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第2部 激戦編

第44話 エマージェンシーシステム②

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 戦艦フィールラスクスに帰還してすぐに、マイア王女と共に医務室に向かった。
 診断の結果、マイア王女は軽い打撲程度で回復魔法を掛けるだけで済んだ。
 一方で私は、【エマージェンシーシステム】を発動した際に魔力を吸われた影響で、少し医務室のベッドで休む事になった。
 まぁ、一応アパ子がコンソールのログを漁ってくれるみたいだし、損傷した部分は予備の汎用パーツで補えるみたいだし、アパ子や整備班に任せて私は魔力回復の為に休ませて貰うとしよう。

「ルキア、調子はどうだ?」

「魔力を吸われたとアパ子君から聞いて、心配したがな」

「ええ、今は回復しています」

 数時間くらい横になっている所にクラウド艦長とアルムがお見舞いに来たようだ。
 いや、その二人以外にもアリシアやジョージ中尉、マイア王女、リュート中尉がアパ子と一緒に見舞いに来てくれたみたいだ。

「あのキャノン砲の直撃を受けたって聞いたから、心配したよ」

「まぁ、幸い打撲で済んだけどね。 マイア王女もだけど」

「自分自身に結界魔法を掛けて良かったですよぅ。 衝撃だけは防げませんでしたし、機体は絶賛修理中ですが」

「むしろルキアは、その後が大変だったからな」

「そうなのよね。 あれは一体……。 アパ子、何か分かった?」

『ええ、ログを漁って判明した部分の範囲内でですが……』

 アリシアには心配され、アルムからも色々言われたが、マイア王女はあのキャノン砲の直撃の際に結界魔法を掛けていたらしい。
 それで、辛うじて打撲で済んだが、機体は予想以上に損傷したようで、絶賛修理中とのこと。
 そして、ここからが本題。
 【エマージェンシーシステム】について、アパ子はログを漁ってくれたので、アパ子から一応説明される事に。

『私の知らないシステム……【エマージェンシーシステム】を説明する前に、まずは【マギ・ブーストシステム】について話す必要があります』

「ああ、確かエマージェンシーシステムが発動した際に、マギ・ブーストシステムも発動しているって言ってたからね。 私が魔力を吸われた事と関係あるのかしら?」

『はい。 まず端的に言うならばマギ・ブーストシステムはマスターの魔力を使って機体の性能を一時的に強化するシステムです』

 なるほど。
 【マギ・ブーストシステム】は、いわば操縦者の魔力……ここでは私の魔力を使って機体の性能を一時期に強化するモノだったとはね。

『マギ・ブーストシステムは、発動している間は魔力を消費し続けます。 故にマスターの意志で切り札として発動させる事が可能ですし、私的にはそれを推奨しています。 しかし……』

「まさか、エマージェンシーシステムとやらを発動したら、そのマギ・ブーストシステムも?」

『そのまさかです、アルムさん。 エマージェンシーシステムを発動したら同時にマギ・ブーストシステムを強制発動させる仕様でした』

「何と……!」

 アルムが感じた嫌な予感は的中し、クラウド艦長は驚く。
 あの【エマージェンシーシステム】を発動してしまえば、強制的に【マギ・ブーストシステム】も発動してしまう仕様だった。
 あまりにも嫌すぎる仕様よね。

「じゃあ、ルキアはその間は魔力を!?」

『そうです。 エマージェンシーシステムが発動している間は、当然ながらマギ・ブーストシステムを強制発動しているので、エマージェンシーシステムが停止するまではマスターの魔力は吸われ続けます』

「だから、急に魔力が吸われる感覚に陥ってた訳ね」

 これで最初の疑問が解消された。
 つまり、私の魔力が吸われ続けていたのは、【エマージェンシーシステム】が【マギ・ブーストシステム】を強制発動しているからだ。
 つまり、発動している間は常に私の魔力は吸われ続けるという事になる。

『そして、そのエマージェンシーシステムですが、発動条件はマスターが危機に陥った時に発動するみたいです』

「ルキアさんの危機?」

「そういえば、あの時私はフォルス・ノーヴァーに連れ去られるんではという一種の恐怖があったけど……もしや?」

『その恐怖が、おそらくエマージェンシーシステムのトリガーだと思われます』

 続けてアパ子から話される内容は、エマージェンシーシステムの概要だ。
 これもアパ子がログを漁って判明した部分からの説明だろう。
 しかし、私が抱えた恐怖が発動のトリガーなのかも知れないなんてね……。

『そして、システムは私の本体の周囲にいるものを全て排除するという厄介な仕様でした』

「ルキアが俺に離れてと言ったが、それが理由か」

『はい。 今回はどうやら周囲はあのフォレストグリーン一機だけでしたから、撤退した後にシステムが止まりました』

「なるほどな」

 エマージェンシーシステムがそんな厄介な仕様だったなんてね。
 幸い今回はフォルスの機体のみだったけどね。

『そして、システムが発動した場合は、システム自体が敵性体排除の為にマスターから操縦権を一時的に剥奪していたようです』

「あの時操縦が受け付けないのは、一旦剥奪されたからという事ね? ここは私には任せられないと」

『そうなります。 さらに、システム発動中は本体が標準装備されている武装……ビーム兵器を優先的に使用するようになっていました』

「ふむ。 それであの時にフォルスに対してビームサーベルを使ったのか、そのシステムが」

『そういう事になりますね』

 そして、重要な疑問もひとまず解消された。
 【エマージェンシーシステム】は、アパタイトの周囲に存在する存在から守るためにマスターの私から操縦権利を一時的に剥奪し、ビーム兵器を優先的に使用してでも排除するというものだったのだ。
 ある意味迷惑なシステムだって事でしょうね。

『私がログを漁って判明した部分はそこまでです』

「ふむ、了解した。 アパ子君すら知らないシステムが搭載されていたという事は、アパタイトを作った者が仕込んだブラックボックスだろうな」

「アパタイトはどうなります?」

「エマージェンシーシステムさえ発動しなければ、アパタイトは戦力だからな。 そのまま使う。 アルム大尉もいいな?」

「了解です」

「では、ひとまず解散しようか。 ルキア嬢は魔力の回復を優先して休んでおくようにな」

「はい」

 とりあえず、アパタイトはそのまま使う事になり、私は魔力回復を優先して休む事になった。
 色々気になるが、今は魔力の回復を優先しよう。
 そう思いながら、アルム達が医務室から出たのを見計らって、そのまま一眠りしたのだった。
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