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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵

苦手な男③-1

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「それってつまり……話の空気が読めないって事だよね」

 俺の言葉に、シュナは「うん、まぁそんな感じかな?」と頷いた。

「どんな時でも、本音を伝えるのが当然だとジークは思ってるんだよ。竜人ってお世辞っていう概念自体が基本的にないし、はっきり相手に意志を伝える種族なんだ」

「そ、そうなんだ」

 俺はやや引きつった笑みを浮かべた。

 世の中には、お世辞が嫌いだから言わない人もいるとは思うけど、トラブルになるくらいなら適当に合わせる人の方が圧倒的に多いと思う。個人的に攻撃されているとか、相手がとにかく嫌いとかじゃない限りはだけど。少なくとも、仕事では俺はそうだ。

 この世界と地球でのその辺の考え方は変わらないと思うので、やっぱり竜人っていう種族自体が他の種族とは特別なんだろう。

「僕はジークと付き合いが長いからさ、あいつが変だっていうのをつい忘れちゃうんだよね」

「……あぁ、なるほど」

 シュナのその話に、俺は納得した。確かに気心が知れた相手って結構はっきり言ってくるし、時にきつい事も言ってくる。互いに遠慮がないことも多い。さすがにそれでも超えてはいけない一線はあると思うけど、シュナ自身がかなり自由なタイプだから、二人が付き合う分には問題にもならないんだろう。

(ジーク、喋り方は穏やかなのになぁ……)

 ジークは雑というか男らしい感じの口調をしているが、基本的に声のトーンは穏やかだし、言い方も別段威圧的ではない。失礼なことを言ってくる時もそれは変わらない。

 ただ、穏やかだからこそ余計に「ん?」ってなるのも事実だ。

「でも実際、慣れていない相手から見ると今みたいな感じだからさ、結構な頻度で反感を買っちゃうわけ。気にしない相手もいるから毎回ではないけど、僕もちょっと困ってはいるんだよねぇ。まぁ、僕も感情的になったり誰かにあたることはあるけどさ」

 シュナは、ジークと違って自身の言動に問題があると自覚があるだけまだマシなんだろうなと思う。

 人の振り見て我が振り直せということわざが日本にはあるが、本当に反面教師だな。ジークって。

 だけど、ジークの場合は言動に問題があるということを意識させないとずっとこのままなんじゃないか?

 個人的に、宇宙人みたい……もしくは漫画や諸説でよくある人の心が分からない系だなというのが、ここまでの俺の感想だ。

 いや、実際まぁ人じゃないんだけどさ。

(社会性の必要な世界では、嫌われたり疎まれないように言動に気を付けるのが一般的だけど、ジークの場合はそういう環境じゃなかったからだなんだろうなぁ)

 竜人という強い種族として生まれたゆえの弊害といったところか。

 まぁ、それにここは魔物が蔓延る剣と魔法の世界だ。俺の世界とは色々とすべてが違いすぎるのであくまで創造なんだけど。

 俺の世界での一般論がこの世界の常識ではないことは、もう骨身にしみてわかっていた。

(うーん。どう扱って良いのかちょっと迷う相手だなぁ)

 シュナは俺の困惑を余所に言葉を続ける。

「あ、でも、ジークはまだ竜人の中では全然まともな方なんだよぉ? まぁ、竜人は関係場ないちょっとおかしな嗜好はあるけど……。竜人って一般的に苛烈な性格だから、場合によってはすぐに襲い掛かってきたりするし、それを考えるとジークは付き合いやすい相手だと思う」

「え……っ、竜人ってそんな怖いの!?」

 シュナはフォローのつもりで言ったんだろうが、色々と聞き捨てならないワードに俺は思わず顔を引き攣らせて聞き返していた。

「……おい、シュナ。徹を脅かすな」

「あ、ご、ごめん!」

 ラインハルトがシュナを諫めるように低い声で言うと、シュナが慌てて謝って来た。

 安心しろと、ラインハルトは続ける。

「私も竜人に関しては数える程度しか会った事ないが、私が知る限りジークに関しては戦いや意図的に絡まれた際の反撃以外では、暴力を振るっているのは見た事がないから安心して良い。それにいくら他人からの目を気にしないとはいっても、竜人は馬鹿ではないからな。意味もなく出てきて好き勝手暴れることはない」

 俺は、その言葉にほっと胸を撫でおろした。

「良かったぁ。俺、結構最初ジークに気さくに話しかけちゃったし、もしかして実は習性とか関係なく、俺に対して苛立ってるだけの可能性もあるのかと思った……」

 何かしでかしていたらどうしようと思ったが、ラインハルトがこんな風に言うのなら、少なくとも理不尽な目にはあいそうにない。

 けれど、俺はラインハルトの言い方に「おや?」と首を傾げた。

 今の一連の口ぶりだと、まるでラインハルトが元からジークと面識があるかのように聞こえたからだ。

 全然顔見知りの感じがしなかったから、ラインハルトもてっきりジークとは初対面だと思っていたんだけど、明らかに全く知らないという言い方ではない。噂で知っているとかならそんな言い方はしないだろう。

「なぁ。ラインハルトって、ひょっとしてジークのこと前から知ってたりする……?」

 ラインハルトは、俺の言葉にどこか嫌そうに憮然とした様子で頷いた。

「……ああ。何度か一緒の依頼に関わったことはある。昔、冒険者だった時にな」

「あ、そうなんだ。え……でも……」

「え!? なんだ。ちゃんとジークのこと覚えてたんだ!?」

 どう考えても初対面ですみたいな対応をジークに取っていなかった? そう聞こうとした俺の言葉をシュナが驚きながら遮った。

 だが、驚く気持ちは分かる。

「知り合いには全く見えなかったよ……?」

 俺がそう言うと、シュナが「だよね!」と力強く同意する。

「ジーク、ちょっと気にしてたんだよねぇ。ラインハルトが全然目を合わせてくれないみたいな感じで。忘れられているのかも~って僕たち話してたんだよ~?」

(あ、そういうところはジークも気になるんだな)

 なんていうか本当に自由というか、自分本位というか……。もしかすると、ジークはラインハルトのこと友人の一人だと思っていたんだろうか。どう考えてもラインハルトの方はジークを友人だなんて思っていなさそうだけど。この態度からして、むしろ嫌っている感じだ。

「私が何であんな奴に声をかけてやる必要があるんだ」

 ラインハルトはシュナの言葉に、ふんと鼻で笑って見せた。まるで無視して当然と言わんばかりの態度に、やっぱり嫌いなんだと俺はちょっとだけ顔を引き攣らせた。

 どうやら意図的にジークを無視していたのは間違いない様だが……。

「えぇ……? ジークから聞いた感じだと、別に険悪ではなかったみたいなこと言ってたけどなぁ」

 ジークが気づいていないってこと? とシュナは困惑している。

 確かに、今までの話からすれば十分ありえる話だが、ラインハルトの場合は本当に嫌悪している相手にはむしろ冷たい言葉で罵る、もしくは嫌味くらい言いそうだけどなと俺は思った。

 ただ、どちらにせよ……今後は神子を守護する仲間として一緒に旅をする予定なんだし、適度に友好的な関係にならないとまずいんじゃないかな。

 守護者同士で協力しないと、神子を守りきるのは難しいだろう。
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