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【第三章】亜人種

【第二十一話】魔術師 ②

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パリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!


「…………ッ!?」


そして、

視点は再び移り変わり────。

突如として割れた窓ガラスに、恭司はすぐさま反応した。

同時に飛び出してくる"火の玉"────。

見たことのある代物だ。

恭司は瞬動ですぐさま跳びのくと、その発信源を睨み付ける。


「見つけた…………。ようやく見つけたよ…………ユーラット」


2階の窓から不意に現れる人影────。

聞いたことのある声────。

その少女は部屋に上がり込むと、乗っていた"箒"をどこかにしまった。

さりげないが、あり得ない光景だ。

箒は長く、体のどこかにしまおうにもしまえるはずがない。

しかし、

それの詳細について、恭司はそこまで気にはならなかった。

どうせまたスキルか『魔法』に決まっている。

もうウンザリしているのだ。

そうなる理由がそれしかないのだから、もう「そういうもの」だと納得するしかない。

少女は部屋の中で恭司の前に立つと、身体をワナワナと震わせた。

やけにお怒りのご様子だ。

どうやら、無視して次に行くわけにはいかないらしい。


「昨日から、ずっとずっと…………。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと…………ッ!!よくもここまでコケにしてくれたわね…………ッ!!お前だけは、絶対に許さないッ!!絶対にこの場で…………ッ!!ブチ殺してやるゾォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…………ッ!!


弾ける殺気に、緊張感────。

押し寄せる覚悟に、圧迫感────。

凄まじい迫力だった。

声量が耳をつんざき、怒りと殺意が空気を震撼させる。

もちろん知っている顔だ。

昨日見ている。

この"刀"を手に入れる時に、ずいぶんと"お世話になった"少女だ。

恭司は笑う。


「ハハハッ!!いきなり窓から来るなんてどこの誰かと思えば…………昨日、俺を"助けてくれた"女の子じゃないか。今日も助けに来てくれたのか?」

「はァ…………?一体、何を訳の分からないこと…………を…………」


少女は見た。

目の前の男の持っている"刀"────。

見事な装飾のなされた、冒険者ギルドマスター『シバ・レジランティス』の武器────。


「助けてくれたろう…………?コレを入手した時に、しっかりと協力してくれたじゃあないか…………。コレを使い出してからかねェ?あれからずいぶんと調子がいいんだよ。例えば…………お嬢さんの同僚たちを、手当たり次第"奴隷"にしちまえるくらいなァ…………ッ!!」


少女はさらに怒りのボルテージを上げていった。

挑発だということくらいは分かっている。

でも、だが、しかし…………

憎しみが後悔が屈辱が、グツグツグツグツと心の内で湧き立って溢れ出して…………我慢などとっくの昔に限界なのだ。

もう…………。

もう────ッ!!我慢できないッ!!


「その刀を離せェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


火属性"初級"魔法、『ファイアーボール』────。

少女…………『ローリー・ペルドナント』は、すぐさま攻撃を開始した。

もう問答は無用だ。

聞きたいことなんて、知らない。

聞かなければならないことなんて、分からない。

兎にも角にも、どうしようもなくこれ以上なく────。

殺 し て し ま い た い ッ ! !


「ハッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!あの時の奴だなァッ!?あの時は不意をつかれたが…………ッ!!今日は知っているぞ、分かっているぞォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


自分に向けて一斉に放たれた火の玉に対し、恭司はその全てを三日月で撃ち落とした。

狭い部屋の中で火炎と斬撃が幾重にも渡って衝突し、視界が炎でオレンジ色に染まる。

互いに容赦のない全力のぶつかり合いだ。

恭司はほくそ笑む。

コイツはシャーキッドとは根本的に違う────。

戦場に倫理観や正義心なんてモノを持ち込む、『甘ちゃん』だ。

恭司は火の玉の爆発で視界が遮られている内に、部屋の中を移動する。


「…………ッ!?いない…………ッ!?」


視界が開けると、ローリーはそう言って驚愕した。

視界が遮られたとはいっても、その時間は一瞬のことだ。

そんな短時間で姿を消すことなど、できるはずもない。

となれば…………


「上かッ!?」


ローリーは天井に目を向けた。

衝突する視線と視線────。

ネットリした殺意に、肌身を撫でる悪寒────。

カザルの悪鬼のような顔が、視界の中に映り込んでくる。

正解だ。

カザルは天井に足を付け、逆さまの状態でローリーの顔を覗き込んでいる。


「クク…………ッ!!よく分かったなッ!!」


途端────。

恭司はその状態で大量の三日月を連射してきた。

天井に足を付けて上から放射されるそれは、まるで斬撃の嵐のようだ。

恭司は天井の僅かな出っ張りに足を固定したまま、逆さのままで刀を振り続けている。

ローリーはすぐに『ファイアーウォール』を展開し、上から降り注ぐ斬撃に備えた。


ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ────…………ッ!!


「グッ!!グ、グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ッ!!」


あまりの威力で足が床へ減り込み、体力が猛加速で減少の一途を辿っていく。

上から雨のように降り注ぎ続ける斬撃など、まるで悪夢のような光景だ。

『スキルの連発』に『無制限のような使用回数』────。

ローリーの知っている常識では、こんな展開は有り得ない。

だが…………

それで縮こまっている場合ではなかった。

このままやられるわけにはいかないのだ。

ローリーは"次"を『同時展開』する。

反撃だ。

無属性"中級"魔法、『リフレクション』────。


「あ………………?」


その瞬間────。

ファイアーウォールの上に、"鏡"のような板が現れた。

魔力で作られた産物だ。

その鏡に触れた途端…………三日月はいきなり踵を返し、恭司の方に舞い戻ってくる。

恭司の三日月を、"反射"したのだ。
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