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【第五章】魔王
【第三十一話】下っ端魔族の下剋上 ②
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「まぁ…………焦っていても仕方がないよ。今はとりあえず…………待つしかない」
ローリーはそう言って、もう何度目になるか分からないため息を吐き出した。
この状況では下手に動き回ることもできないし、民衆を落ち着かせようと思っても、今のローリーたちが何をどれだけ言ったところで無駄なのだ。
事実だろうと何だろうと、明確な確証がない内は、民衆の耳には届かない。
『陰謀論』なんていう、実体があるのかどうかすらよく分からない存在に民衆が熱狂してしまっている時点で、真っ向から対立してもロクなことがないのだ。
本質的な話をすれば、今の民衆は『正確な事実』などではなく、自分たちの『安心』こそを求めている。
実際、レオナルドたちはマーリックが吊るされた際には街の中にいて、何なら門番の兵士と会話もしているのだ。
アリバイも証人もいる。
だが、
それを言っても結局、鎮静化はしなかった。
民衆は言うのだ。
「実は~~だからじゃないか」────。
「~~だったらそれも可能だ」────。
「~~と見せかけて実は~~」────。
…………大多数の人間からそれぞれ『仮定』の話を持ち出されれば、可能性なんてものは後出しでいくらでも出てくる。
世間的な民衆の大概が、周りに流されて生きているものなのだ。
今は『疑うこと』がホットで、マジョリティー────。
自ら大衆の波に逆らってマイノリティーになれる者など、早々いない。
だからこそ、
一度火のついたそれに対する対応は、ひどく困難を極めていた。
彼らをここまで動かしている原動力は、簡単に言うと『恐怖』なのだ。
あのSランク冒険者たちが、自分たちに牙を剥くのではないかという『不安』────。
昨日まで平和だったはずの日常が、一方的に壊されたことに対する『危機感』────。
これから自分たちに何かよかなる事が起きるのではないかという『懸念』────。
そういった負の感情が、彼らをこれほどまでに動揺させ、狂わせてしまっている。
生まれながらの『職業』と『スキル』によって、『持っている者』と『持たざる者』を明確に分けてしまっているこの世界ならではの弊害だ。
『持っていない者』は、こうまでしないと自らの不安を取り除けない。
「だが、あの男に時間を与えるのは危険だぞ…………。脱獄"初日"や"翌日"で、あの男が王都で何をしたか忘れたか…………?1日あれば、少なくとも100人は犠牲になるぞ」
「分かってるわよ、それくらいッ!!私だってこのまま座しているのが良いなんて思ってないッ!!でも、だからといってじゃあ、どうしたら良いって言うのよッ!?」
「………………」
レオナルドは黙ってしまった。
さっきからずっとこの調子だ。
焦れて慌てて、どうにか動こうとすると、動けないことを再認識する────。
同じ所を何度もグルグルと周回して、完全にマイナスのスパイラルが延々と続いてしまっているのだ。
どうにかしたいとは思っているし、待っていては危険だと分かってはいても、解決策など何も浮かんでこない。
何か企んでいると分かっている敵を前にして、ただただ待つことしか出来ないのは相当な苦痛だった。
レオナルドもローリーも大切な人をカザルに殺されている分、その焦燥は相当なものだ。
本当なら、今すぐにでもここを飛び出して、カザルを探しにいきたい。
「いっそのこと…………本当に謀反でも起こしてやろうか……」
レオナルドの呟きに、ローリーはギョッとした顔で振り返った。
もしそうなれば大変だ。
ヒューマンの歴史上トップクラスの実力を持つレオナルドが敵に回れば、流石に手痛いどころの話では済まない。
本格的な戦争…………クロスロード帝国を二分する最悪の内戦が勃発することだろう。
レオナルドもすぐに今の発言の軽率さに気が付いた。
今となっては、どこで誰が聞いているかも分からないのだ。
レオナルドはすぐに首を横に振って、訂正する。
「冗談だ…………。本気でそんなことをするわけがないだろう」
「気をつけて…………。今のはシャレじゃ済まないわよ……」
「あぁ…………。悪かった」
そうして────。
そんなやり取りをしている間に、時刻はもういつの間にか完全に夜となっていた。
外は暗く、流石に民衆たちもようやく落ち着き始めたようだ。
まだカザルの動いた気配は感じられない。
レオナルドはそれを見て、ホッと息を吐いた。
「よしッ!!なら、そろそろ動こうか……ッ!!まずは辺りの森を捜索して……」
しかし、
その時だ。
熱狂渦巻く民衆たちが、我を取り戻し始めた、その時────。
事は一瞬にして、動き出した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「「は……ッ!?」」
レオナルドとローリーは、ほとんど同時に声を上げた。
待ちに待っていた瞬間を、すんでの所で邪魔されたのだ。
民衆が再び騒ぎ立てる中、耳を澄ますと、街中で地面を揺らすような巨大な轟音が鳴り響いているのが聞こえてくる。
間違いない────。
カザルが、とうとう街に向けて何かを仕掛けてきたのだ。
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ローリーはそう言って、もう何度目になるか分からないため息を吐き出した。
この状況では下手に動き回ることもできないし、民衆を落ち着かせようと思っても、今のローリーたちが何をどれだけ言ったところで無駄なのだ。
事実だろうと何だろうと、明確な確証がない内は、民衆の耳には届かない。
『陰謀論』なんていう、実体があるのかどうかすらよく分からない存在に民衆が熱狂してしまっている時点で、真っ向から対立してもロクなことがないのだ。
本質的な話をすれば、今の民衆は『正確な事実』などではなく、自分たちの『安心』こそを求めている。
実際、レオナルドたちはマーリックが吊るされた際には街の中にいて、何なら門番の兵士と会話もしているのだ。
アリバイも証人もいる。
だが、
それを言っても結局、鎮静化はしなかった。
民衆は言うのだ。
「実は~~だからじゃないか」────。
「~~だったらそれも可能だ」────。
「~~と見せかけて実は~~」────。
…………大多数の人間からそれぞれ『仮定』の話を持ち出されれば、可能性なんてものは後出しでいくらでも出てくる。
世間的な民衆の大概が、周りに流されて生きているものなのだ。
今は『疑うこと』がホットで、マジョリティー────。
自ら大衆の波に逆らってマイノリティーになれる者など、早々いない。
だからこそ、
一度火のついたそれに対する対応は、ひどく困難を極めていた。
彼らをここまで動かしている原動力は、簡単に言うと『恐怖』なのだ。
あのSランク冒険者たちが、自分たちに牙を剥くのではないかという『不安』────。
昨日まで平和だったはずの日常が、一方的に壊されたことに対する『危機感』────。
これから自分たちに何かよかなる事が起きるのではないかという『懸念』────。
そういった負の感情が、彼らをこれほどまでに動揺させ、狂わせてしまっている。
生まれながらの『職業』と『スキル』によって、『持っている者』と『持たざる者』を明確に分けてしまっているこの世界ならではの弊害だ。
『持っていない者』は、こうまでしないと自らの不安を取り除けない。
「だが、あの男に時間を与えるのは危険だぞ…………。脱獄"初日"や"翌日"で、あの男が王都で何をしたか忘れたか…………?1日あれば、少なくとも100人は犠牲になるぞ」
「分かってるわよ、それくらいッ!!私だってこのまま座しているのが良いなんて思ってないッ!!でも、だからといってじゃあ、どうしたら良いって言うのよッ!?」
「………………」
レオナルドは黙ってしまった。
さっきからずっとこの調子だ。
焦れて慌てて、どうにか動こうとすると、動けないことを再認識する────。
同じ所を何度もグルグルと周回して、完全にマイナスのスパイラルが延々と続いてしまっているのだ。
どうにかしたいとは思っているし、待っていては危険だと分かってはいても、解決策など何も浮かんでこない。
何か企んでいると分かっている敵を前にして、ただただ待つことしか出来ないのは相当な苦痛だった。
レオナルドもローリーも大切な人をカザルに殺されている分、その焦燥は相当なものだ。
本当なら、今すぐにでもここを飛び出して、カザルを探しにいきたい。
「いっそのこと…………本当に謀反でも起こしてやろうか……」
レオナルドの呟きに、ローリーはギョッとした顔で振り返った。
もしそうなれば大変だ。
ヒューマンの歴史上トップクラスの実力を持つレオナルドが敵に回れば、流石に手痛いどころの話では済まない。
本格的な戦争…………クロスロード帝国を二分する最悪の内戦が勃発することだろう。
レオナルドもすぐに今の発言の軽率さに気が付いた。
今となっては、どこで誰が聞いているかも分からないのだ。
レオナルドはすぐに首を横に振って、訂正する。
「冗談だ…………。本気でそんなことをするわけがないだろう」
「気をつけて…………。今のはシャレじゃ済まないわよ……」
「あぁ…………。悪かった」
そうして────。
そんなやり取りをしている間に、時刻はもういつの間にか完全に夜となっていた。
外は暗く、流石に民衆たちもようやく落ち着き始めたようだ。
まだカザルの動いた気配は感じられない。
レオナルドはそれを見て、ホッと息を吐いた。
「よしッ!!なら、そろそろ動こうか……ッ!!まずは辺りの森を捜索して……」
しかし、
その時だ。
熱狂渦巻く民衆たちが、我を取り戻し始めた、その時────。
事は一瞬にして、動き出した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「「は……ッ!?」」
レオナルドとローリーは、ほとんど同時に声を上げた。
待ちに待っていた瞬間を、すんでの所で邪魔されたのだ。
民衆が再び騒ぎ立てる中、耳を澄ますと、街中で地面を揺らすような巨大な轟音が鳴り響いているのが聞こえてくる。
間違いない────。
カザルが、とうとう街に向けて何かを仕掛けてきたのだ。
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