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103・対戦格闘ゲーム

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「くっ! うおっ! くのおっ!」

「だぁあっ!? そうくるか!」

ダンジョン:【エンテの街地下】、
地下五階『各ビデオゲームフロア』。

そこの対戦格闘ゲームエリアで―――
暑苦しい男たちの絶叫が飛び交う。

このエリアには2Dから3D、また様々な
年代の格闘ゲームがあるが、

相手と一対一で戦って勝負を付ける事、
そしてハッキリとシンプルに決着がわかる
事から、

血の気の多い冒険者や、メダルゲームに
飽きた客層に受け入れられていた。

「お兄ちゃん!」

「お、グレンも来ていたのか」

五・六才のブラウンの短髪に、ややトロンとした
目付きの少年が、俺のすそを引っ張る。

俺に保護された当時、熱を出していた子だが……
今ではすっかり元気になった。
とはいえ、このくらいの子は油断するとすぐ
熱を出すから、まだまだ目は離せないんだけど。

「そういえばお兄ちゃん!
 何かねー! 何かねー!
 『続き』無しで進んで行ったら、違う
 ボスが出て来たの!」

「おー、そりゃすごいじゃないか。
 で、どうなった?」

「負けちゃったー!
 何あれ、強過ぎー!」

格闘ゲームのブームが成熟してくると、
CPU戦でノーミスやノーコンティニューで
勝ち抜いた時―――
お約束で隠しボスを用意するようになった
からなあ。

ぬし、ここにおられましたか」

「あ、パトラ」

白銀の長髪に、魔法使いのような衣装に
巨乳を収めた……
配下の魔狐マジカルフォックスが声をかけてきた。

「パトラおかーさん!」

「おうおう♪
 今日はこの階にいたのか、グレン」

グレンが彼女に飛び付き、その頭を
優しく撫でられる。

ちなみに子供たちは配下の魔物二人を、

パトラ→パトラお母さん、
コマチ→コマチママ、

と呼び分けているようだがその違いがわからない。

「しかし、よく荒事が起きませぬのう」

パトラは周囲を見渡し語る。

確かに、対戦格闘ゲームは地球でもよく
トラブルの元となっていた。

シンプルに決着がつく分、勝敗がハッキリと
分かり過ぎて―――
悔しさも倍増するのだと思う。

それが荒くれ者……
しかも血の気が多い冒険者がやればどうなるか、
という危惧きぐはもちろんあった。

「ああ、だからアレを用意したんだよ」

「アレ?」

俺が指差した方向にパトラ、そしてグレンも
視線を向ける。

そこには、映像を流す巨大なモニターが設置
されていて、

「うわぁ……何だこりゃ」

「本当に人間が出来るのかよ、こんな事」

「読み合いのレベルが違い過ぎる……」

周囲のギャラリーはそれを見て口々にうなる。

彼らが見ているのは、いわゆる達人同士の対戦。

PCで、一度俺が見た事があるページは再現
出来たので、動画も試したところ可能である
事を確認。

そのデータを各所で再生出来るよう、モニターを
あちこちに設置したのである。

「俺の世界でいうところの、プロゲーマーって
 言うんだけど……
 その人たちの対戦をああやって流しているんだ」

そしてそれだけの差を見せつけられれば―――
『自分たち程度の腕で怒るなんてバカバカしい』
と思うのが人情というもの。

別名『心を折る』とも言うが……
まあトラブルは起きないに越した事はなく。

「確かに、あのような物を見せつけられたらのう」

「ボク、あそこまで強くなれるかなあ……」

グレンまで心が折れそうになったところで、
俺は慌てて話題を変える。

「そ、そういえばパトラ。
 俺に何か用があって来たんじゃないのか?
 それともたまたまここに来ただけ?」

「おお、そうでした。

 コマチが、例の件で―――
 一人捕縛したとの事」

俺は一瞬顔が強張るが、グレンがいるので
何とか平静を装い、

「……わかった。

 そいつは例の場所か?」

御意ぎょいに」

俺は眷属の少年に向き直り、

「じゃあ、グレンは適当に魔導具の操作を。

 何かあったら、サリーさんたちか、
 パトラさんかコマチさんに言うんだよ」

「わかったー」

彼の返事を聞くと、俺はエレベーターへと
足を向けた。

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