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第二話

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ツキヤサイド

耳につくパチ…パチ…と何かが弾ける音で目が覚めた。

木の天井が見え部屋の中がユラユラとオレンジ色に染まっている。

痛みの感じる頭を横に向けると、そこには俺に背中を向けて座る長髪を無造作に束ねた男性の姿があった。

T「あ…あの…俺…」

「森で雨に打たれて倒れてたから…」

T「助けてくれたんですね…あ…ありがとうございます。」

俺にかけられている布団を軽くあげてみると見覚えのない服を着せられていて、部屋の中を見渡すと雨に濡れた俺の服が丁寧に掛けて乾かさられていた。

その男は俺の方を振り向く素振りすら見せずに背中を向けたまま何かをしている。

T「あ…あの…」

「まだ、雨が降ってる…朝までは外に出ない方がいい…今出たら…終わりだよ?」

落ち着いた声で淡々とそう話す背中は手を止めていて…なぜか俺は不安に襲われた。

T「あの…お名前を聞いてもいいですか?」

「名前を聞くなら自分が先に名乗るのが礼儀なんじゃないの…?少なくとも俺はアンタを助けたんだけど…」

そういう背中を見つめて俺はゆっくりと起き上がりベッドに座った。

T「助けて頂きありがとうございます…初めましてツキヤです…。」

俺がそう言い頭の痛みに耐えながら頭を下げるとその大きな背中が俺の方に振り向いた。

「俺はカケル…まだ寝てた方がいい…もうすぐ飯できるから…」

その顔にはまだ、あどけなさが少し残り、背中から漂う雰囲気とは全く想像の付かない容姿だった。

T「ありがとう…あの…ここは…」

K「何も知らずにここへ入ってきたの…?」

T「え?」

K「ここは吸血鬼の棲む森…だよ…」

そう言うとニヤッと彼は口角を片方だけあげて笑った。

その言葉を聞いて俺の血の気がサーっと引いていく。

一体、いつ間に俺は立ち入り禁止地区であるT地区に迷い込みこの森に足を踏み入れてしまったのだろう…?

確かその森には電流の流れるフェスあり俺の記憶にはそんなフェスをくぐった記憶もないのに…

いつの間に…?

T「お…面白い冗談ですね…」

K「冗談?冗談で人間を連れて帰ったりしない…」

なぜか俺は彼の紫色の瞳から視線をそらす事が出来なくて身体が固まった。

なのに不思議と恐怖心はなく…

その瞳はどこか寂しそうで悲しそうだった。

パチッ…パチッ…

暖炉から漏れる木の弾ける音が俺たちの呼吸音と混ざり合い火の揺らめく影が壁に映し出される。

T「…キミ…寂しい…の…?」

なぜ俺はそんな事を問いかけてしまったのかは分からない。

でも、彼の目を見るとギュッと自分の胸まで押しつぶされてしまいそうで苦しかった。

K「寂しい…っていう感情すら分からない…でも…」

T「…でも?」

K「ツキヤさんがここを去って初めて…俺は寂しいという感情を知るのかもしれない…」

その言葉を聞いて俺は何も返す言葉が見つからず、思わず自分の手をギュッと握りしめた。

K「まぁ…そう怖がらないで……飯出来たし食べて…」

そう言って彼は木の器にシチューをよそって俺の前に出した。

俺はそれを受け取れずに固まったままそのシチューをじっと見つめる。

K「吸血鬼の作ったシチューなんて毒が入ってそうで食えない?感染したら困るもんね?」

そう言って鼻で笑う彼。

彼のその言葉を聞いてきっと今まで沢山、傷つけられてきたんだろな…と不思議と理解出来た。

俺はそっとその器を受け取りスプーンでシチューを口に運ぶ。

その様子をチラッと見た彼は窓からチラッと外を見つめた。

K「雨…やんだよ…」

T「……。」

K「月が綺麗だ………」

そう言って月を見上げる彼の横顔は月明かりに照らされ俺の胸の奥を締め付ける。

T「………ねぇ…俺を殺すの?」

俺の言葉を聞いて彼は下を向いて苦笑いをしてまた、月を見上げる。

T「キミは本当に吸血鬼…なの?」

窓の外から月を見上げていた彼は視線を俺に戻し真顔のまま答えた。

K「そう…吸血鬼だよ。俺のことが…怖い?」

T「怖いっていうか…なんで吸血鬼なのに俺の血を吸わないの?なんで襲わずに助けたの?」

俺がそういうと彼はあどけない顔をして笑った。


つづく
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