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166・時間稼ぎ
しおりを挟む「頼音! 無茶はするな!」
「わーってるって、琉絆空!
お前こそ無理するなよ!」
勇者である恩恵を持つ俺、
島村頼音は―――
幼馴染の親友と一緒に戦場を駆け回る。
「逃げるか!
勇者ともあろう者が!
我が領へ攻め込んで来た時の威勢はどこへ
いった!?」
そこへ、高校生くらいの見た目の赤髪の少年、
魔王エバンスとやらが執拗に追ってくる。
「挑発に乗るなよ!
俺たちの役目はあくまでも時間稼ぎだ!」
「しかし、魔族の中にも強ぇヤツがいたんだな。
この前のは全力じゃ無かったって事か……!」
魔王エバンスとやらは、その戦闘能力も
さる事ながら―――
俺たち二人を相手にしても、常に間合いを計って
攻撃を仕掛けてきやがる。
「どうしたどうした!?
今日はあの男はいないようだが……
反射が無ければ、
正面から戦えないのか!」
籠城戦は十日目になるが―――
今日だけは反射の恩恵を持つ武藤のオッサンが
いない。
王都の住人避難のため、一番デカい正門を
ガードしているからだ。
「魔王様!
魔王エバンス様!!」
そこへ魔族の新手が乱入してきた。
しかし一体だけ。
どうやら、伝令か何かのようだが。
「どうしたのだ?」
「本日はクレイオス王国の動きが妙です!
どこも門を固く閉ざし―――
迎撃に出て来る気配がありません!」
それを聞いて、魔王と呼ばれた少年は
周囲を見渡す。
「そういえば、今日はお前ら以外の
人間が見えないな。
勇者だけに戦いを任せたのか?
ケンカを売っておきながら情けない」
攻撃の手を止めて、確認するように
俺たちに視線を向ける。
「今回、お前らのところに攻め込んだのは、
聖教会の独断なんだよ」
「俺たちやクレイオス王国は、全面的な
争いには反対の立場だ」
俺と琉絆空で一応事情を説明してみるが、
「ふざけた事を。
この前の侵攻、一番被害を出したのは
貴様ら勇者どもであろうが」
痛いところを突かれ、俺も琉絆空も怯む。
だがその時―――
「!」
「合図だ、頼音!」
王都から上空に向かって、花火のような
攻撃魔法が打ち上げられた。
それは時間稼ぎの終了と、王都の全ての住人が
避難完了したとの報せ。
そこで俺と琉絆空は同時に王都へとダッシュで
撤退する。
「―――!
逃げるか!」
「おうよ、逃げさせてもらうぜ」
捨て台詞を残してその場から去るが、
追いかけてくる気配はない。
それでも周囲に警戒しつつ……
俺は王都内へと急いだ。
「エバンス様、勇者を追いかけないのですか?」
部下の問いに、彼は視線を勇者たちが走り去った
方向へと向ける。
「勇者以外の戦力を出していないのと―――
もう1人の勇者が待機しているというのも
気がかりだ。
他の者どもも攻撃の手を止め、いったん
様子を見るようにと伝えろ」
「ハハッ!」
さすがに状況がおかしいと踏んだ魔族の
トップは、深追いせずに確認に入る。
そしてその日を最後に、王都の防衛戦は
終わりを告げたのであった。
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