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【第三章】亜人種
【第十六話】奴隷商人 ④
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「ど、どうしてここに…………?いや、どうやってここをッ!?」
「ん…………?」
おそらくはパニックになっているのであろうトンカーの言葉に、恭司は首を傾げた。
『どうして』は分かるが、『どうやって』と聞かれたのは予想外だったからだ。
まぁ、勿論答えられる話だから、とりあえずその疑問はスルーすることにする。
「理由は簡単だよ。こいつに聞いたのさ」
恭司はそう言って、トンカーの前にソレを投げ捨てた。
ボールのようにコロコロと転がったソレは、特に弾むこともなくベシャリと床の上で静止する。
そこにあったのは、コンパクトになった"人の顔"────。
そう…………
"生首"だ。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
トンカーは思わず叫び、後ずさった。
雑に放り出されたソレは…………その生首は、トンカーのよく知る顔だ。
何を隠そう、つい先ほども会ったばかりの顔でもある。
この厄介な依頼をトンカーに持ってきた張本人────。
そう…………
トンカーから亜人種の奴隷を買った、"王族"の男だ。
「ひ、ヒィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…………ッ!!」
「ハハハハハハッ!!良いリアクションだなッ!!」
トンカーは恐怖のあまり、冷静さを完全に失っていた。
職業柄、死体なんて人よりも数多く見てきているはずなのに、焦りと驚きでそれどころではなくなっているのだ。
男は首だけになった状態で、虚な目でトンカーを見ている。
もう怖くて怖くて仕方がなかった。
この男は仮にも王族────。
国内でも有数の権力を持つ人間の一人なのだ。
そんな男が、今やこともなげに死体となって、トンカーの部屋の中に転がっている。
バレれば不敬罪どころの話では済まないだろう。
そもそも人殺しの時点で犯罪だ。
それが王族相手など、どう考えても極刑は免れない。
「この男が昼間に面白そうなスキルを使っていてなァ…………。興味があったから、そのままコッソリ追いかけて教えてもらったんだ。そうしたら、それは『隷属化スキル』って魔法の一種で、『奴隷商人』っていう職業の人間から授けてもらうものらしいじゃないか。それで、この男にその奴隷商人とやらの居場所を聞いたら、ここだったというわけさ」
トンカーは思わず絶句した。
狂っている────。
説明を聞いたはいいものの、動機から行動から結論から何まで…………トンカーには何一つとして理解できない。
興味があったからコッソリ追いかけて教えてもらった…………?
いや、その男は見た通り、"殺されてしまっている"のだ。
最終的に武力行使されたのだけは間違いない。
穏便な話し合いなど、どう考えてもあったはずがないだろう。
男の性格からして口を割るのも早かったはずだし、教えてもらうだけなら何の苦労もなかったはずだ。
つまり…………
恭司は単に、男を殺すべくして殺している。
口止めなのか別に理由があるのかは知らないが、やっていることは通り魔や辻斬りと何も違わないのだ。
トンカーはゴクリと生唾を呑み込む。
ようやく冷静さを取り戻し始めたが、頭は未だに混乱したままだった。
やはり、所詮は殺人鬼ということだろう。
トンカーとは価値観も倫理観も常識も善悪も何もかもが、あまりにも違いすぎる。
普通に会話なんて、最初から出来るはずもなかったのだ。
(でも…………)
それでも尚、トンカーは勇気を振り絞って恭司に相対した。
奴隷商人として、トンカーにはどうしても一つ聞いておかなければならないことがあったのだ。
相変わらず怖くて仕方がない上に足の痛みは微塵もおさまる気配がないが、一応はプロである以上、それだけはやっておかなくてはならない。
それは、奴隷の状況の確認────。
『商品』の末路を知っておくことだ。
トンカーは足を震わせながら、恐る恐る口を開く。
「あ、あの…………1つだけ聞きたいのですが…………こ、この男と一緒にいた、"少女"はどうなりましたか…………?おそらくは、この男に首輪で繋がれていたかと思いますが……」
「ん……?少女…………?あぁッ!!アレかッ!!あの『亜人種』とかいう種族の子どもかッ!!そこに転がっている男から聞いたが、この国ではいたく嫌われた存在らしいなァッ!!確か、ロスベリータが嫌ってるんだってッ!?」
「え、ええ…………。そ、その通りですが…………それで…………」
「あぁ、生かしてあるぞッ!!アレはまだ使い道がありそうだったからなァッ!!」
「そ、そう…………ですか………。生きて…………いるのですか…………」
トンカーは複雑な表情で答えた。
本当に、運がない。
一応確認したはいいものの、どうせならその少女も一緒に殺しておいてもらいたかったのだ。
あの少女は、トンカーにとっては正に『生きた証拠』────。
見つかれば終わりの、『災厄の種』に他ならない。
男と一緒にそれも殺してくれていれば、あの男に罪を被せて、隠滅できたかもしれないのに────。
望めば臨むほどに、トンカーの願いはいつも、叶わない。
「まぁ、細かいことは良いじゃないかッ!!俺は今、とても気分がいいんだッ!!なんせ…………"この困った状況"を、お前のおかげで何とかできるかもしれねぇんだからなァ…………ッ!!」
「な、何とか…………ですか?」
『この困った状況』とは、おそらくは街中を走り回っている捜索隊の連中のことを言っているのだろう。
確かに困っているに違いない。
外には住民も通常の憲兵もいるし、その誰かに見つかれば終わりで、その誰かは減らずに増える一方なのだ。
だが…………
それとトンカーの家に押し掛けたことに、どう関係しているのかが全く分からなかった。
トンカーの職業は『奴隷"商人"』だ。
所詮は"商人"で、提供できる物と言えば金か奴隷くらいしかない。
奴隷が欲しいのは分かるが、多少味方が増えたところでこの状況には焼け石に水だろう。
とてもじゃないが、今のカザルに役立ちそうだとは思えなかった。
この状況の打破など以ての外だ。
トンカーは首を傾げる。
「あぁ、そうだッ!!是非、お前にやってもらいたくてなァッ!!」
「は、はぁ…………。私に…………ですか…………」
「あぁッ!!お前…………その辺の"住民"や"捜索隊"の連中を、奴隷にすることはできるかッ!?」
「ん…………?」
おそらくはパニックになっているのであろうトンカーの言葉に、恭司は首を傾げた。
『どうして』は分かるが、『どうやって』と聞かれたのは予想外だったからだ。
まぁ、勿論答えられる話だから、とりあえずその疑問はスルーすることにする。
「理由は簡単だよ。こいつに聞いたのさ」
恭司はそう言って、トンカーの前にソレを投げ捨てた。
ボールのようにコロコロと転がったソレは、特に弾むこともなくベシャリと床の上で静止する。
そこにあったのは、コンパクトになった"人の顔"────。
そう…………
"生首"だ。
「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
トンカーは思わず叫び、後ずさった。
雑に放り出されたソレは…………その生首は、トンカーのよく知る顔だ。
何を隠そう、つい先ほども会ったばかりの顔でもある。
この厄介な依頼をトンカーに持ってきた張本人────。
そう…………
トンカーから亜人種の奴隷を買った、"王族"の男だ。
「ひ、ヒィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ…………ッ!!」
「ハハハハハハッ!!良いリアクションだなッ!!」
トンカーは恐怖のあまり、冷静さを完全に失っていた。
職業柄、死体なんて人よりも数多く見てきているはずなのに、焦りと驚きでそれどころではなくなっているのだ。
男は首だけになった状態で、虚な目でトンカーを見ている。
もう怖くて怖くて仕方がなかった。
この男は仮にも王族────。
国内でも有数の権力を持つ人間の一人なのだ。
そんな男が、今やこともなげに死体となって、トンカーの部屋の中に転がっている。
バレれば不敬罪どころの話では済まないだろう。
そもそも人殺しの時点で犯罪だ。
それが王族相手など、どう考えても極刑は免れない。
「この男が昼間に面白そうなスキルを使っていてなァ…………。興味があったから、そのままコッソリ追いかけて教えてもらったんだ。そうしたら、それは『隷属化スキル』って魔法の一種で、『奴隷商人』っていう職業の人間から授けてもらうものらしいじゃないか。それで、この男にその奴隷商人とやらの居場所を聞いたら、ここだったというわけさ」
トンカーは思わず絶句した。
狂っている────。
説明を聞いたはいいものの、動機から行動から結論から何まで…………トンカーには何一つとして理解できない。
興味があったからコッソリ追いかけて教えてもらった…………?
いや、その男は見た通り、"殺されてしまっている"のだ。
最終的に武力行使されたのだけは間違いない。
穏便な話し合いなど、どう考えてもあったはずがないだろう。
男の性格からして口を割るのも早かったはずだし、教えてもらうだけなら何の苦労もなかったはずだ。
つまり…………
恭司は単に、男を殺すべくして殺している。
口止めなのか別に理由があるのかは知らないが、やっていることは通り魔や辻斬りと何も違わないのだ。
トンカーはゴクリと生唾を呑み込む。
ようやく冷静さを取り戻し始めたが、頭は未だに混乱したままだった。
やはり、所詮は殺人鬼ということだろう。
トンカーとは価値観も倫理観も常識も善悪も何もかもが、あまりにも違いすぎる。
普通に会話なんて、最初から出来るはずもなかったのだ。
(でも…………)
それでも尚、トンカーは勇気を振り絞って恭司に相対した。
奴隷商人として、トンカーにはどうしても一つ聞いておかなければならないことがあったのだ。
相変わらず怖くて仕方がない上に足の痛みは微塵もおさまる気配がないが、一応はプロである以上、それだけはやっておかなくてはならない。
それは、奴隷の状況の確認────。
『商品』の末路を知っておくことだ。
トンカーは足を震わせながら、恐る恐る口を開く。
「あ、あの…………1つだけ聞きたいのですが…………こ、この男と一緒にいた、"少女"はどうなりましたか…………?おそらくは、この男に首輪で繋がれていたかと思いますが……」
「ん……?少女…………?あぁッ!!アレかッ!!あの『亜人種』とかいう種族の子どもかッ!!そこに転がっている男から聞いたが、この国ではいたく嫌われた存在らしいなァッ!!確か、ロスベリータが嫌ってるんだってッ!?」
「え、ええ…………。そ、その通りですが…………それで…………」
「あぁ、生かしてあるぞッ!!アレはまだ使い道がありそうだったからなァッ!!」
「そ、そう…………ですか………。生きて…………いるのですか…………」
トンカーは複雑な表情で答えた。
本当に、運がない。
一応確認したはいいものの、どうせならその少女も一緒に殺しておいてもらいたかったのだ。
あの少女は、トンカーにとっては正に『生きた証拠』────。
見つかれば終わりの、『災厄の種』に他ならない。
男と一緒にそれも殺してくれていれば、あの男に罪を被せて、隠滅できたかもしれないのに────。
望めば臨むほどに、トンカーの願いはいつも、叶わない。
「まぁ、細かいことは良いじゃないかッ!!俺は今、とても気分がいいんだッ!!なんせ…………"この困った状況"を、お前のおかげで何とかできるかもしれねぇんだからなァ…………ッ!!」
「な、何とか…………ですか?」
『この困った状況』とは、おそらくは街中を走り回っている捜索隊の連中のことを言っているのだろう。
確かに困っているに違いない。
外には住民も通常の憲兵もいるし、その誰かに見つかれば終わりで、その誰かは減らずに増える一方なのだ。
だが…………
それとトンカーの家に押し掛けたことに、どう関係しているのかが全く分からなかった。
トンカーの職業は『奴隷"商人"』だ。
所詮は"商人"で、提供できる物と言えば金か奴隷くらいしかない。
奴隷が欲しいのは分かるが、多少味方が増えたところでこの状況には焼け石に水だろう。
とてもじゃないが、今のカザルに役立ちそうだとは思えなかった。
この状況の打破など以ての外だ。
トンカーは首を傾げる。
「あぁ、そうだッ!!是非、お前にやってもらいたくてなァッ!!」
「は、はぁ…………。私に…………ですか…………」
「あぁッ!!お前…………その辺の"住民"や"捜索隊"の連中を、奴隷にすることはできるかッ!?」
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