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77・眷属兼広報宣伝担当ゲット

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「な、ん、だぁ、これは……?」

宿屋の地下―――
ダンジョンの休憩エリアに到着したエリックさんは
驚きの声を上げるが……
まぁもう慣れたものだ。

床や壁、照明を目で追って確認し―――
その度に彼の表情は百面相のように変わる。

そこへローラさん、プリムちゃん母娘が出迎え、

「ああ、あなたが料理を覚えたいという
 人でしょうか」

「えっ?
 ああ、はい。そうです。
 あなたがローラさん?」

「そうだよー。
 あとお母さん結構厳しいから、覚悟してね!」

と、母娘に連れられ―――
彼はコスプレ喫茶の方へと連行されていった。

今やあそこの厨房が彼女の城というか、メインに
なっているからなあ。

「いや、ヒロト様すいません。
 まさか直接来ると言い出すとは思わなくて」

「ジジイ……エリックさんにゃいろいろと
 世話になっててさ。
 断り切れなくって」

クラークさんが頭を下げ、ミントさんが拝むように
両手を合わせる。

「あー、ヒロトお兄ちゃん、わかってたって
 言ってましたから」

「へ? わかってた?」

グレンの言葉に、戦士ふうの冒険者は首を傾げ、

「ほら、魔境の森のダンジョンにも
 あったでしょ?

 外の様子を見られる魔道具が、ここにも
 あるんです」

次いでリナが説明してくれる。

ここには管理者部屋があり―――
こっち側はローラさん母娘の専用部屋にしたが、

新しく作った反対側……
デラックスルームなどがあるフロアに、俺が使える
管理者部屋も増築したのである。

「それで、クラークさん、ミントさんが
 あの男の人を連れて来るのが見えたので。

 複製で料理を出し、コマチさんを護衛に
 スタンバイ・準備していました」

「で、でもいいのかい?
 こんなにあっさり中に入れちゃって……
 いや悪い人じゃないんだけどさ」

今度はシーフの女性冒険者が不安そうに聞き返す。

「まあ、まずは利益になる事を見てもらった方が
 早いと思います。

 料理人ならローラさんのように、一も二も無く
 承諾してくれる可能性もありますから」

「しかしあの人、相当な腕前だわー。
 元冒険者って言ってたけど、かなり強い
 人だったんじゃないの?」

コマチの言葉に冒険者の男女は反応して、

「そうなんですよ。
 何でも、凄腕すごうでの戦士だったとかで」

「そのせいか、アタシらのような若い冒険者の
 面倒見が良くて……
 駆け出しの頃から世話になってるのもあるし、
 頭が上がらないんだ」

二人がそれぞれ事情を語り―――
それを見た俺は団体部屋の方向を指して、

「じゃあ、ちょっと待ちましょうか。
 ハーレイドッグ子爵家が去ってから、みんな
 寂しがっているので……
 子供たちの相手でもしてあげてください」

「行こー!」

俺の言葉にグレンがクラークさんの腕を
引っ張り……
みんなで団体部屋へと移動した。



「いや、すごかった!

 あの調理道具といい、手法といい―――
 あれを覚えれば後10年は戦える!!」

ここは団体部屋があるエリアの反対側……
デラックスルームのある休憩エリアで、

そこの会議室にいったん集まり、改めて
エリックさんに事情説明を含めて話を聞く
事になった。

二時間ほどして、当人が厨房から出て来た時は……
その表情は料理人冥利みょうりに尽きる、といった体で、

「さすがにエリックさん、飲み込みが
 早かったですわ。
 魔道具もあっという間に使いこなして
 いましたし」

ローラさんも満足気な表情で……
そしてプリムちゃんは両手を腰につけ、なぜか
得意気だ。

「しかし―――
 王国が勇者召喚の儀式を行ったとは
 聞いていたが。

 我が国ながら、ホントにロクな事を
 しねぇな……」

一通り、こちらの事情も彼に説明すると―――
頭をガシガシかきながらこぼす。

「それで、どうでしょうか。

 秘密保持のために眷属になって頂きたいの
 ですが……」

「殺しや盗みに関わるって話でも無いし、
 まあ秘密は確かに守らなきゃならんだろう。

 ただ―――」

その言葉の続きに、俺の妻と護衛を交代した
パトラが、

「ただ?」

「何か不審な点でもあったかのう」

その聞き返しに、エリックさんは手を垂直に
立てて平行に振り、

「いや、料理の事だ。

 あんまり上等な調味料や高級食材を使ったら、
 どこに目を付けられるかわからねぇ。

 ここはスラムに近いし、客は冒険者中心に
 するっていうからいいんだが……
 俺の宿屋じゃ結構限られちまう」

「あー……」

「そりゃそうか」

クラークさんとミントさんが思わずうなずく。

「パンに使った『ぺーきんぐぱうだー』って
 ヤツか?
 あれなら特別な焼き方って言って
 ごまかせなくも無い。

 揚げ物とかも元がわからない加工品なら、
 いくらでも言い訳は出来る。

 まずはそこくらいからだな」

さすがに料理人。
すでに方針というか戦略は固まっていたようだ。

「ええと、後は……
 エリックさんのお店で、冒険者さんたちに
 声をかけて頂くと―――

 それは大丈夫ですか?」

リナが俺のサポートをするように、彼に声をかけ、

「ああ、任せてくれ。
 信用出来るヤツらを紹介しよう。

 それに……
 そこのパトラさんもそうだが、相当腕の立つ
 『店員』がいるんだ。
 うかつな事は出来んだろうさ」

こうして俺は新たに眷属を増やし……
また広報宣伝要員を獲得した。

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