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1章

ケルヴィン

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 街と外を隔てる壁に着く。
 そこから先は外、つまり魔物蔓延る死が間近にある世界だ。
 なのでここから先は特に、細心の注意を払って進む。

 そう、意識を高めたときだった。

「誰だ」

 門の裏側、そこに人の気配が二人ほど。

「よお、俺だ。ロード、俺を呼ばないなんて随分と偉くなったもんだなぁ」

「そうよ、ロード。私たちを呼ばないで成功はありえないって、分からないほど無能だったの?」

 そこにいたのは、幾度となく見た二人だった。

「ケルヴィンと、クレディ......」

 面倒なことになった、とため息をついた。




 正直、この二人とは顔を合わせるつもりはなかった。
 追放された今、二人との間にマルコが緩衝材として挟まることで治療等をしていたのだ。
 というのにマルコ無しで二人とばったり会うだなんて、現状最悪と言ってもいい。
 なにせ、これは俺一人の問題ではない。これからの街の、さらには国の存亡をかけた戦いに、パーティーを引き連れて行くわけだから、ここで俺一人の個人的事情で立ち止まって奇襲が失敗しては意味がない。時間を食われるようなら、実力行使も。

「何の用だ」

「チっ、偉そうになったもんだなぁ、ロードぉ!」

 ケルヴィンが早朝にも関わらず大声を出す。

「ほら、乞えよ、這いつくばって懇願しろ。ケルヴィン様の力を貸してくださいってな!」

 面倒だ。が、人がいる今こそこの問題を解決できるときでもある。俺一人では非力すぎて不可能だ。
 マルコは基本的にどちらにも属さない。つまり、言い方は悪いが、根本的解決には至れない。

 この場合の根本的解決はつまり――――俺が死ぬか、ケルヴィンが死ぬか、永遠に会えない状況になるか。
 死ぬのは論外。なら合わない方法......正直、この手はつかいたくなかったが、これしかなさそうだ。

 脳裏で描かれた作戦は一つだけ。後々の罪悪感と扇動するという問題点こそ残すが、この作戦はそれよりも重要だ。今潰さなくては、もう機会はないかもしれない。
 数瞬、悩んだ。が、切り捨てた。俺にとっては二人はもうその程度の存在だ。

 さて、作戦を決行しよう。
 とは言っても、一言、はっきりと突きつけるだけ。それだけで俺の思い通りに事が進む。
 俺は呼吸を整えて、声を発した。

「そっちこそ、ろくに鍛錬もせず、バフが無くなったら戦えない人が何を偉そうにしてるんだ?」

「......言ったなオラぁ!」

 ケルヴィンが剣を抜いた。
 流石のこの行為にはクレディもケルヴィンを抑えに言ったが、それを振り払ってケルヴィンはこっちに走ってきた。

 ここまで落ちぶれたか。
 この行為、門の裏とはいえ壁中の俺に向かって抜剣し、切りかかるということは即ち街中での殺人未遂。いつもの殺す気のない他愛のない戯れ――――それでも街の人からすれば面倒なことこの上ないのだが――――とは訳が違う。場合によっては殺人だ、そうなるといくらギルドのトップクラスパーティーとはいえ、街の人の生命を脅かす存在を野ざらしで置いてはいない。もちろん衛兵が捉えに来るだろう。場合によっては国の指名手配だ。つまり――――

「この時点から、お前はもう犯罪者だ!」

 俺はすぐに自分に貧弱ではあるもののバフをかけて回避する。

「それがどうしたぁ!」

「皆の者、犯罪者を捕まえろ!」

 俺は一気に付近のパーティーメンバー全員にバフをかけた。
 その瞬間、旋風が起こった。

「どういうことだ......なんで、俺が」

 一瞬で、ケルヴィンは組み伏せられていた。
 一方クレディは先ほど振り切られ座り込んだままだった。

「衛兵に突き出してしまえ。クレディ......あの女は放っておいて構わない」

 俺は聖者様らしく、威厳あるように言った。
 と、それを聞いてか、はたまた常日頃からの判断の早さかはわからないが、組み伏せていた一パーティーがの詰め所へと走っていった。優秀とはまさにこのことを言うんだろう。あの大馬鹿者とは大違いだ。
 俺の威厳が出ていたのか、聖女様が少し驚いたようにこっちをじっと見ていた。良かった良かった

 クレディもケルヴィンがいない以上強くは出てこない。
 これから、作戦を本格的に開始しよう。
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