上 下
81 / 267
【第三章】亜人種

【第十九話】忍者 ①

しおりを挟む
「おいおい…………。おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい…………。俺はなァ…………今とってもとぉーーっても気分が良くて、かつ、非常~~~~に忙しい身なんだぞ?なのに…………何だ?お前は?何だ…………?何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ?一体全体…………ッ!!何なんだよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


声だけで空気が激しく震撼した。

床に散らばっていた肢体や血や骨が無惨にも吹き飛び、異様な気配と雰囲気が場を侵食している。

まるで妖怪だ。

その殺意は熱く激しく鮮烈に滾り渡り、景色が歪んで見えるほどにひどく邪悪な様相を醸し出している。

そんな様子を見て、シャーキッドは「カカッ」と笑った。

これほど異常な光景を目の前にしておきながら、シャーキッドはまるで意にも介していない様子だ。

小太刀を手に持ち、両目に眼帯をしたその男は、やたらと"嬉しそう"な顔をして楽しそうに笑い声を飛ばしている。

今は恭司の刀とシャーキッドの小太刀がぶつかり合って拮抗した状態だが、シャーキッドは完全に余裕のある様子だった。

恭司の刀の一撃を受けても尚、その姿勢を保っているのは驚愕的だ。

どう見ても間違いなく強敵────。

おそらくはレオナルドと同程度か、あるいは"それ以上"にすら思える。

ユーラットなんてどう考えても相手にすらならないだろう。

戦闘屋としての"格"が違うのだ。

圧倒的にして絶対的に────。

シャーキッドからは、強者特有の強烈な雰囲気とオーラが伝わってくる。

今まで戦ってきた人間たちとはずいぶん毛色が違うようだ。

2人はある程度武器同士が拮抗し合った所で、キィィィィンと音を鳴らして互いに弾き合う。

張り詰めた空気に、緊張感────。

どうやら今のところは、互角のようだった。

そんな状況に…………

恭司は苛立って、シャーキッドは楽しそうな様子を見せている。

"世界一の暗殺者"と謳われた彼にとって、自分とマトモに戦える人間など久しぶりなのだろう。

強敵を前にしてテンションが上がっているのだ。

シャーキッドは溢れ出す笑みを浮かべたまま、嬉しそうに口を開く。


「初めまして。我が主人の嫡男、『カザル・ロアフィールド』様…………?噂と違い、ずいぶんと逞しいご様子で…………」


シャーキッドはそう言いながら、ジロリと恭司の方を向いた。

両目の眼帯のせいで、本当に見えているのかは分からない。

だが、

そんなことは些細な問題だ。

恭司にとっては、どちらでも構わない。

ただ、"見えている"ものと同じに扱っておけばいいだけの話だ。


「ふん…………。こちらこそ、お会い出来て光栄だよ。世界一の"暗殺者"さん…………?暗殺者がこれだけ有名な時点で、噂の如何は疑わしいものだがなァ」


恭司はそう言って、居丈高に挑発する。

しかし、

肝心のシャーキッドには「カカッ!!」と笑われ、体よくいなされてしまった。

…………やはり、"同じ"だ。

似ている────。

"恭司"と、シャーキッドは。

だからなのか…………。

シャーキッドは楽しそうな笑みを決して…………崩さない。


「カカッ!!言ってくれるねぇ、お坊っちゃま…………?正直、こんな展開になるなんて毛ほども予想していなかったからビックリさァ。まさか、こないだまであんなにヒョロっちくて弱々しかったガキが、たった1日経っただけでこんなに凶悪な変貌を遂げるだなんて誰が予想できる?『棚から牡丹餅』とは正にこの事さァッ!!」

「………………」


シャーキッドはそう言ってまた一人、「カカッ!!カカッ!!」と大きな声で笑った。

何が面白いのか、かなり興奮した様子だ。

手を腹にやり、堪えきれないとばかりに高笑いしている。

…………少し意外だった。

恭司としては『暗殺者』と聞いてクールな人間性をイメージしていただけに、このテンションは調子を崩されるような思いだ。

でも…………

シャーキッドの放つ独特の"ヤバさ"だけは、さっきから十分すぎるほどに伝わってくる。

今この時も尚…………シャーキッドには油断も隙もないのだ。

手を腹にやって隙だらけのように見せているそれは、恭司の攻撃を誘う"罠"に過ぎない。

乗っかれば最後────。

盛大なカウンターが待ち受けていることだろう。

恭司の持つ経験が本能が才能が、大音量で全開に警告音を響かせるのだ。

コイツは、この世界の人間にしては強すぎる。

恭司のいた前世の世界でも十分に通用するレベルの強さだ。

これまでと同じやり方では、恭司ですら危険に陥る可能性もあるだろう。

もしかしたら計画にも全体的な軌道修正が必要かもしれない。

コレを放置したまま復讐なんて、どう考えても行えるはずがないからだ。

兎にも角にも…………"本気"でやるしかない。

身体がまだ万全の状態ではないとはいえ、コイツを相手にするには多少の無茶は必須だろう。

戦るなら、徹底的に戦り合わなければならない。

そうしなければ、待つのは確実な『死』だけだ。


「ハァ…………。厄介な奴だ。正直に言ってしまうと、今この場では"戦いたくない"ってのが本音だよ。初対面だが、お前が"本物"だってことくらいは分かる」

「………………」

「でも、だからこそ解せねぇな…………。何でお前みたいなのがここにいる…………?お前の実力なら、わざわざこんな家に雇われなくとも、職場なら他にいくらでもあるはずだ」

「カカッ!!四大貴族以上とは嬉しいお言葉だねェッ!!でも、何故かなんて決まっている話だろうッ!?そりゃあ『金』だよッ!!この家の当主は払いがよくてねェ…………ッ!!それに、都合よく当主は"敵だらけ"ときている。『こんな家』と言うが、ここは俺にとってはまるで天国みたいな場所だぜェ…………?こんな良い環境は、他には早々ないってもんだ」

「『敵だらけ』が『都合良い』…………ね。この戦闘狂が」

「カァーッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!この2日で散々人を殺し回った殺人鬼に言われちゃあお終いだなァ…………ッ!!だがそれより、俺もお前に聞きたいことがあるんだ」

「…………?」


そこで、シャーキッドは少し溜めた。

先ほどとは打って変わって、真剣な雰囲気だ。

ピリッと…………張り詰めて固い空気が流れる。

本気の気配だ。

シャーキッドは真顔になって、真面目な表情で尋ねかける。


「お前…………今まで、どれだけ人を殺してきた…………?多分だが、"数万"くらいじゃ"足らない"だろう…………?」

「………………」


恭司は黙った。

様子見だ。

即答はできない。

別に転生してきたことを隠しているつもりはないが、誰かに言ったわけでもないのだ。

それなのに…………

この男は、"的確"にそれを言い当ててきた。

明らかに、確信を持っている。

シャーキッドは今、恭司に向けてこう言っているのだ。

『お前は、本当は"もっと昔"から…………人を殺し続けてきただろう?』と────。

シャーキッドは続ける。


「こういう仕事をしているからかねェ…………。分かるんだよ。身にまとう雰囲気が、空気が、オーラが。お前はその点、明らかにそこらの奴とは一線を画してる。おそらくは、その辺の犯罪者どもとは桁の違う数の人間を殺してきているはずだ。それこそ…………こんな2日じゃあ賄いきれないほどの数をなァ……」

「………………」

「トバルの旦那の予想も当たるもんだ。お前…………どう見ても、『カザルじゃない』だろう」


シャーキッドにそう言われて、恭司はクックックックッと笑った。

流石に『転生』とまでは思わなかったようだが、ほとんど正解みたいなものだ。

会話を続ければ、そこも探り当ててくるに違いない。

確信できるのだ。

何故なら、恭司もまたシャーキッドと同様に、同じことが出来る。

殺人を一定数繰り返していると、分かってくるのだ。

そいつが自分と、"同じ"なのかどうか────。

『割り切っているのか』『快楽主義なのか』『覚悟を決めているのか』『成り行きなのか』────。

そして、

恭司は言う。


「ハハハ…………。よく分かったなァ、別人だって。どうやら"同類"と会えたようで、嬉しいよ。数までは知らないが、お前も"そう"なんだろう…………?」


シャーキッドはそれを聞いて、ニヤリと笑った。

途端に不吉で不気味で邪悪で禍々しいオーラが溢れ出し、空気を侵食していく────…………。

やはり"そう"────。

"そう"なのだ。

数には差がある。

でも…………

恭司とシャーキッドは…………まごうことなき、『同類』だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...