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●特別編~シュレネーの一夜
シュレネーの夜②
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「帝国領全体が仮装するって事?」
テオの帰宅後。一緒にお風呂に入りながら、僕はシュレネーの日という行事がどういうもなのかを尋ねねていた。帝都で最近流行っているとテオが魔法で作ってくれた泡の風呂の中、もこもこと湯船から溢れる泡で遊ぶ僕に、テオはにっこりと笑いかけながらうなずく。
「ああ。例外なく参加する事になっている。戦中の場合はさすがに不可能だが、それ以外は皆が参加している筈だ。とはいっても、俺やアシュリーは警備の責任者でもあるので、皆と混じってというのはもう十年以上ないがな。残念ながら」
(いや、全然残念そうな感じじゃないよね、テオ)
残念ながらという割には声は嬉しそうだ。元々テオはシュレネーの日自体があんまり好きじゃないんだろうなと何となく想像できてしまい、僕は苦笑した。昔から、テオはあんまり行事を楽しむっていう性格じゃなかったみたいだし、まぁ、予想通りではあった。
僕と出かけるのは楽しいしみたいだけど、その理由が、僕が楽しそうにしているのを見るが幸せって話らしいし。
「もう、そんな事言って、テオ。仮装するの元から嫌だったんじゃない?」
僕が後ろを振り返りながら体重をかけると、テオが苦笑していた。やはり図星らしい。
「テオなら、仮装似合うと思うけどな」
テオは誰が見ても美丈夫だと断言できる外見の持ち主だ。
やや感情が表に出にくいし、僕以外にはあんまり笑いかける事がないから愛想は正直あんまりないけれど、そんな部分を帳消しにするくらい、容姿は整っている。背も高く、程よく筋肉質な体躯は、どんな衣装でも映える筈だ。
「……仮装が嫌というよりは、街での交流があまり、な」
「交流?」
嫌そうに顔を顰めるテオが言うにこうだ。
シュレネーの日にはいくつかの規則があって、テオはその規則が正直に言って鬱陶しいのだと続けた。
その規則とは、
その一、相手の仮装を決して暴かない事。
その二、必ず誰かとお菓子、酒、花、宝石などを交換する事。
その三、交換相手とその日が終わるまで共に居る事。
この三つだ。
仮装を暴かないというのは、亡くなった者の魂を暴かかず、魂たちが現世で楽しんでいるのを邪魔するなという事なのでテオもそれは納得できるらしいのだが、残り二つは勝手に後から付け足した、いわば遊び要素らしい。
「ああ、なるほど。それって恋愛的な行事みたいな感じなんだね?」
「……ああ、そうだ、な」
言い辛そうに口ごもるテオに、僕は合点がいった。
テオは僕と出会う前は、中々に大人の付き合いが多かった人なので、想像だけど、女同士、いや男もかな? テオを巡る熾烈な争いがあったに違いない。
僕はそんなに誰かから迫られたことがないから分からないけど、あまりに人気があるというのも考えものなのだろう。
それに、騎士たちが護衛とか任務の最中で参加するなら、お酒の類は飲めないだろうし、テオとしては何の旨味も無いんだろうな。安価で食べられるって言うけど、貴族のテオからしたら別にそこは得にもならないだろうし。
僕としては、せっかくなので少しだけでも街で一緒に楽しめたならなって思ったんだけど、これだとさすがに難しいだろう。
一人で参加するって言うのはあり得ないしね。
(いつか、テオが引退したら一緒に行事に出てくれるかなぁ)
まだ三十代のテオなので、引退するのは相当先になるだろうけど、何となく僕以外の相手と過ごしたというのを聞いてしまうと、こう複雑なのでいつかは参加したいなと思う訳で。
僕が、「引退後なら僕と仮装して一緒に過ごしてくれる?」と、恐る恐るだけど素直にそう口に出すと、テオは僕の複雑な感情を正確に読み取ったらしい。真剣な表情で僕に口付けを落とすと、優しく抱きしめながら甘く微笑んでくれた。
「勿論だ。それに、好まない行事とは言ったが、ココともし幼い頃に出会って一緒に過ごせていたら、間違いなく大好きな行事になっていた筈だぞ?」
過ぎた事とは言え、過去のテオのそういう話にちょっともやもやしていた僕だけど、その言葉にご機嫌になったのは言うまでもない。
テオの帰宅後。一緒にお風呂に入りながら、僕はシュレネーの日という行事がどういうもなのかを尋ねねていた。帝都で最近流行っているとテオが魔法で作ってくれた泡の風呂の中、もこもこと湯船から溢れる泡で遊ぶ僕に、テオはにっこりと笑いかけながらうなずく。
「ああ。例外なく参加する事になっている。戦中の場合はさすがに不可能だが、それ以外は皆が参加している筈だ。とはいっても、俺やアシュリーは警備の責任者でもあるので、皆と混じってというのはもう十年以上ないがな。残念ながら」
(いや、全然残念そうな感じじゃないよね、テオ)
残念ながらという割には声は嬉しそうだ。元々テオはシュレネーの日自体があんまり好きじゃないんだろうなと何となく想像できてしまい、僕は苦笑した。昔から、テオはあんまり行事を楽しむっていう性格じゃなかったみたいだし、まぁ、予想通りではあった。
僕と出かけるのは楽しいしみたいだけど、その理由が、僕が楽しそうにしているのを見るが幸せって話らしいし。
「もう、そんな事言って、テオ。仮装するの元から嫌だったんじゃない?」
僕が後ろを振り返りながら体重をかけると、テオが苦笑していた。やはり図星らしい。
「テオなら、仮装似合うと思うけどな」
テオは誰が見ても美丈夫だと断言できる外見の持ち主だ。
やや感情が表に出にくいし、僕以外にはあんまり笑いかける事がないから愛想は正直あんまりないけれど、そんな部分を帳消しにするくらい、容姿は整っている。背も高く、程よく筋肉質な体躯は、どんな衣装でも映える筈だ。
「……仮装が嫌というよりは、街での交流があまり、な」
「交流?」
嫌そうに顔を顰めるテオが言うにこうだ。
シュレネーの日にはいくつかの規則があって、テオはその規則が正直に言って鬱陶しいのだと続けた。
その規則とは、
その一、相手の仮装を決して暴かない事。
その二、必ず誰かとお菓子、酒、花、宝石などを交換する事。
その三、交換相手とその日が終わるまで共に居る事。
この三つだ。
仮装を暴かないというのは、亡くなった者の魂を暴かかず、魂たちが現世で楽しんでいるのを邪魔するなという事なのでテオもそれは納得できるらしいのだが、残り二つは勝手に後から付け足した、いわば遊び要素らしい。
「ああ、なるほど。それって恋愛的な行事みたいな感じなんだね?」
「……ああ、そうだ、な」
言い辛そうに口ごもるテオに、僕は合点がいった。
テオは僕と出会う前は、中々に大人の付き合いが多かった人なので、想像だけど、女同士、いや男もかな? テオを巡る熾烈な争いがあったに違いない。
僕はそんなに誰かから迫られたことがないから分からないけど、あまりに人気があるというのも考えものなのだろう。
それに、騎士たちが護衛とか任務の最中で参加するなら、お酒の類は飲めないだろうし、テオとしては何の旨味も無いんだろうな。安価で食べられるって言うけど、貴族のテオからしたら別にそこは得にもならないだろうし。
僕としては、せっかくなので少しだけでも街で一緒に楽しめたならなって思ったんだけど、これだとさすがに難しいだろう。
一人で参加するって言うのはあり得ないしね。
(いつか、テオが引退したら一緒に行事に出てくれるかなぁ)
まだ三十代のテオなので、引退するのは相当先になるだろうけど、何となく僕以外の相手と過ごしたというのを聞いてしまうと、こう複雑なのでいつかは参加したいなと思う訳で。
僕が、「引退後なら僕と仮装して一緒に過ごしてくれる?」と、恐る恐るだけど素直にそう口に出すと、テオは僕の複雑な感情を正確に読み取ったらしい。真剣な表情で僕に口付けを落とすと、優しく抱きしめながら甘く微笑んでくれた。
「勿論だ。それに、好まない行事とは言ったが、ココともし幼い頃に出会って一緒に過ごせていたら、間違いなく大好きな行事になっていた筈だぞ?」
過ぎた事とは言え、過去のテオのそういう話にちょっともやもやしていた僕だけど、その言葉にご機嫌になったのは言うまでもない。
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感想ありがとうございます。
夢にまで出てきて光栄です。
確かにテオドシウスとココの二人なら、そういった会話をしているかもしれませんね。
ココも両親にテオドシウスを会わせたかったと思います。
もし両親が生きていたら、ココの結婚を二人ともとても喜んだでしょう。
地味に続編も冬辺りから更新していきますのでよろしくお願いいたします。
こんばんは(^+^)
素敵な作品を読めて、すごく胸いっぱいな気持ちです♪
ココが可愛すぎる〜♪♪
純粋で素直、穢れなし!
テオドシウス様は、かっこいいのに残念な感じもまた良し(^^♪
なんだか、心がポカポカします♪
番外編、まだまだ読みたいです!
2人が今後も幸せでありますように(*^^*)
また読み返します!
感想ありがとうございます!
嬉しいお言葉ありがとうございます。
ココは両親の教育や、ココに良くしてくれた使用人たちのおかげで真っすぐに育ちました。
辛い事もまぁまぁあった人生でしたが、テオドシウスと出会い、残りの人生は幸せに生きていくことになります。
いったん、おしまいとなっていますが、書きたいネタもあるため、また書ければなと思っています。
ありがとうございました!
28話まで読了。
皇帝陛下はじめ使用人一同が一致団結して外堀を埋めにかかっております(笑)。
さあ、ココを意識させるための更なる次の手は何なのか……。
楽しみに読み進めさせていただきます!
お返事大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
感想ありがとうございます。
テオドシウスは将軍としては優秀なのですが、真面目な恋愛経験がない為、周囲がちょっと頑張っています。
多分これからもずっと、周囲が見守りつつですが仲良くやっていくでしょう。
完結致しましたがいかがだったでしょうか?
楽しんでいただけていたら嬉しいです。