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2章

やっぱり

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「神位生命蘇生儀式魔法『リザレクション』」

 その単語が出た瞬間、アミリアさんの顔色が一気に変わった。
 それは、予想していなかったというものではなく、ある程度察していたような表情だった。

「やっぱり、心当たりはあったんですね」

 正直、俺がこの結論に至った理由も弱いながらある。
 それは単純な疑問からだった。

 ――――なぜ、アミリアさんでなければならなかったのか――――

 もっと別の聖女もいただろうに、もっと捕えやすい聖者がいただろうに、何故わざわざ本拠地の建物の中から、攫うというリスクを犯してまで彼女にこだわるのか。

 それは彼女の立場がどうこうではなく、もはや彼女しか持ちえない価値があったからだろう。
 治療院の権限なんて、もっと簡単に、教皇様にでも相談すれば手に入るだろう。正当な理由こそ必要だろうが、誘拐よりは圧倒的に難易度が低いだろう。

 なら、それだけのリスクを払う価値があるものとは。

 俺にはもう、それしかないように見えた。



「これでも、明るみになっても続けるつもりですか。完成していない今こそ、最後の引き時なんですよ」

 俺は警告を飛ばす。
 正直、この計画には乗り気じゃあない。
 だってそうだろう。下手に術を完成させた結果、俺とアミリアさんが殺され、術は奪われ、何もかもを壊されるような結果が起こり得るほどの大きな計画だ。

 それを決行するのも「ばれないように」という条件を出して、言っていたのだ。

 もう手を出されるほどに確信を持たれてしまっては、もう明るみに出たと同義だろう。

「そうですね。ここまで来たからお話ししますが、実は、儀式自体は理論上、可能な域まで完成しているのですよ」

「えっ......」

 アミリアさんは少し遠くを見る。
 手が届かない月に手を伸ばすように、もう少しで、届くんだと、そう言わんばかりに手を伸ばす。

「あとは魔力と、条件さえ満たせば」

「条件......?」

 条件さえ満たせば、俺が協力すると言えば、彼女はそのリスクを承知で魔法を使うのだろうか。
 彼女は無慈悲に、その魔法をできるほどに覚悟が決まっているのか。

 ――――もう、出来ているだろう。
 そう思い、どう止めようと考えたときに出されたその条件は、俺にとって絶望以外の何物でもなかった。

「満月の夜。つまり、今夜ですよ。ロードさん。私は止まりません」

「......っ」

 やはり、だった。
 俺の言葉は届いていなかった。

 そして、もう言葉を重ねる時間も残っていない、ということだ。

 どうして、と思わざるを得なかった。
 どうして、身に降りかかる災厄を知って、この世界がどうなろうとも知らないと、彼女はただひたすらに顔も知らない父を追えるのだ、と。

「そうですか」

「はい。だから、協力してくれるなら」

 そう言って、アミリアさんは手を差し伸べる。

「協力してくれるなら、今夜、私の部屋に来てください」

聖女だと、誰もが納得するその表情。
だが、俺は即答で返す。




「俺は、行きませんよ」




 結論は決まっていた。協力はしないと。
 いや、協力しようと思えない、が正しいのかもしれない。

 確かに、アミリアさんを助けてやりたい気持ちはいっぱいだ。思いをかなえてやりたいというのもある。
 だが、その思いを打ち消し、マイナスまで振り切ることが出来るほどに、リスクがありありと浮かんでいるのだ。

 俺はアミリアさんを幸せに、そして一緒に俺も幸せになりたいだけであって、極論アミリアさんの父を幸せにしたい感情があるわけではない。
 だから、その父のためにアミリアさんを不幸にすると、そう言っているようなものなのだ。

 そりゃあ、片方にどれだけ感情として願いをかなえたいと重りを置いても、ピクリとも動かない。



「やっぱり、ですか」

 少し寂しそうに、アミリアさんは空を見上げた。
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