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第7章 迫りくる安川の影
132 水の精霊ルサルカ(後編)
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湖の北側に中規模の家があり、そこがルサルカの家なのだそうだ。
俺達は、彼女に急かされる感じで家に入っていく。
「一人で暮らすには広すぎる規模だよな」
「そこは私の分身体が掃除などの仕事をしてくれてますので問題はないですよ」
分身体を生み出せるとか……。
流石に彼女が精霊なだけあるなと感心した。
リビングにて、メイド姿の分身体からお茶とお菓子を用意されたのでそれを食しながらある事を聞いてみた。
「それで、聞きたい事があったんですが……」
「何でしょうか?」
「精霊結界が消え、森の中に魔物が溢れた理由を知りたいんですよ」
由奈が横から俺が聞きたかった事を言ってくれた。
ルサルカはそれを聞いた瞬間、真剣な表情になって答え始めた。
「まず、ガルタイトとの戦争と悪魔族の過激派の生き残りが引き起こした【スタンピード】という現象ですね。 発生したのは半年前です。 アキト様とクルミ様、ユナ様がまだ召喚されていない時期ですね」
この辺りはエミリーから少し聞いたが、半年前に起こったのか。
確かにその時期に召喚されていない俺達からしたら、規模は想像できないだろう。
「それが引き金となって結界が綻び、徐々に湖周辺の環境が悪化し始めました。 その時は私も精霊としての力があったので、修復に専念しましたが、【スタンピード】が原因で悪化の度合いが酷く、焼け石に水でした」
悪魔族の過激派は、力による世界征服だった気がする。
だから、精霊の力も邪魔になったということだろうか?
「大丈夫だったのですか?」
「その当時は、なんとか結界は維持できていました。 しかし、次の出来事で結界は壊され、私もしばらく意識を失っていました」
「その出来事って……?」
「私が意識を失う前に、魔法で記憶した映像をご覧ください」
そう言ってルサルカは、魔力を使って自身の記憶を映像化した。
「え……!?」
「あ、あいつら……!」
「まさか、あの二人が……!」
「エミリーさん、落ち着いて!!」
映像に映し出された姿を見て俺と胡桃は驚きの声をあげた。
そして、エミリーに至ってはクレアの件もあって怒りが尋常ではなかった。
幸い、由奈が押さえてくれたので事なきをえたのだが。
「もしかして、あいつらが……?」
「はい。 映像の二人が私の精霊としての力を欲していました。 拒否をした瞬間、無理やり力を奪われて意識を失ったのです」
「拒否権なしってか……!」
「ひどいね」
俺と胡桃は、あいつら……、今は亡き如月と来栖がルサルカに対して行った行為に怒りを隠し切れなかった。
悪魔族を食っただけでなく、精霊の力を無理やり奪っていたとは……。
「アキト様とクルミ様、ユナ様はその二人を知っているのですか?」
「かつてのクラスメートで同じガルタイトに召喚された奴らでした」
隠すこともないので、自分が知っていることを正直にルサルカに伝えた。
続いて、由奈も彼女に伝える。
「ある国の管理する施設に不法侵入して指名手配にされた後、悪魔族を食べて得た力でヘキサ公国を壊滅させたんです。 私達は彼らと戦いましたが途中で融合合体をして『サタンゴーレム』になったので苦戦を強いられました」
「そんな事が……」
由奈による詳しい経緯を聞いて、ルサルカは目を丸くして驚いた。
「俺達は、何とかそいつを撃破することで二人を死なせました。 止めを刺したのは由奈ですが」
「そうだったんですね……。 倒してくださってありがとうございます」
「あ、いえ……」
如月と来栖が起こした事が直接の原因だったようなので、奴らを倒した事を知ってお礼を言われた。
いきなりだったので、言葉がでなかったが。
「それで、お礼なのですが、私と契約しませんか?」
「え? いいんですか? 条件とかはあるんでしょう?」
「普通はありますね。 精霊が出した試練をクリアする事で契約は可能なのですが、例外もあります」
例外……?
確か、メイジフォックスウルフの家族とも【特例契約】で契約したんだったか。
もしかして【テイマー】の特例が、【サモナー】にもあるのか?
「今回のように、困ってる所を助けてくださった場合は例外として契約が認められるんですよ」
「マジですか……」
「ご都合主義にも程があるよねー」
例外規定が精霊と【サモナー】の間にも存在していたのには驚いた。
由奈もこれには困った表情をしている。
とはいえ、折角試練を免除にするチャンスだ。
ここは逃せないだろう。
「胡桃、精霊と契約するからこっちにおいで」
「ん、わかった、にぃ」
知らないうちに大人しくなったエミリーをなでなでしていた胡桃を呼んでこっちに来させた。
「では、契約を始めます。 私の手を握ってください」
言われるままに、胡桃と俺はルサルカの手を握る。
すると、急速に魔力が流れてくるのを感じた。
水の精霊の力が、俺に貸してくれる。
そんな感覚がしっかりと伝わってきた。
「はい、これで契約は完了です。 私の分身体を召喚できる権限を与えました。 そして、常にここで番人をしている本体の私とは精霊交信で連絡を取り合う事も可能になりました。 あと、水の技も使えるようになったので確認してくださいね」
「分かりました。 この力、悪用しないように頑張ります」
「……がんばる」
ルサルカとの契約で色んな力を得たおかげで、安川と戦うための戦力として少し強化された。
折角の力、悪用だけは避けたい。
「では、そろそろ帰ります。 エミリー、帰るぞ」
「え、もう精霊様と契約したの!?」
胡桃にナデナデされてふやけていたエミリーが我に返る。
既に精霊と契約をした事を今知ったようだ。
「皆様、本当にありがとうございます。 また、ここに遊びに来てくださいね。 契約によって転移で直接ここに来れるようにもしましたから」
「……行く。 約束する」
「わざわざすみません。 では、また……」
こうして、水の精霊ルサルカとの契約を終えた俺達は、後輩達の面倒を見るために転移でガイアブルクへと戻っていった。
契約してくれた彼女のためにもこまめに遊びに行こうと考えて。
俺達は、彼女に急かされる感じで家に入っていく。
「一人で暮らすには広すぎる規模だよな」
「そこは私の分身体が掃除などの仕事をしてくれてますので問題はないですよ」
分身体を生み出せるとか……。
流石に彼女が精霊なだけあるなと感心した。
リビングにて、メイド姿の分身体からお茶とお菓子を用意されたのでそれを食しながらある事を聞いてみた。
「それで、聞きたい事があったんですが……」
「何でしょうか?」
「精霊結界が消え、森の中に魔物が溢れた理由を知りたいんですよ」
由奈が横から俺が聞きたかった事を言ってくれた。
ルサルカはそれを聞いた瞬間、真剣な表情になって答え始めた。
「まず、ガルタイトとの戦争と悪魔族の過激派の生き残りが引き起こした【スタンピード】という現象ですね。 発生したのは半年前です。 アキト様とクルミ様、ユナ様がまだ召喚されていない時期ですね」
この辺りはエミリーから少し聞いたが、半年前に起こったのか。
確かにその時期に召喚されていない俺達からしたら、規模は想像できないだろう。
「それが引き金となって結界が綻び、徐々に湖周辺の環境が悪化し始めました。 その時は私も精霊としての力があったので、修復に専念しましたが、【スタンピード】が原因で悪化の度合いが酷く、焼け石に水でした」
悪魔族の過激派は、力による世界征服だった気がする。
だから、精霊の力も邪魔になったということだろうか?
「大丈夫だったのですか?」
「その当時は、なんとか結界は維持できていました。 しかし、次の出来事で結界は壊され、私もしばらく意識を失っていました」
「その出来事って……?」
「私が意識を失う前に、魔法で記憶した映像をご覧ください」
そう言ってルサルカは、魔力を使って自身の記憶を映像化した。
「え……!?」
「あ、あいつら……!」
「まさか、あの二人が……!」
「エミリーさん、落ち着いて!!」
映像に映し出された姿を見て俺と胡桃は驚きの声をあげた。
そして、エミリーに至ってはクレアの件もあって怒りが尋常ではなかった。
幸い、由奈が押さえてくれたので事なきをえたのだが。
「もしかして、あいつらが……?」
「はい。 映像の二人が私の精霊としての力を欲していました。 拒否をした瞬間、無理やり力を奪われて意識を失ったのです」
「拒否権なしってか……!」
「ひどいね」
俺と胡桃は、あいつら……、今は亡き如月と来栖がルサルカに対して行った行為に怒りを隠し切れなかった。
悪魔族を食っただけでなく、精霊の力を無理やり奪っていたとは……。
「アキト様とクルミ様、ユナ様はその二人を知っているのですか?」
「かつてのクラスメートで同じガルタイトに召喚された奴らでした」
隠すこともないので、自分が知っていることを正直にルサルカに伝えた。
続いて、由奈も彼女に伝える。
「ある国の管理する施設に不法侵入して指名手配にされた後、悪魔族を食べて得た力でヘキサ公国を壊滅させたんです。 私達は彼らと戦いましたが途中で融合合体をして『サタンゴーレム』になったので苦戦を強いられました」
「そんな事が……」
由奈による詳しい経緯を聞いて、ルサルカは目を丸くして驚いた。
「俺達は、何とかそいつを撃破することで二人を死なせました。 止めを刺したのは由奈ですが」
「そうだったんですね……。 倒してくださってありがとうございます」
「あ、いえ……」
如月と来栖が起こした事が直接の原因だったようなので、奴らを倒した事を知ってお礼を言われた。
いきなりだったので、言葉がでなかったが。
「それで、お礼なのですが、私と契約しませんか?」
「え? いいんですか? 条件とかはあるんでしょう?」
「普通はありますね。 精霊が出した試練をクリアする事で契約は可能なのですが、例外もあります」
例外……?
確か、メイジフォックスウルフの家族とも【特例契約】で契約したんだったか。
もしかして【テイマー】の特例が、【サモナー】にもあるのか?
「今回のように、困ってる所を助けてくださった場合は例外として契約が認められるんですよ」
「マジですか……」
「ご都合主義にも程があるよねー」
例外規定が精霊と【サモナー】の間にも存在していたのには驚いた。
由奈もこれには困った表情をしている。
とはいえ、折角試練を免除にするチャンスだ。
ここは逃せないだろう。
「胡桃、精霊と契約するからこっちにおいで」
「ん、わかった、にぃ」
知らないうちに大人しくなったエミリーをなでなでしていた胡桃を呼んでこっちに来させた。
「では、契約を始めます。 私の手を握ってください」
言われるままに、胡桃と俺はルサルカの手を握る。
すると、急速に魔力が流れてくるのを感じた。
水の精霊の力が、俺に貸してくれる。
そんな感覚がしっかりと伝わってきた。
「はい、これで契約は完了です。 私の分身体を召喚できる権限を与えました。 そして、常にここで番人をしている本体の私とは精霊交信で連絡を取り合う事も可能になりました。 あと、水の技も使えるようになったので確認してくださいね」
「分かりました。 この力、悪用しないように頑張ります」
「……がんばる」
ルサルカとの契約で色んな力を得たおかげで、安川と戦うための戦力として少し強化された。
折角の力、悪用だけは避けたい。
「では、そろそろ帰ります。 エミリー、帰るぞ」
「え、もう精霊様と契約したの!?」
胡桃にナデナデされてふやけていたエミリーが我に返る。
既に精霊と契約をした事を今知ったようだ。
「皆様、本当にありがとうございます。 また、ここに遊びに来てくださいね。 契約によって転移で直接ここに来れるようにもしましたから」
「……行く。 約束する」
「わざわざすみません。 では、また……」
こうして、水の精霊ルサルカとの契約を終えた俺達は、後輩達の面倒を見るために転移でガイアブルクへと戻っていった。
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