上 下
65 / 200

65・眷属追加(貴族)

しおりを挟む

「スー……スー……」

ダンジョンの一室―――
静かな室内で、ただ少年の寝息が聞こえる。

ローラさんが用意した病人食を食べた後、
抗生剤を飲ませ……
ようやく落ち着いた感じだ。

「ここしばらく……
 こんな安らかそうな寝顔は見た事が
 無かったな」

「ええ、あなた」

ハーレイドッグ子爵夫妻が、我が子の眠る姿を
見て、安心したように一息つく。

「もう、大丈夫と見て良いのだな?」

アマンダ様がこちらに顔を向け、状況を
問い質してくる。

「そうですね。
 一応、危機は脱したかと。

 念のため一晩様子見して―――」

そこでチラ、とガド様の方を見た後、
ベッド上のロイ様に視線を落とす。

「……なんでも正直に言って欲しい。
 ここに来て、急激に容態が快方に向かったのは
 認めている」

子爵様の言葉に、俺はいったんコクリと
うなずいて、

「明日、熱が下がっていればもうお戻りに
 なられても問題無いと思います。

 慎重をすのであれば、5日ほどここで
 お休みになられた方がよろしいかと」

「ウム。
 確かにここは、環境も食事も申し分ない
 ように見える」

護衛の女性が、肯定するように同意する。

「……わかった。

 今日1日、私も世話になる。
 明日何事も無ければ、私だけ先に屋敷へ戻ろう。

 マリア、そしてアマンダ。
 ロイの事を頼む」

ガド様の言葉に、ブロンドの長髪の妻、
控えていた目つきの鋭い女性が頭を下げ、

「ええ」

「命に代えましても!」

そこで俺はふぅ、と軽く息を吐いて、

「コマチさん。
 リナを呼んで来てください。

 マリア様、アマンダ様は―――
 お風呂に入られてはいかがでしょうか。
 ここにはその設備も用意してありますので」

二人はその言葉に顔を見合わせ、

「で、でも……」

「護衛として、子爵様の側を離れるわけには」

するとガド様が片手を挙げて、

「いいから彼の言う通りにしなさい。
 ロイは私が見ておくから。

 それに、何かするとしたらとっくにもう
 やっているだろう。

 ここは安全だよ」

彼の言う事に彼女たちは納得したのか、
腰を浮かせていたイスに座り直す。

「さてと、その前に……
 何もかもしてもらった後から言うのは、
 気が引けるが。

 『条件』とやらを言ってくれ」

「あー……
 そういえばまだでしたね」

彼らは俺の言葉に目を丸くする。
そこで改めて条件を口にし、

「俺の眷属になって頂きます。

 これはかなり強力な制約があって―――
 生殺与奪せいさつよだつの権すら俺に握られます。

 ですから、一晩よく考えてからでも」

するとガド様はすっ、と手を挙げ、

「しかし……
 それならなぜ、先に眷属にさせなかったのだね?

 ロイの苦しんでいる具合から見て、私たちは
 一も二も無く承諾するしかなかったはずだ」

俺はその問いに眉間みけんに人差し指をあてて、

「その子―――
 ロイ様……病人が苦しんでいましたから。

 緊急事態と判断し、治療を優先しました。
 それだけです」

俺の答えに、アマンダ様が両腕を組んで、

「しかし、もうロイ様の具合はかなり回復
 したようだ。

 もしこちらが、眷属になるのを拒否したら
 どうするつもりなのだ?」

「……その場合は、この街にいる事は出来なく
 なりますので。
 この施設ごと俺たちは姿を消す事になると
 思います。

 ちょっとまあ、込み入った事情があるので。
 眷属にするのも、情報を流出させないためと
 言いますか」

それを聞いたマリア様が、体を息子の寝ている
ベッドに向けたまま、

「もし眷属になれば、その事情とやらを教えて
 もらえるのですか?」

その問いに、俺はコクリとうなずく。

「……わかった。
 眷属になるのを認めよう」

「子爵様!?」

ガド様が条件に合意する意思を示し、思わず
護衛の女性が聞き返すが、

「すでに息子を救ってもらったのだ。

 本来なら、条件を飲んだ後にしてもよかった
 ものを、彼らは治療を優先してくれた。

 そして今、だます事もせずに誠実に条件を
 話してくれている。
 何者であれ、信頼に値すると思うが」

その言葉に彼女は身を引き―――
そして改めて三人が、眷属になる事に合意した。



「で、では……
 我が国が召喚した勇者の1人だったと!?」

「子供だというだけで、口封じに
 殺されかけたなんて……!」

「なんと恥知らずな―――」

ガド・ハーレイドッグ子爵、
マリア・ハーレイドッグ子爵夫人、
そしてアマンダを眷属にした後、こちらの
事情を説明する。

もとは魔王に召喚された呼ばれたが、その最中に
クレイオス王国の勇者召喚の儀式に呼ばれて
しまった事。

自分を呼ぶのは想定外だったのか、すぐに
処分命令が下った事。

そこから逃げ出し、現在に至るまでの事などを。

「とまあ、そういう事ですので……
 俺が生きていると知ったら、あの王女は絶対に
 刺客とか差し向けると思うんですよね。

 こちらとしては元人間ですので、率先して
 人殺しはしたくないですし―――
 ダンジョンもご覧の通り、非殺傷のもの。

 立ち位置としては、ダンジョン管理者にして
 勇者、という事になっているらしいので……
 どちらにも肩入れはしたくないって感じです」

話し終えると、彼らはため息とも呆れとも
取れない息を吐いて、

「確かにそれは、秘密厳守しなければ
 ならない事ですな。

 クレイオス王国の一員として謝罪する。
 申し訳ない」

頭を下げる子爵様に俺は慌てて、

「ま、まあ眷属になってもらったのはそういう
 理由があったと理解してもらえば結構です。

 後は別に、配下として動けとか無理強いや
 命令はしません。

 ただこちらの商売に協力してもらえれば」

「でも、まさか王国が絡んでいたなんて……」

「あの王女、野心家とは思っていたが」

奥さんと護衛の女性も、複雑な気持ちを
口にする。

そこにちょうどノックの音が聞こえ、

「ヒロトお兄ちゃん?
 あ、そちらの方々ですね?
 お風呂にご案内するのは―――」

そこでまずは、女性陣から交代でここのお風呂を
経験してもらう事になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...