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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵
苦手な男②-2
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けれど、ジークのおかしな言動はその一回だけじゃなかった。
俺が何かミスする度、ジークは俺に対して嫌な指摘をしてくるのだ。
「何故、そんなことが出来ないんだ?」
「常識じゃないか?」
ジークの口調にも表情にも険はないし、さらっというだけで、こちらがどんな反応を返しても「そうか」と納得してそこで延々文句を言ってくる訳じゃないんだけど、結構引っかかる物言いが多くて、さすがの俺も何かモヤモヤしてきてしまい、ジークと居合わせると嫌な感じで緊張してしまうようになっていた。
シュナが顔を見せてくれるのに合わせて、ジークもついてくるんだけど、このやり取りがが十日も続くと正直げんなりしてしまう。
せめて、これが演技で本当は俺のことが嫌いだから嫌味を言ってきているみたいな感じなら、まだ俺としても対応の仕方はあるんだけど……。
嫌味で言っているわけではなく、おそらくポロリと口から出てしまったのだろうなというのが、ジークのその時の表情から毎回窺えて、俺は思わず言葉に詰まってしまい、今の所自身のモヤモヤを解消できていない。
仕事の取引先に居た嫌な人や、ネチネチ言ってくる人を対応する時のことを思い出しながら何とか耐えているが、出来たらジークにはお引き取り願って、シュナだけと話したいのが本音だ。
しかも、ジークのこのストレートに失礼な言い方は、俺だけではなく他のヒトにも容赦なく発揮されていて、ラインハルトもちょっと……いや、かなり怒っていた。
ラインハルトに、俺みたいな平凡でチビのどこが良いのかみたいなことを言ってしまったんだよね。
俺が平凡顔なのは間違いないし、この世界では俺も小柄なのでチビなのも本当なんだけど、ラインハルトはガチ切れしていた。ちなみに、たまたま居合わせたリチェルさんも無茶苦茶怒っていた。
すんなりジークが謝ったので、一応は怒りは治まったんだけどね。
シュナは「トオルは癒し系で可愛いよ」って慰めて来たけど、そっちはそっちで多分感覚がおかしいとは思う。
「……何なんだ、あいつは」
何度か続くジークの失言(?)に対して、最初は純粋に怒っていただけのラインハルトも、怒ると謝るのに、時間が経過するとまた似たようなことを繰り返すジークの様子に、さすがに何かおかしいと思い始めたんだろう。
うんざりとした様子でそう言ってきた。
まだ、夜会の男共の嫌味や何の利益にもならない自慢話のほうが耐えられる。
眉間に深い皺を寄せたラインハルトの言葉に、俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
ラインハルトは俺様だし、まぁまぁ高圧的なことは平気で言うけど、やっぱり生粋の貴族だからかさすがにやっちゃいけない境界線は分かっている。何か含むことがあってたとしても、時と場合によっては口には出さない。
俺も多分同じようなタイプだと思う。
まぁ、駆け引きで口に出さないラインハルトと違い、俺の場合は小心者だから口に出せないんだけどね。
ただ、ジークはそうじゃない。俺やラインハルトがよっぽど腹に据えかねないと多分言わないような言葉を、彼の場合は相手にそのまま平気で言ってしまうのだ。
(しかも、ジークに関しては一切悪気がないんだよね……)
最初は隠しているだけで物凄く嫌な奴なのか? と思ったんだけど、ジークは嫌味とかではなく、純粋に疑問だったり思っている事をぽろりと言ってしまっているので、ある意味では最強にヤバイ男だった。
多分、俺たちでいう人間関係における暗黙の了解みたいなのが通じないんだろうなと思う。
一応、こそっとシュナだけを呼び寄せた時に聞いてみたんだよ。シュナが最初に言っていた、俺がジークのことを苦手だって思うかもって件について。
変に取り繕っても話が通じないだろうと思ってストレートに。
そしたら――。
「ごめんね、トオル。あと、ラインハルトも……」
シュナは何と、俺と更に一緒に居合わせたラインハルトにも謝って来た。
大分、普通に話すようになっていたシュナとラインハルトだけど、やっぱりずっと張り合っていて子供みたいな応酬は続いていたので、俺もラインハルトもまさかシュナが素直に謝るとは思ってなくて驚いた。
しおっとなった艶々の耳と尻尾を見れば、シュナが本心から申し訳ないと思っているのが伝わってきて、俺とラインハルトは思わず互いに顔を見合わせる。
「ジークはちょっと人の常識が特に通じないって言うか、分からないって言うか……」
言葉を濁しながら、シュナはジークについて俺に色々と教えてくれた。
「ジークは竜人って種族なんだけど、竜人と人って近いようで一番遠い存在なんだよね」
「ああ、やっぱり人間じゃなかったんだ」
俺は、その言葉に正直ほっとした。人外だと思うと、奇怪な言動も納得できる。
竜人は、竜の血を引く種族で、全体的な割合で言えばかなりの少数派だと言われている部類に入る彼らは、竜の本能を色濃く残していると言われているそうだ。
獣人やエルフも人とは違う価値観を持っているし、人側から見れば思わず眉を顰めるような価値観も残っているので、結構人と衝突することは多いそうだ。獣人やエルフたちが、人の価値観を受け入れ難いなと思うことも割とあるし、そこは互いに種族や文化が違う以上は仕方ないものだとも言われてはいるが、そうは言っても仕方ないと納得できないこともどうしても出てくる。
「頭ではわかってても、感性や本能みたいなので無理だなって思うとやっぱり難しいじゃん? エルフとかドワーフは一部の習慣や思想を除けば人にかなり近いし、獣人もそんなにいつだつ逸脱はしないから殆ど問題にはならないんだけど……竜人は価値観が根底から違うって言うか」
すべてにおいて竜人は強烈なんだよねと、シュナは続ける。
「獣人の場合は一部凶暴な奴もいるけど、上位種がしっかりしてれば問題を起こすことも最近は殆ど無いし、博識な獣人がいれば、とりあえずは問題を起こさないくらいの言動は取れるようになる……というか、とるんだよねぇ。生存本能的で自己防衛をするためにって感じで。割と自由な僕たちでさえ、自分たちを守る為にではあるけど最低限の暗黙の了解は守るし、気を使う。でもさ、竜人ってそういう話の常識を超えて、本当自由なんだよねー」
獣人は肉体的な強さでは殆ど伝説みたいな存在である竜族と竜人に次いで頑丈で力がある種族だが、その反面魔法に関してはシュナみたいな特別な存在を除外すれば少し頼りない。
人と比べれば絶対数も少ないし、案外弱点も多く、匂いとか音とかの敏感な部分は利点でもあるけど欠点にもなりえるものだ。
だから、そういう弱点があるからこそ、獣人は他の種族に配慮したりする。そうしないと、無用な争いを生んで不利な立場に置かれてしまうのを避ける為に、獣人も腹芸を覚えたのだと軽快に言うシュナに、ちょっとだけ驚いたけれど、でもそれが対人関係を上手くやるコツだよなと俺は納得した。
勿論、優しい獣人も居るとは思うけどね。
「獣人と違って竜人は絶対的な強者だから、そういう感覚が理解できないんだよね~」
どうやら、シュナは竜人であるジークが強者であるがゆえ、ああいう言い方になるのだと言いたいようだ。
俺が何かミスする度、ジークは俺に対して嫌な指摘をしてくるのだ。
「何故、そんなことが出来ないんだ?」
「常識じゃないか?」
ジークの口調にも表情にも険はないし、さらっというだけで、こちらがどんな反応を返しても「そうか」と納得してそこで延々文句を言ってくる訳じゃないんだけど、結構引っかかる物言いが多くて、さすがの俺も何かモヤモヤしてきてしまい、ジークと居合わせると嫌な感じで緊張してしまうようになっていた。
シュナが顔を見せてくれるのに合わせて、ジークもついてくるんだけど、このやり取りがが十日も続くと正直げんなりしてしまう。
せめて、これが演技で本当は俺のことが嫌いだから嫌味を言ってきているみたいな感じなら、まだ俺としても対応の仕方はあるんだけど……。
嫌味で言っているわけではなく、おそらくポロリと口から出てしまったのだろうなというのが、ジークのその時の表情から毎回窺えて、俺は思わず言葉に詰まってしまい、今の所自身のモヤモヤを解消できていない。
仕事の取引先に居た嫌な人や、ネチネチ言ってくる人を対応する時のことを思い出しながら何とか耐えているが、出来たらジークにはお引き取り願って、シュナだけと話したいのが本音だ。
しかも、ジークのこのストレートに失礼な言い方は、俺だけではなく他のヒトにも容赦なく発揮されていて、ラインハルトもちょっと……いや、かなり怒っていた。
ラインハルトに、俺みたいな平凡でチビのどこが良いのかみたいなことを言ってしまったんだよね。
俺が平凡顔なのは間違いないし、この世界では俺も小柄なのでチビなのも本当なんだけど、ラインハルトはガチ切れしていた。ちなみに、たまたま居合わせたリチェルさんも無茶苦茶怒っていた。
すんなりジークが謝ったので、一応は怒りは治まったんだけどね。
シュナは「トオルは癒し系で可愛いよ」って慰めて来たけど、そっちはそっちで多分感覚がおかしいとは思う。
「……何なんだ、あいつは」
何度か続くジークの失言(?)に対して、最初は純粋に怒っていただけのラインハルトも、怒ると謝るのに、時間が経過するとまた似たようなことを繰り返すジークの様子に、さすがに何かおかしいと思い始めたんだろう。
うんざりとした様子でそう言ってきた。
まだ、夜会の男共の嫌味や何の利益にもならない自慢話のほうが耐えられる。
眉間に深い皺を寄せたラインハルトの言葉に、俺は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
ラインハルトは俺様だし、まぁまぁ高圧的なことは平気で言うけど、やっぱり生粋の貴族だからかさすがにやっちゃいけない境界線は分かっている。何か含むことがあってたとしても、時と場合によっては口には出さない。
俺も多分同じようなタイプだと思う。
まぁ、駆け引きで口に出さないラインハルトと違い、俺の場合は小心者だから口に出せないんだけどね。
ただ、ジークはそうじゃない。俺やラインハルトがよっぽど腹に据えかねないと多分言わないような言葉を、彼の場合は相手にそのまま平気で言ってしまうのだ。
(しかも、ジークに関しては一切悪気がないんだよね……)
最初は隠しているだけで物凄く嫌な奴なのか? と思ったんだけど、ジークは嫌味とかではなく、純粋に疑問だったり思っている事をぽろりと言ってしまっているので、ある意味では最強にヤバイ男だった。
多分、俺たちでいう人間関係における暗黙の了解みたいなのが通じないんだろうなと思う。
一応、こそっとシュナだけを呼び寄せた時に聞いてみたんだよ。シュナが最初に言っていた、俺がジークのことを苦手だって思うかもって件について。
変に取り繕っても話が通じないだろうと思ってストレートに。
そしたら――。
「ごめんね、トオル。あと、ラインハルトも……」
シュナは何と、俺と更に一緒に居合わせたラインハルトにも謝って来た。
大分、普通に話すようになっていたシュナとラインハルトだけど、やっぱりずっと張り合っていて子供みたいな応酬は続いていたので、俺もラインハルトもまさかシュナが素直に謝るとは思ってなくて驚いた。
しおっとなった艶々の耳と尻尾を見れば、シュナが本心から申し訳ないと思っているのが伝わってきて、俺とラインハルトは思わず互いに顔を見合わせる。
「ジークはちょっと人の常識が特に通じないって言うか、分からないって言うか……」
言葉を濁しながら、シュナはジークについて俺に色々と教えてくれた。
「ジークは竜人って種族なんだけど、竜人と人って近いようで一番遠い存在なんだよね」
「ああ、やっぱり人間じゃなかったんだ」
俺は、その言葉に正直ほっとした。人外だと思うと、奇怪な言動も納得できる。
竜人は、竜の血を引く種族で、全体的な割合で言えばかなりの少数派だと言われている部類に入る彼らは、竜の本能を色濃く残していると言われているそうだ。
獣人やエルフも人とは違う価値観を持っているし、人側から見れば思わず眉を顰めるような価値観も残っているので、結構人と衝突することは多いそうだ。獣人やエルフたちが、人の価値観を受け入れ難いなと思うことも割とあるし、そこは互いに種族や文化が違う以上は仕方ないものだとも言われてはいるが、そうは言っても仕方ないと納得できないこともどうしても出てくる。
「頭ではわかってても、感性や本能みたいなので無理だなって思うとやっぱり難しいじゃん? エルフとかドワーフは一部の習慣や思想を除けば人にかなり近いし、獣人もそんなにいつだつ逸脱はしないから殆ど問題にはならないんだけど……竜人は価値観が根底から違うって言うか」
すべてにおいて竜人は強烈なんだよねと、シュナは続ける。
「獣人の場合は一部凶暴な奴もいるけど、上位種がしっかりしてれば問題を起こすことも最近は殆ど無いし、博識な獣人がいれば、とりあえずは問題を起こさないくらいの言動は取れるようになる……というか、とるんだよねぇ。生存本能的で自己防衛をするためにって感じで。割と自由な僕たちでさえ、自分たちを守る為にではあるけど最低限の暗黙の了解は守るし、気を使う。でもさ、竜人ってそういう話の常識を超えて、本当自由なんだよねー」
獣人は肉体的な強さでは殆ど伝説みたいな存在である竜族と竜人に次いで頑丈で力がある種族だが、その反面魔法に関してはシュナみたいな特別な存在を除外すれば少し頼りない。
人と比べれば絶対数も少ないし、案外弱点も多く、匂いとか音とかの敏感な部分は利点でもあるけど欠点にもなりえるものだ。
だから、そういう弱点があるからこそ、獣人は他の種族に配慮したりする。そうしないと、無用な争いを生んで不利な立場に置かれてしまうのを避ける為に、獣人も腹芸を覚えたのだと軽快に言うシュナに、ちょっとだけ驚いたけれど、でもそれが対人関係を上手くやるコツだよなと俺は納得した。
勿論、優しい獣人も居るとは思うけどね。
「獣人と違って竜人は絶対的な強者だから、そういう感覚が理解できないんだよね~」
どうやら、シュナは竜人であるジークが強者であるがゆえ、ああいう言い方になるのだと言いたいようだ。
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