割れ鍋に綴じ蓋

宮沢ましゅまろ

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「う……っ」

 ふかふかのベッドの上で、ルリは苦しそうに体を捩った。医者からもう間もなく産まれますよと言われたのが、およそ十日前。まさに今、ルリは卵を産み落とそうとしていた。

「ルリ……」

 ディアンは心配そうにルリの手を握っている。

「大丈夫なのかよ?」

 ルリの額の汗をタオルで拭いながら、ラントはダンへと尋ねた。卵を受け取るための準備をしているダンは、大丈夫だよと穏やかに言った。卵生ではないラントやディアンにとっては、卵を産むという感覚がどれほど辛いのかというのは想像がつきにくいのだろう。
 卵生の出産は、哺乳類の出産と比べると大分楽で、痛みよりもどちらかといえば快感が勝ると言われている。

 ルリはまさにその快感で苦しんでいるのだ。

「大丈夫……っ、ん……」

 どこか色を含んだ艶やかな声がルリからあがり、三人はこんな時だというのにごくりと唾を飲み込んだ。ダンの故郷の惑星に辿り着き、四人で共に生活を送る事になった当初はかなりぎこちなかった関係だが、今はもう完全に四人家族と言っても過言ではないくらいだ。

(さすがに恥ずかしい……かも)

 寝台の上で股を開き、三人の伴侶に見守られているこの状況は、中々にとんでもない光景だよなとルリは乾いた笑いを浮かべる。勿論、全員遊んでいるわけではなく真剣ではあるのだが、一種の倒錯的なプレイのようにどうしても感じてしまうのは否めない。

 既に散々四人プレイもやっている関係であっても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ルリ。足、もう少し開ける?」

「ああ……うん」

 ダンの言葉に頷いたルリは、恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも足を更に大きく広げた。ルリの尻の穴からうっすらと白い卵が見えるのを確認したダンは、もう少しだねと続ける。だが、どうしても上手く力が入らずルリは体から一度力を抜いた。

「仰向けよりうつ伏せの方が楽なんじゃないか?」

 地球では西洋医学で伝わっている仰向けでの出産が今も標準だが、卵を産み落とすなら他の体勢の方が楽なのでは? とラントが言う。物は試しと、ディアンはルリの体をうつ伏せにした。腹這いの状態で尻を高く掲げた姿になったルリは、下腹部に力を入れ踏ん張る。

 産まれそうになってから、実質既に四時間ほど経過しているので体力も相当消費されていた。そろそろ楽になりという気持ちも強い。ルリの頭の方に回ったラントが、ルリの頭を優しく撫でる。
 ディアンは、ふかふかのクッションをルリのお腹の下に入れて出来るだけ楽な体制にしようと頑張っていた。

「もうちょっとだ……!」

 ぐぐっと白い卵が出てくるのを見て、ダンが励ますように声をかける。この体勢はルリにあっていたらしい。

「うっ……ん! はっ……ん」

 一際苦し気で甲高い声が上がると同時、ころり、と柔らかいタオルの上に一つの丸くて白い卵が零れ落ちた。






「ラント、ディアン、ありがと。ごめんね、こき使っちゃって」

「気にしなくて良い。お前の産んだ子供なら、俺の子供も同じだ」

「私もだ、可愛いな」

 生まれた卵が孵ったのは、産み落としてから一か月後のことだった。子供の名前は、可愛らしい女の子でミルと命名された。中々にわんぱくな子で、先ほどまでで泣きじゃくっていたのだが、さすがに泣き疲れたのか今はすやすやと乳母車の中で眠っている。

 ミルをあやすために玩具を手に四苦八苦していたラントとディアンは、ほっとした様子で寝顔を見つめていた。

「君ら、本当にタフだね……」

 疲れ切った弱々しい声はダンだ。マイペースなダンは、今まで何だかんだ自分のペースで生きてきた男だ。ルリもどちらかと言えば自立しているタイプだったので、ダンとの相性は良かったのだが、子供に関してはそうはいかない。

 幼い子供が自立できるわけがないので、どうしてもペースを乱されてしまうようだ。
 ラントとディアンより、実の父親であるダンの方がどこか遠巻きに様子を窺っているが面白くて、ルリは笑う。

 ラントもディアンも、未だに自分たちがおまけでしかないと考えているようだが、ルリの中では既にダンと同じくらい大切な相手に変わっている。自身の気持ちに気づいた後、さすがに怒られるかと思いつつもダンへと告白をしたルリだったが、ダンはむしろ嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 ダンは最初からルリが全員を同じように愛するようになると分かっていたらしい。

 きっと、四人はこれからも仲良くやっていける。そんな確信があった。


【完】
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