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1章

住居? と貴重な情報源

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「聖女様、今ここで住むと聞こえたんですけど......」

 確認を取る。すると「当たり前でしょう」と即座に帰ってくる。何が当たり前なのか、さっぱりだ。

「もちろん、聖者様として、名前を使われることを承知で入信したんでしょう? それなら、重要度は聖女と同じです。まぁ、男性ですので、私ほど束縛はきつくないでしょう。街を護衛無しで歩けるでしょうけれど、夜はここにいないと心配されますよ?」

「はぁ、そうですか」

 今日は常識外、というか自分の中の常識を壊されるようなことが連続しているせいでもう何が何だか分からない。
 聖者という名前が聖女と同格で扱われることに気づけなかったのも、きっとそのせいだろう。
 が、男性というだけで街を歩けるのは少し楽だ。差別的考えがあるのだろうか、と思ったが、単純に抵抗する力が体のつくり的にあると思われるからだろう。うん、そう言うことにしておこう。

「わかりました、ではここに荷物を置けばいいんですか?」

 俺は床を指さす。

「いえいえ、来客用の寝室がありますから、そっちを使ってください」

 そう言って、指さした先にはドアがあった。
 正直俺は物置か何かだと思っていたが、寝室だったのか。

「ちなみに反対側は私の寝室となっていますので......入ってきたらダメですよ?」

 あざとい仕草だ。が、まぁ良い。
 どうせ俺には、そこに忍び込む勇気も、それから先をする度胸も、それからの責任感もない。

「はい、分かってますよ」

 聖女は純潔でなければならないとか聞いたことあったけど、あんなことしていいのだろうか。あの仕草は男の十人くらいは食ってそうだったけどな......
 なんて脳内で思い返しならも、自分の寝室のドアを開いた。

「おお......」

 そこには、今の宿の一段階上の価格帯だと言われても信じられないくらいの、良質の寝室があった。
 一部、きらきらとした貴金属類が置いてあるそれだけが、俺の趣味に合わないな、なんて思いながらもベッドの確認をする。

「ふっかふかだ......」

 もうこれは、快適そうだ。年中この寝具で寝られそうだ。
 と、そこまで行って、ベッドから離れる。
 寝具にこれ以上取り込まれると、後々の業務に支障が出る。しかももうすぐ、怪我人がまたあふれかえるだろう。

 すぐにその悪魔のベッドから離れ、治療のため部屋を出るのだった。



「あ、ロードさん、溢れてます、怪我人でいっぱいです!」

 フィアさんが大声で叫んでくる。遅かったか。というかまぁ、薄々感じてた。長話をしすぎたな、って。

「すぐに!」とだけ返して、怪我人の側へと行く。
 どうやら、全員が獣にやられたようだ。まぁ軽症で済んでいるのはどこかの誰かと違って鍛錬をしていたからだろうか。
 まぁいい。すぐに治療だ。

「ほい、ほい、ほい」

 三回ほど魔法を使った。それでほぼ全員が治った。

「呪印はこいつか」

 一人だけ明らかに魔法が効いていなかった。ので確認すると、確かに首筋に呪印が。
「そい」と、魔法を使用。すぐに呪印が消えたので「ほい」と治療した。

 すぐに寝息が落ちついた。
 と、そういえば。
 呪印のことで思い出したけど、クレディは果たして何人の呪術師を見たんだろうか。マルコがそれを忘れるとは思えない。ならば、さっき何故、伝えなかった?
 と、そこまで思考して、気付いた。クレディも、鍛錬をしてなかった、と。

 つまり、気付かれる前にやられたか、気付いたけど人数を数えられなかったか。そしてそれを聞いたマルコが、わからなかったのなら情報的価値はないと切り捨てた。それくらいしか考えられなかった。

 マルコはリーダーだったこともあり、一番信頼していた。だから、ここで「忘れていました」なんてオチは絶対にない。
 なら、これからどうするべきか。

「ありがとうございます聖者様、こいつ、いくらポーションを飲ませても治らなくて」

 と、そこで一人の男が頭を下げた。
 そうだな......ちょうどいい。

「この人のパーティーメンバー?」

「はい、そうです」

「それなら、目が覚めるまで、治療院で寝かせておいてくれないか? 是非、話を聞きたいものだ」

「あ、治療院のほうがよろしいのであれば」

 よし。
 鍛錬しているだろうこの人から話を聞ければ、呪術師の人数が、戦力がわかる。
 敵個体一体一体に刻んでいるなら、呪術師を倒して終わりだ。

 と、そこで何かが引っ掛かったが、それ以上は考えなかった。
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