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第6章 脱走勇者は悪魔になる

124 閑話~その頃のガルタイト国内と魔族領~

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安川やすかわ まがつ……か」

 ガルタイト国の個室で考えているのはザナ王女。
 いつぞやのアン王女の戦死の報告を聞いた時は、ショックでずっと引きこもっていたが専属メイドの報告で父である国王ヘイトや宰相が安川の駒にされているという事を知らされた。

「ショックを受けて精神的に不安定になったお父様の心を突いて駒にしたとか……。 あの男は何を考えて……」

 灯りが付かない自室で一人安川の危険性について考え込んでいる。
 だが、当時の安川を含んだ召喚に関わっていない身としては、奴の狙いはわからなかった。

「とはいえ、強力なホムンクルスを作る際に自分の血を使ってる所を見てしまってるから、無下にはできない……はぁ」

 複雑な感情に囚われてため息を吐くザナ王女。
 強力なホムンクルスを作ってくれるのは有り難いが、安川の目的が分からない以上素直に喜ぶことはできないのだ。

「今は様子見にしようかしら……」

 ザナ王女は考えるのをやめて、様子見をする選択肢をとった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「くそっ、俺様のクローンホムンクルスがあっさり倒されるなんて!」

 広間にて、使い魔による結果を聞いた安川は、悔しそうに机を叩いた。

「しかも、二人を向こうにあっさり引き渡されるとは……! あんな事がないように色々仕込んでいたってのに」

 その上、京終と鴫野が暁斗サイドに引き渡された事を受けて悔しそうに拳を押し付けている。
 あの【時限爆弾パイツァダスト】という対勇者の呪いだけでなく、先ほど言っていた安川のクローンホムンクルスをもう一体仕込ませて、裏切りの予感をした場合に猛毒の吹き矢攻撃で死に至らせるという事をしていた。
 しかし、暁斗や魔族の少女にあっさり見破られてしまった。

「おそらく、あの二人はあいつらに俺の場所をばらしたに違いない! すぐに動きたいが、今の戦力では……」

 そう、今城内に存在している戦力は通常のホムンクルス兵士数十人と強化されたホムンクルス15人。
 勇者に至っては、暁斗のクラスメイトがあと5人。
 安川のクラスメイトが6人のみ。

「頼みも国王も今は魔力枯渇で眠っているし……くそっ、速攻で詰んでるじゃないか!」

「こうなれば、ザナ王女……だっけか? あの女に無理やり製造術を発動させて、取り巻き達の複製クローンホムンクルスを作る手伝いをしてもらうしかないか……」

 頭を抱えながら、安川は今後のプランについて一人で考えていた。
 本来なら取り巻き達も一緒にプランなどを考えていたが、一人ではいい方法が思いつかないのだ。

「……」

 そんな姿を入り口の陰から何者かが聞き耳を立てていた事を知らずに。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方、魔族領ではイリアゲートが、水晶玉を使って第7防衛部隊副隊長のシンシアと会談を行っていた。

「そうですか……。 今のガルタイトはその安川やすかわ まがつという人物が裏で支配しているのですか」

『ええ、今までより強くなっていたホムンクルスの作成もその男が関わっているという事です』

「成程……。 なら第5防衛部隊が少し苦戦した理由に納得がいきますね」

『はい。 安川はイメージを構築するのがかなり上手く、ホムンクルスを作る際にも強い奴をイメージしながら製造していたそうです』

「厄介ですね、そのイメージは」

『あ、後、私達が戦場で会った安川は、奴の姿をしたホムンクルスらしいです』

「あなたの所にも安川がいたんですね。 実は第5防衛部隊にも指揮官として安川がいました。 あなたの報告と合わせれば安川を模したホムンクルスだというのに納得がいきますね」

 実は、暁斗や七絵達に追手部隊が派遣された時期と同じタイミングで、第5防衛部隊の守る北東に討伐部隊が攻めて来たのだ。
 勇者は参加していないが、指揮官として安川が参加していたらしい。

「それで、降伏をし、情報を提供してくれた二人は?」

『ガイアブルクで預かってるそうです。 今は事情聴取を受けている最中ですが、気になりますか?』

「ええ、多少なりとも……ね」

『そうですか……』

 シンシアからの報告で、鴫野と京終がガイアブルクで事情聴取を受けているという事も知った。
 二人が暁斗のクラスメイトなのは間違いないだろうが、どういう関係だったかは分からない。
 軽くではあるが、刃も向けていたらしいのでそこが気がかりではある。
 ヘキサ公国の壊滅と安川のホムンクルスなど……、ここ最近で色々ありすぎて疲労が見え隠れするが、魔王として気丈に振舞わないといけない。

「シンシアさん、他の仲間たちにもお疲れ様でしたと伝えてください。 褒賞も与えますから」

『分かりました。 それでは……』

 シンシアがそう言うと、通信が切れて水晶玉の光が消える。

「いい意味でも悪い意味でも変わりつつありますね」

 イリアゲートは窓の外を見つめながら、独り言ちた。
 それでも暁斗達に期待しているのだ。
 ガルタイトが滅んででも変えてくれることを……。

「暁斗くん。 きっとあなたの仲間と力が……、世界を歪みから解放してくれると信じています」

 夕焼けになろうとする空に向けて、さらにイリアゲートは独り言ちた。

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