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45・夕食と捕食

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「何だこの肉……すげぇやわららかい」

「初めて食うもんばかりだぜ。
 それが全部ウマイってんだから―――

 あ、すいません!
 このホンジョウゾーってのもう1杯!」

クラークさんとミントさん、冒険者二人組が、
用意されたディナーに舌鼓したづつみを打つ。

今彼らが食べているのは、コンビニ弁当をお皿に
移し替えただけの物だが……
それとは別に唐揚げを串に刺したものとか、
フライドポテトといったカウンターで販売している
物も添えている。

そしてお酒―――
ビールは元より、発泡酒や缶のカクテル、
日本酒も試してもらっていた。

「どうでしょうかお客様、お味の方は」

私が執事のようにうやうやしく頭を下げると、
ルームウェアに身を包んだ赤毛の彼女が、

「いやもー最ッ高!
 この肉も魚も野菜も……
 多分もう、一生食えないんじゃないかって
 くらい」

「依頼を受けた貴族の接待でも―――
 これほどの物はないと思う」

短い金髪の筋肉質の男性も、味を賞賛する。
同時にこのクオリティを維持するコンビニ業界に、
俺は心の中で感謝をささげた。

『お客様』が一通り食べ終えたのを確認すると、
俺はリナとグレン君に目配せして、

「それでは、デザートを持って参りますので……
 少々お待ちください。

 リナ、グレン。
 2人は食器を下げ、テーブルの掃除を」

後片付けを彼らに任せ、俺はコンビニへと向かう。
すると、

「おお、ぬし

「マスターも食べてますー?」

店内で、魔狐マジカルフォックスのパトラと銀猫シルバーキャットのコマチに出くわす。
そして彼女たちの周りには、小さな子供たちが
キャッキャとくっついていて、

「俺は今、リナやグレンと一緒に接客中だから。
 食べるのは後だな。

 もうみんなはデザートかい?」

一瞬、子供たちの顔に影が差し―――
俺もヤバいと気付く。

俺たちよりも先に食べてしまっている事で、
罪悪感を持ってしまったのだろう。

俺は気を取り直し、

「パトラさんやコマチさんは、どれが一番
 好きですか?」

「うーむ。
 難しい質問じゃぞ、それは」

「まだ食べていない物もあるしねー」

と、気に留めてないふうを装い、

「では引き続き、子供たちのお世話をよろしく
 お願いします。

 君たちもちゃんとパトラさん、コマチさんの
 言う事を聞くんだよー」

しゃがんで子供たちの目線になって伝えると、

「「「はーい」」」

と、明るく返事が返って来て―――
それを確認すると俺はデザートを選び、コンビニを
後にした。



「お待たせいたしました。
 デザートでございます」

一番豪華で大きさもそれなりにある、
パフェ系の物を用意。

そちらは見た目もキレイなのでそのまま、
飲み物は暖かいお茶をカップに移し替え、
セットで食べてもらう事にした。

「う、うおぉ……」

「もう食えないと思っていたけど―――
 コイツは反則だよ」

さっそく二人はスプーンを持って、その料理に
差し込む。
ミントさんの方が早くそれを口に含み、

「あ……っ、ま~いっ!!」

「ここに来た時に食べたパンもそうだったが、
 また別格の甘さだ……!」

み締めるように二人は声をもらす。

そして彼らがパフェを平らげ、お茶も
無くなったタイミングを見計らって、
俺は声をかける。

「それではご就寝しゅうしんまで―――
 ごゆっくりおくつろぎください。

 施設についてまだご質問がおありでしたら、
 遠慮なく私か、当ダンジョンの従業員まで」

クラークさんとミントさんは立ち上がると、
それぞれ自室へと戻っていった。




「おや? どうされましたか。
 ミントさん」

深夜、時計の針が十一時過ぎを差していた時、
俺はホテルのロビーカウンターにいた。

久しぶりにお客様が来て、宿泊業務として
帳簿の処理を行っていたのだが……

そんな時、シーフの冒険者であるミントさんが
姿を現したのだ。

「ちょっとね……
 痛いわけじゃねーんだけど、何か体が
 だるいっていうか。

 そっちこそ、こんな時間まで起きていて
 大丈夫なのかい?」

「まあこれが仕事ですから。
 それに、子供たちを夜トイレに起こすためでも
 あるんですよ。

 でもお客様が眠れないとなりますと……
 何か考えませんと」

そこで彼女は両手の手の平を前に出して、
ブンブンと振り、

「いやあ、たいした事じゃないんだ。
 ちょっと疲れているだけだと思うから。

 何かこうガツンと、疲れがブッ飛ぶような
 モンがありゃいいんだけどなー」

天井を見ながら話すミントさんに対し、
俺は考える。

コンビニは出来たんだし、栄養ドリンクも
自販機だけの時よりは豊富になった。

それにここの世界の人間―――
しかも一般の労働層者に、いろいろと試して
もらうにはいい機会だ。

「そうですね。でしたら……
 効き目があり過ぎて眠気まで飛んでしまう
 可能性がありますけど、それで良ければ」

「あ、あるのかい!?
 いやそりゃー助かるけどさ」

目を白黒させる彼女に向かい、
『少々お待ちを』と言ってその場を離れ、

防火扉の向こうのコンビニから、いくつか
高めの栄養ドリンクを持ち出すと、それを
カウンターまで持ち帰った。

「こ、コイツか……
 確かにスゲぇ高価たかそう」

カップに中身を移し替える事はせず、ラベルも
そのままで持ってきた。
こういうのは、直接飲んでもらった方が
見た目的にもよさそうだと判断したからだ。

彼女はそのどれかに手を伸ばそうとするも、

「う……いや今さら警戒する必要は無いって
 わかっちゃいるんだが―――
 何か味がすごそう」

「あー……
 まあ確かに」

こういう場合はどうしたものか。
試飲か、それともストレートにやるのなら……

俺は一本のビンを取ると、そのフタを開けて
口につけた。

「……カーッ!
 あー、これ効きます……!

 成分的にはやっぱり値段が高い方が効くかと。
 確かこれが、今自分が飲んだのと同じくらいの
 値段で―――」

「い、いや。実際に飲んでもらわなくても。
 じゃあアタシはこれもらうよっ」

一本だけ持って行こうとするミントさんを、
俺は呼び止めて、

「あ、じゃあクラークさんにもこれを。
 彼も疲れているでしょうから―――」

「悪いな。じゃ、遠慮なく」

何本か栄養ドリンクを受け取ると、彼女は
そのまま廊下の奥へと消えていった。



「みんな起きてー。
 トイレの時間だよ」

俺は団体部屋で、眠っていた子供たちを起こす。

ちなみに今は、魔狐のパトラと、銀猫のコマチが
『元の姿』で子供たちと一緒に寝ている。

子供たちは合計二十人弱おり、添い寝するにしても
一人十人ほど引き受けなければならず、
その点、元の姿になれば馬ほどの大きさの
狐や猫になるので、全員をカバー出来ていた。

また、ベッドの大きさも求められたが、
今の俺のスキル『再現/05』レベルで、
ある程度はカスタマイズが可能となり、

キングサイズのベッドを二つ用意し、
それに合わせて部屋も拡張。
かくして全員が、パトラさん・コマチさんと
一緒に眠る事が出来るようになったのである。

……ってアレ?

「リナの姿が見えないんだけど」

そこでパトラさんとコマチさんが人間の姿に
なって、

「そういえば、ぬしに会いに行くとか言って
 おったような……」

「管理者部屋に行ってるんじゃ?」

うーん……
今やこっち側はコンビニもあるし、
どこかですれ違ったかな?

「わかった。
 じゃ、子供たちのお世話はよろしく」

そこで俺はいったん、管理者部屋へ
行ってみる事にした。



「……?
 あの、リナ……さん?」

目的地に着いた俺を待ち構えていたのは―――
恐らく大浴場から持ってきたであろう、
バスタオルに身を包んだ薄黄色のセミロングの
髪をした少女。

後ろ向きでテーブルの前に正座しており、
ダンッ! とビンをその上に置いて、

「あ~……ヒロトお兄ちゃん。
 お待ちしてましたよぉ~……」

良く見るとそのビンは栄養ドリンク。
しかもかなり高価なヤツで、

「ちょちょ、ちょっと待ってリナ。
 一体何を。それにその格好は」

「だってあたしはお兄ちゃんの奥さん
 ですからぁ~……
 夫の前でどんな格好したっていいじゃ
 ないですかあ~」

ジワジワとこちらににじり寄る少女。
栄養ドリンクの中には、アルコール成分が
入っているものがある。
それとカフェインで多分ハイになって
いるのだろう。

俺は思わず後退し、部屋の扉を開けて脱出を
試みる。しかし―――

「え? え?
 ひ、開かない!? 何で!?」

すると扉の向こうから、

「主よ、いい加減覚悟を決めい♪」

「これについてはミントさん含め、女子全員の
 合意を得ておりまーす♪」

パトラさんとコマチさんの声が聞こえ、

「お・に・い・ちゃん?
 お布団はそっちじゃないデスヨー?」

リナに背後から肩をつかまれ―――
そこで俺の運命は決まった。

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