割れ鍋に綴じ蓋

宮沢ましゅまろ

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一人目の男―ラントと付き合っていたのは大学生の時だ。当時のルリは太陽系の端にあるドリス星に留学していた。

 ラントは太陽系の外の惑星の出身だったが、地球人に限りなく近い外見をしていた。いや、近いというよりは上位互換といった表現が正しいだろう。まるでアニメにでも出てくるような華やかな美形だったラントは、何を思ったのか大学の入学式で出会ったルリを気に入り口説いた。

 はっきり言って全く好みではなかったので、ルリも最初は当然断っていたのだが、あまりにも一途なラントにいつの間にか絆されてしまい、恋人になったのが大学二年生の夏の話だ。

(最初は本当にやさしかったんだよなぁ……あいつ)

 ラントは、普段はちょっと俺様なのにルリに対しては紳士的な男で、その頃にはルリもすっかりラントに夢中になっていた。

 だが、その幸福は長く続かなかった。出会ってからずっとルリに優しかった男が突然牙を向いたのは、互いが社会人になって一年目のことだった。いつも通り、恋人の家を訪ねた先でルリが見たのは――他の相手と抱き合う恋人の姿だった。

 ラントがドン引きするほどの酷い浮気性だったことに、ルリはその日、初めて気づいた。思い返せば、時折おかしなことはあったのだ。家にいるはずなのにどんなにインターホンを押しても出てこなかったり、街中で誰かと腕を組んでいるラントの姿を見かけたという友人がいたりと確かに兆候はあった。

だが、出会った当初の一途さを知っていたルリは、まさかラントに限ってと考えていた。だから、気づくのが大きく遅れたのだ。

 一度だけの浮気なら、ルリは許せただろう。腹立たしくても、もう二度としないというのならば水に流して今までと全く同じ付き合いができる。ルリはそう考えていた。だが、その日以降もラントは決して浮気をやめることはなかった。

『なんでだよ!?』

『――悪ぃ』

 何度目かの鉢合わせでルリが怒ると、ラントはそう言って視線を逸らすだけで何も言ってはくれなかった。別れたいという思いと、別れたくない思いの間で悩みぬいた辛かった日々を思い出して、ルリは苦く笑う。全く好みではない相手と数年も付き合っていたのだ。間違いなく本気の恋だった。

 結局、耐えられなくなったルリは、卒業と共に男の前から姿を消した。
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