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【第二章】基本技の習得

【第十一話】聖騎士 ②

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「ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!どうだァッ!!コレなら当たるだろうッ!!」

「くそ…………ッ!!」


2つの三日月の後に隠されていたナイフ────。

剣を使わない、ただの実物の投擲────。

だが…………

巧妙に死角をつかれてはいるものの、ユーラットはナイフの存在に咄嗟の所で気が付いていた。

上級職故のステータス補正で、ユーラットの五感と反射神経は並ではないのだ。

この程度の不意打ちではやられない。


「はぁ…………ッ!!」


ユーラットは崩れる体制の中、無理矢理体を捩り、ナイフを躱した。

ギリギリの交錯────。

あと数瞬でも気付くのが遅れていたら、体を串刺しにされていただろう。

しかし…………

そこから間を置かずして、状況はすぐに次の展開へと向かった。

忍び寄る気配に、悪魔のような冷徹な殺意────。

もちろん、恭司だ。

ナイフすらもが囮────。

恭司はユーラットがナイフを躱したことを確認すると、即座に次の攻撃へと移ったのだ。


「フハハ…………ッ!!ナイフは上手く避けたようだが……ッ!!コレはどうかなァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


既に地に足を着けていた恭司は、ユーラットより早く動き出すことができていた。

悪魔のような笑みに、手に引っ下げられた剣────。

恭司はそこからすぐさま瞬動を使い、ユーラットとの距離を詰める。

ユーラットは今、ナイフを躱した後の不安定な体制になっているのだ。

そこにノータイムで追撃されれば、流石の聖騎士でも凌ぐことは難しいだろう。

恭司は嬉しそうに剣を忍ばせる。

不意打ちの二段構えだ。

だが…………


「だから…………ッ!!舐めるなって、言ってんだろうがァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「…………ッ!!!!」


ユーラットはそれですら対応してきた。

捻れた体が急加速で戻っていき、崩れたバランスが即座に回復する。

完全に人間の身体の可動領域を越えた動きだ。

流石に予想外────。

ユーラットはやってきた凶刃に対し、ギリギリで剣をカチ当てる。

恭司から舌打ちが聞こえてきた。


「クソ…………ッ!!また"職業補正"かッ!!」


恭司の口から漏れる悪態────。

まるで、"互角"のような戦いだった。

上級職はやはり厄介だ。

本来なら人間に出来ないような動きですら、職業補正によって簡単に実現させてしまう。

2人の剣と剣はぶつかり合うと、お互いに弾き合った。

そして…………


「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」


再び始まった剣戟────。

さっきで懲りずにもう一度始まる。

目まぐるしく剣と剣がお互いを弾き合い、何度も…………何度も何度も衝突を繰り返した。

それでも尚…………決着はつかない。

ユーラットの攻撃はそのほとんどが恭司に潰され、ほぼほぼ通じてはいなかったのだ。

ユーラットの表情にも焦りが見え始める。


(くそ…………ッ!!何故だ……ッ!!何故倒せないッ!!何かカラクリでもあるのかッ!?)


ユーラットは段々とイライラしてきていた。

聖騎士であるユーラットが、無能者のカザルを相手に未だ戦いを終えられていないのだ。

剣技としては"今のところ"完全に互角の様相を描いているように見える。

聖騎士として、あり得ていい状況ではなかった。

神に仕える身でありながら自らの土俵である戦闘で無能者に劣るなど、決してあってはならない大事件なのだ。

しかし…………


「ハァーッハハハハハハッ!!どうしたどうしたァッ!!聖騎士ってのは、その程度かァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


剣戟は時間が経つにつれ益々激しくなっていくが、恭司はその激しさに対しても難なくついていった。

この程度…………いくらステータスで劣っていようと、恭司なら経験と予測でどうにでもなるのだ。

戦ってきた経験────。

その質が違う、量が違う。

いくら上級職でステータスが並外れていても、こんな平和な都市の中では恭司のような経験が詰めるはずもないのだ。

そんな恭司を前にして、ユーラットはまたしてもイライラを募らせる。

ユーラットは悔しさのあまり歯を噛み締めると、少し強引に距離を詰めることにした。

ステータスによる力押しで、一気に決めにきたのだ。

確かに、元の力の差が大きいほど強引な攻めは時に有利に働くことがある。

だが…………


「そんなゴリ押しが通用するかよォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


そんな焦り混じりの攻撃でやられるほど、恭司は甘くはなかった。

ユーラットの攻めはまるで通じず、それどころかカウンターで幾度もタタラを踏まされる。

いくらステータスが卓越していようと、それだけで倒せるような相手ではないのだ。

恭司は今や身体も強化され、それなりに万端の体制が整っている。

身体が不十分ではそれほどの差はないにしても、単純な剣技ではむしろ恭司の方が上に見えた。

しかし…………

そんな中────。


(思ったよりやるな…………)


恭司は優勢な上にかなりハイテンションだったにもかかわらず、内心ではむしろ状況とは"逆"のことを思っていた。

もっと楽だと思っていたのだ。

実は、さっきからユーラットの剣技の軌道を読もうとしても、そのパターンが多彩すぎて上手く対応しきれていない。

上位剣士や騎士と違って、聖騎士の攻撃は段違いにレベルが高かったのだ。

仮に屋敷にいた時の身体のままだったら絶対に叶わなかったことだろう。

脱獄初日で食料庫を襲っておいて、本当に良かった。

そして、

恭司は仕方なく、次の展開へ進むことにする。

名残惜しかろうと何だろうと、"時間がない"のだ。


「そろそろ…………遊びはもう、ここまでにしようか。次も控えていることだしなァ……」


恭司は敢えて余裕のある表情でそう言うと、一度距離を取ることにし、瞬動で近くの建物の屋上へと跳んだ。

剣戟は終わり────。

聖騎士が予想していたよりさらに厄介だったために、恭司は急遽、様子を見ることにしたのだ。

恭司の状況的に、ただ勝てば良いというわけでもない。

このままやればいずれは勝てるかもしれないが、想定以上に時間がかかってしまう可能性もあった。

流石に上級職だけあって、ただの力押しでどうにかなる相手では無さそうだったのだ。

倒し切るには、今の恭司でもそれなりに時間が必要になるだろう。

状況次第では、最悪このまま逃げる必要があるかもしれない。

顔は見られてしまっているが、あまりモタモタしていると外壁の外から増援がきてしまうかもしれないのだ。

ユーラットだけでも厄介なのに、これ以上増えられたりしたらたまったものではない。

だが…………

恭司がふとユーラットの方に目を向けると、ユーラットは存外…………"絶望"に満ちた表情をしていた。
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