上 下
133 / 267
【第五章】魔王

【第三十一話】下っ端魔族の下剋上 ②

しおりを挟む
「まぁ…………焦っていても仕方がないよ。今はとりあえず…………待つしかない」


ローリーはそう言って、もう何度目になるか分からないため息を吐き出した。

この状況では下手に動き回ることもできないし、民衆を落ち着かせようと思っても、今のローリーたちが何をどれだけ言ったところで無駄なのだ。

事実だろうと何だろうと、明確な確証がない内は、民衆の耳には届かない。

『陰謀論』なんていう、実体があるのかどうかすらよく分からない存在に民衆が熱狂してしまっている時点で、真っ向から対立してもロクなことがないのだ。

本質的な話をすれば、今の民衆は『正確な事実』などではなく、自分たちの『安心』こそを求めている。

実際、レオナルドたちはマーリックが吊るされた際には街の中にいて、何なら門番の兵士と会話もしているのだ。

アリバイも証人もいる。

だが、

それを言っても結局、鎮静化はしなかった。

民衆は言うのだ。

「実は~~だからじゃないか」────。

「~~だったらそれも可能だ」────。

「~~と見せかけて実は~~」────。

…………大多数の人間からそれぞれ『仮定』の話を持ち出されれば、可能性なんてものは後出しでいくらでも出てくる。

世間的な民衆の大概が、周りに流されて生きているものなのだ。

今は『疑うこと』がホットで、マジョリティー────。

自ら大衆の波に逆らってマイノリティーになれる者など、早々いない。

だからこそ、

一度火のついたそれに対する対応は、ひどく困難を極めていた。

彼らをここまで動かしている原動力は、簡単に言うと『恐怖』なのだ。

あのSランク冒険者たちが、自分たちに牙を剥くのではないかという『不安』────。

昨日まで平和だったはずの日常が、一方的に壊されたことに対する『危機感』────。

これから自分たちに何かよかなる事が起きるのではないかという『懸念』────。

そういった負の感情が、彼らをこれほどまでに動揺させ、狂わせてしまっている。

生まれながらの『職業』と『スキル』によって、『持っている者』と『持たざる者』を明確に分けてしまっているこの世界ならではの弊害だ。

『持っていない者』は、こうまでしないと自らの不安を取り除けない。


「だが、あの男に時間を与えるのは危険だぞ…………。脱獄"初日"や"翌日"で、あの男が王都で何をしたか忘れたか…………?1日あれば、少なくとも100人は犠牲になるぞ」

「分かってるわよ、それくらいッ!!私だってこのまま座しているのが良いなんて思ってないッ!!でも、だからといってじゃあ、どうしたら良いって言うのよッ!?」

「………………」


レオナルドは黙ってしまった。

さっきからずっとこの調子だ。

焦れて慌てて、どうにか動こうとすると、動けないことを再認識する────。

同じ所を何度もグルグルと周回して、完全にマイナスのスパイラルが延々と続いてしまっているのだ。

どうにかしたいとは思っているし、待っていては危険だと分かってはいても、解決策など何も浮かんでこない。

何か企んでいると分かっている敵を前にして、ただただ待つことしか出来ないのは相当な苦痛だった。

レオナルドもローリーも大切な人をカザルに殺されている分、その焦燥は相当なものだ。

本当なら、今すぐにでもここを飛び出して、カザルを探しにいきたい。


「いっそのこと…………本当に謀反でも起こしてやろうか……」


レオナルドの呟きに、ローリーはギョッとした顔で振り返った。

もしそうなれば大変だ。

ヒューマンの歴史上トップクラスの実力を持つレオナルドが敵に回れば、流石に手痛いどころの話では済まない。

本格的な戦争…………クロスロード帝国を二分する最悪の内戦が勃発することだろう。

レオナルドもすぐに今の発言の軽率さに気が付いた。

今となっては、どこで誰が聞いているかも分からないのだ。

レオナルドはすぐに首を横に振って、訂正する。


「冗談だ…………。本気でそんなことをするわけがないだろう」

「気をつけて…………。今のはシャレじゃ済まないわよ……」

「あぁ…………。悪かった」


そうして────。


そんなやり取りをしている間に、時刻はもういつの間にか完全に夜となっていた。

外は暗く、流石に民衆たちもようやく落ち着き始めたようだ。

まだカザルの動いた気配は感じられない。

レオナルドはそれを見て、ホッと息を吐いた。


「よしッ!!なら、そろそろ動こうか……ッ!!まずは辺りの森を捜索して……」
 

しかし、

その時だ。

熱狂渦巻く民衆たちが、我を取り戻し始めた、その時────。

事は一瞬にして、動き出した。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


「「は……ッ!?」」


レオナルドとローリーは、ほとんど同時に声を上げた。

待ちに待っていた瞬間を、すんでの所で邪魔されたのだ。

民衆が再び騒ぎ立てる中、耳を澄ますと、街中で地面を揺らすような巨大な轟音が鳴り響いているのが聞こえてくる。

間違いない────。

カザルが、とうとう街に向けて何かを仕掛けてきたのだ。


ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...