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92・チャンバラゲーム
しおりを挟む「よーし、ザック。なかなか筋がいいぞ。
落ち着いていけ。
どうだ、まだやれるか?」
「はっ、はい!」
ダンジョン:【エンテの街地下】、
地下三階『体感スポーツ系』のフロア―――
そこで戦士の冒険者、クラークさんが、
俺の眷属の少年に後ろから声をかける。
俺より(外見上は)三才ほど年下の、まだ十にも
なっていない男の子。
薄い茶色の短髪をした、そばかすのある顔は
年相応のわんぱく少年といった感じだ。
「どうですか、ザックの腕は?」
「まあまだ子供だからすぐ疲れるけど、
上達も早いし、どんどん順応していっている。
しかしこの魔導具はスゴいな……
戦闘訓練には持ってこいだ」
ザックがプレイしているのは、刀で斬って遊ぶ
タイプの、大型の体感ゲーム。
そういえばクラークさんも当初はこれに
ハマっていたなあ、と思い出す。
「でも実戦とはやっぱり異なるでしょう?」
「そりゃそうだけど、何も知らない素人が
型を覚える目的なら有効だ。
何より斬る、防ぐと言ったイメージが
明確になる」
もう十年冒険者をやってきたという彼の言葉は、
経験も相まってか重く自信に満ちている。
そういえば昔、大型筐体の戦闘機の
ゲームを、某国が大量購入しようとしたという
噂もあるし……
いきなりやらせるより、イメージをつかめる
ものがあった方がいいのは当然か。
「そういや、元女性騎士団だっけ?
彼女たちも時々やっていたぜ、コレ」
「へえ。どんな感じでしたか?」
興味が湧いてクラークさんに聞き返すと、
彼はブロンドの短髪をいじりながら、
「『わざと遅く振らないといけないから、
手加減の練習になる』とか、
『片刃剣なんて珍しいから、遊ぶには
持ってこいだ』とか……
別の意味で楽しんでいたようだ」
冒険者たちが独自もしくは自己流だとすれば、
彼女たちはそれこそ軍人、プロだからなあ。
ガンシューティングを嬉々としてやっていたのは、
得物が剣じゃなかったからかも。
「ク、クラークお兄ちゃん!
終わったよ!」
そこでザックが振り向いて俺たちに声をかける。
画面を見ると、ちょうどエンディングで―――
「最後までやらせたんですか?」
「ああ、何回続けても取り敢えずやれるだけ
やるって方針でさ。
もし冒険者の立場なら、途中で放り出すなんて
出来ないし……
そう言ったら僕も最後までやるって聞かなくて」
なるほど。
根性は鍛えられそうだ。
俺はザックに近寄ると頭を撫でて、
「よく頑張ったな、えらいぞ」
「え、えへへ……♪」
俺と一緒にクラークさんも彼の頭を撫で、
「やられたのは何回くらいだ?」
「えっと、今日は9回くらいかな?」
ダメージ制とはいえ、やられる時はあっという間に
やられるゲームだ。
二桁いってなければ上出来だろう。
「よーし、少しずつ減らしていこうな。
何、すぐ俺に追いつくよ」
「そういえばクラークさんは、何回ほど
『続き』を?」
そこで彼にこのゲームクリアについて聞くと、
「俺はもう『続き』無しでクリア出来るぜ」
おおー、と俺とザックが一緒に感心していると、
「……ちなみに、元女性騎士団の方々は、
すでに全員片手で『続き』無しでクリア
している。
今はどれだけ時間短縮出来るかを競ってて……」
「そ、そうですか」
「うわー……」
改めて彼女たちの実力を認識し、俺と
ザックは微妙な表情になった。
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