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第二章 婚約者編

第九話 まずは婚約者から始めましょう?②

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◇◆◇

「お世話になりました」

 フィン様の来訪から十日後。王宮の敷地内にある屋敷に移住するため、僕は慣れ親しんだ娼館の皆と別れの挨拶をかわしていた。ミネアたちはもちろんのこと、何だかんだ言って僕と親しくしてくれるようになっていた男娼の子たちも僕との別れを惜しんで涙ぐんでくれていて、何だろう。ちょっと……ううん、かなり嬉しい。

 最初のころは、結構ギスギスしていたけれど、フリードリヒ様と出会ってからの比較的短い時間で一気に彼らとの距離が近づいたんだから、本当何がきっかけになるか分からない。一緒に過ごす時間が増えたからなんだろうけど、

 ただ、同時に寂しいとも思う。何故なら……おそらくこれから先、僕がこの娼館に足を踏み入れることは二度とないからだ。

 娼館の外であれば、少しの間なら監視付ではあるが会話は可能だが、今のように対等の付き合いを彼らとするということはトーマの立場上できなくなると、はっきりとフィン様からは言われていた。

(本来なら、ただ外で会って話をすることすら難しい筈だから、大分譲歩はしてくれてるけどね……)

 僕はあの日の話し合いのことを思い出しながら、ため息を吐いた。





「婚約……?」

「はい」

 僕からフィン様に提案した話は非常にシンプルなものだった。

「いきなり僕らを結婚させるのではなく……婚約期間を設けて欲しいんです」

 僕がそう言うと、フィン様は少し困惑した表情を浮かべる。意図が読めないと言った様子で、僕の顔を覗き込むと諭すように口を開いた。

「さっきも言ったが、トーマが王配になるのは既に決まっている話だよ? それなのに必要なのかい? 正直なんの意味もない気もするのだけれど……」

「それは分かってます」

 頷いたら最後、僕が逃げ出せるような選択肢は二度とめぐってないことくらい理解しているし、別に僕は結婚したくなくて悪あがきをしているわけでもない。正直、元の世界から今に至るまで、一度として上流階級の人間と付き合えるほどの経験も知識も殆ど得たことがないので、僕に将来の王配が務まるかと言われると自信があるかと言われれば全然ないんだけれど、フリードリヒ様と一緒に居る為だと思えば頑張れると僕は思っている。

 イシュトさんを含めた他の皆は僕が王宮で辛い目に合うかもしれないと心配してくれていたが、生まれてからずっと、どちらかといえば劣悪で貧しい環境で育ったんだ。それくらいたいしたことじゃない。

 僕とフリードリヒ様を結婚させたいというフィン様の思惑の中には、純粋にフリードリヒ様の幸福を願っている以外にも何か理由があるのだろうとは思うが、むしろいくらおおらかなクリフォトとはいえ、皆が何の考えもなしに善悪や愛情だけで色々と行動してしまうほうが異常だ。

「僕らにも、互いのことをじっくりと考える時間が欲しいんです。たとえ、今仮にフリードリヒ様が僕に好意的だからといっても、これから先ずっとそうかという保障はありません。もしかしたら、フリードリヒ様が僕以外の相手との結婚したいというかもしれないでしょう?」

「それは……まぁ」

 たとえフリードリヒ様との結婚は決定していることだとしても、二人の気持ちが全く追いついていない現状のまま無理矢理夫婦にでもなろうものなら、どこかで綻びが生じる可能性は高くなる。心の距離が相手僕のことを避けるようになったりしたらどうなるかは分からないし、フリードリヒ様は女性よりは男性の方が好きだと言っていたので、次の相手も男性かもしれないが、僕以外にもと望むようになるのはおかしな話ではないだろう。

 僕は別に自虐で言っているのではなくて、フリードリヒ様と末永く幸せになるなら互いのことを知る婚約期間は後々のためにも絶対に必要だと思うのだ。

「僕は元々は内気で根暗な男です。この世界に来て色々あって精神的にも逞しくなりましたし、昔ほどおとなしい性格ではなくなりましたが、今まで僕は娼館のお客様としてフリードリヒ様を持て成していました。勿論、普通のお客様とは違いますし僕の好意はありましたけど……やっぱり仕事な面もあったので、僕がフリードリヒ様に見せていたのはほんの一面です」

「フリードリヒが聞いたら傷つきそうな話だね」

 僕の話に、フィン様は苦笑しながらも一定の理解をしてくれたらしい。なるほど、と頷くとふーとため息を吐いた。

「まぁ……フリードリヒも君の前では王族としての面は出来る限り見せない様はしていただろうし、お互い様かな。いいよ、その条件を飲もう。私としては、君の居住区を移せてフリードリヒがここに入り浸るのを辞めさせられればとりあえずは、目的は果たしたとはいえるしね」
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