だろうと、臆している場合ではない」

「ち、ちょっと待って……ッ!!"縛り付ける"というのは、一体どういう……ッ!?」


その瞬間────。

ウルスの爪が、突如としてローリーの眼前にあった。


「な…………ッ!?」


薄皮一枚の所を過ぎ去っていく刺突────。

すぐ近くで、死神が舌打ちを漏らしている。

なんとか避けられはしたものの、ギリギリだ。

ウルスは雄叫びを上げ、さらにさらにと追い討ちをかける。

そして、

ただひたすらに前進を続けた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ッ!!」


突いて突いて…………ただただ突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて……────。

どこまでも突くことだけしか考えない。

速さと手数に任せた、高速の乱れ打ちだ。

しかし…………


「この程度……ッ!!」


ローリーは即座に防御用の魔法を展開し、防いだ。

途端に吹き荒ぶ風────。

『無詠唱』で放った、風の防壁だ。

ローリーも初撃ならともかく、何度も見れば対処くらいはいくらでも出来る。


「お前のその強さは知っている…………ッ!!だが……ッ!!お前が我が主人の妨げとなる以上……ッ!!精々足掻かせてもらうぞッ!!」 

「舐めるなよ、犯罪者がァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


そうして────。

『シャーキッド』と『レオナルド』、『ウルス』と『ローリー』で、それぞれの戦いが始まった。

先日見たような光景だが、あの時とは違い、数的なハンデはない。

1対1のタイマンだ。

4人それぞれが、ただただ相手を駆逐せんと全力で戦い合う。


「クク……ッ!!良い調子じゃあないか…………」


そして…………

街の"とある場所"の屋上で、カザルは戦場を見下ろしつつ、下卑た笑みを浮かべた。

シャーキッドやウルスの戦闘に加勢するつもりはないようだ。

今や街はより強い殺気と熱気で燃え上がり、そこかしこで戦いが繰り広げられている。

エルフたちによる砲撃と騎士団の防衛も、さらに苛烈さを増していく一方となっていた。

あと残っているのは、巻き込まれた民衆たちと、疑われたままの冒険者たちだ。

シャーキッドが破壊しまくったせいでより混乱を極めている街中は、常に悲鳴と笑い声が木霊する地獄絵図と化している。

このままでは、『逃亡者』が出るのも時間の問題だろう。

カザルはそんな街の様子を、楽しそうな顔で見つめていた。

ここまで面倒臭い手順を踏んだ甲斐もあったというものだ。

当初の目論見通り、順調に事が進んでいる。


「さて…………それでは、クライマックスを始めるとしようか」

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